忘れられない日/富田美憂の「私が私を見つけるまで」⑬

アニメ

公開日:2021/3/21

富田美憂の「私が私を見つけるまで」
イラスト:富田美憂

2019年11月15日。
お台場で「アーティスト」として初めて衣装を着て、皆さんの前で歌った日です。

ソロアーティストとしてデビューさせていただいたものの、キャラクターを背負っていない「富田美憂」という人間の歌を、果たしてどのくらいの人が見に来てくれるのだろうか、来ないんじゃないか、と、とにかく不安でした。

私は声優です。
「このキャラクターを演じている時の富田さんが好き」「キャラクターとして歌っている富田さんが見たいからライブにいく」こう思っている人が殆どじゃないだろうか。
それも、勿論嬉しいです。

でも私は、

サインを書いている時も、「私なんかのサインもらってくれる人いるかなぁ」ということを考えるくらい自分に自信はないし、消極的だし、弱い。

当日メイクをしていただいている最中も、不安が頭の中をぐるぐるしていたのを覚えています。

私はとても心が弱いです。自分で言うのもちょっと違うなって思うけど、せっかくのコラムなのでお付き合いください。

何かをする度に周りの評価が気になって仕方ないし、「怒られないだろうか」「悪口を言われないだろうか」「下手だって思われていないだろうか」「馬鹿だって思われていないだろうか」と考えてしまう。
だから誰かと比較されるのも、ネットで誹謗中傷を受けるのも、人並みに傷つくし、落ち込みます。
「期待しています」という言葉も、正直に言うと好きではないです。プレッシャーに耐えられないから。

キャラクターを背負っている時は、大丈夫なんです。キャラクターが隣にいてくれると安心するし、みなさんもキャラクターを通しての富田美憂を見てくれるから。

ソロ活動はそうではありません。
「富田美憂」というひとりの人間として、皆さんの前に立つ。いつだって不安と隣り合わせ。何故なら自分に自信がないから。

 

でも、あの日ステージに立ったとき、来てくださったみなさんひとりひとりが、温かい目で迎えてくれました。あの光景は、きっとずっと忘れません。

温かい声、顔。歌を聴いて涙を流してくれている方もいました。私の思い違いだったら申し訳ないけど、なによりみなさん幸せそうだった。

それを見ていたら「私でもいいんだ」と受け入れてもらえたような気持ちになりました。

よくライブの最後の挨拶で話すことなのですが、
ライブは歌い手ひとりで作り上げられるものではありません。
私がいて、私を万全の状態でステージに送り出してくれるメイクさんと衣装さんがいて、誰よりも近くで見てくれているマネージャーさんがいて、私を日々支えてくれているレーベルのスタッフさん方がいて、最高の瞬間をおさえてくれるカメラさん、ステージを素敵に彩ってくださる音響さんや照明さん、朝早く・夜遅くまで準備や片付けをしてくださるライブハウスのみなさん、そして、聞いてくださるあなた。
この中の誰ひとり欠けても、「ライブ」は完成しないです。

あの日私は、まさにこれを体現しました。

そういう意味でも忘れられない日になったと、はっきり言えます。

 

これからも関わってくださるみなさんに感謝して、その感謝を歌で返していくことが、私のやるべきことなんだと思っています。