なぜ彼らは何度も罪を犯すのか――無期懲役囚の著者が塀の中で出会った懲りない「チョーエキ」たちの本音
公開日:2021/3/24
受刑者を対象にしたルポルタージュは、巷に多くある。だが、『塀の中の残念なおとな図鑑』(美達大和/主婦の友社)はそうした類似本とは一線を画すノンフィクション本。なぜなら、著者自身が無期囚だからだ。
美達氏は殺人を犯し、刑期10年以上の受刑者が収容される「LB級刑務所」に服役中。自分の行為を反芻し、12年前には『人を殺すとはどういうことか 長期LB級刑務所・殺人犯の告白』(新潮社)を上梓。以来、塀の中からさまざまな著書を世に送り出している。
本書に収録されているのは、長い刑務所生活の中で出会った懲りない「チョーエキ」との対話。「チョーエキ」とはLB級刑務所の受刑者のこと。同じチョーエキだからこそ知れた本音や価値観に目を向け、彼らが何度も罪を犯す理由や何が更生のハードルとなっているのかを紹介。チョーエキたちの人生を通し、全うに生きることの大切さを訴えかけている。
涙もろい老人に共存する善と悪
美達氏は仮釈放を放棄し、1日の大半を単独室で過ごしている。他のチョーエキと話すのは週に2~3回設けられている外運動の時間。他所から移送されてきた者や他所への移送を待つ者など、これまでにさまざまなチョーエキと関わってきた。
本書には18人のチョーエキが登場するのだが、どの人物も思考や価値観、倫理観が常識の枠外で驚かされる。中でもゾっとしたのが、獄中生活通算60年以上の老人・順ちゃん(仮名)。
順ちゃんは教護院や少年院に何度も入っており、成人後に社会で正月を迎えたのはたったの1回。美達氏と出会った時は強盗殺人を犯していたが、実際に話してみると自己主張は強くなく、テレビで肉親との別れや再会、動物の出産などを見て泣く人だったそう。
そんな人がなぜ犯罪を…と思うかもしれないが、順ちゃんは自分のエゴのためとなると平気で人を傷つけられる人。それは、彼が強盗殺人に至った経緯からうかがい知れる。
“「あのね、またパクられたらチョーエキでしょ。それがいやだから刺すの(包丁で)。躊躇?ないない、初めから決めてるの」”
逃げたいから刺す。それで被害者が命を落としたら仕方がない。そう語る順ちゃんは、かわいそうになるため被害者のことは考えない、という歪んだ考えも持っている。
保身のためとなると、自分の中にある善よりも悪が勝ってしまう順ちゃん。彼は人間らしい温かい気持ちも持っているが、他者の苦しみや痛みを自分事として想像できない点が残念でならない。
自分が幸せならそれでいい。そう思ってしまう日にこそ、順ちゃんの生き方を反面教師にし、人生の歩み方を見つめ直したいものだ。
服役回数は10回。社会貢献を望む根上さん
本書には順ちゃんのような懲りないチョーエキだけでなく、社会復帰への意欲はあるものの更生のハードルが高く、何度も塀の中に戻る人生を送っている人も登場。
そのひとりが、薬物事犯で10回も服役している根上さん(仮名)。彼は20歳を超えたばかりの頃、彼女が他の男性に薬を打たれて帰ってこなくなったため、それなら自分と一緒にやればいいと考えて薬に手を染めた。以来、性欲が高まると覚せい剤を使用し、自ら警察や病院に飛び込むという人生を送っているよう。
だが、根上さんはそんな自分に嫌気がさしており、人生をやり直したいと考えている。きっかけは、2011年に起きた東日本大震災。刑務所で被災者の苦しみを知り、シャバに出たら世のために働こうと決意。出所後は資格を取得し、介護職に従事したが、結局は性欲がとっかかりとなり、覚せい剤に手を出してしまうのだそう。
根上さんのように社会復帰への意欲や他者を慮る心がある受刑者は第三者の協力があれば、チョーエキ人生から抜け出せる可能性がある。どうか、彼にはしかるべき機関から支援の手が伸ばされることを願いたい。
なお、美達氏自身は自分の罪を決して償えないものだと考えており、塀の中で一生を終える覚悟を固めている。一方で、出会ったチョーエキが更生を考えている場合には再び罪を犯さないよう、今後の生き方を助言している。
“人は塀の中と社会を往復するために生まれてきたのではなく、社会の一員として、天から自分に託されたであろう、あるいは自身だけにしかなりえない何者かになるために生まれてきたのです。それは当然、終生、犯罪者ということではありません。”
この言葉は美達氏が口にするからこそ、重みがある。残念なチョーエキたちの人生、あなたの心にはどう響くだろうか。
文=古川諭香