「フリーランス」の理想と現実が生々しい! だからこそ役に立つ『フリーランスの進路相談室』
公開日:2021/4/1
「フリーランス」という言葉と立場に、人はどういうイメージを抱くだろうか。「組織に縛られずに自由なんて羨ましいなあ」なのか、「生活が安定しなさそう、自分はムリ」なのか。しかし新型コロナウィルスの流行でオフィスへの出勤が激減したり、会社や仕事の状況が変わったり……というなかで、自分の今後を考え直している人も多いはず。会社員という立場から「フリーランス」へ、という選択肢が頭に浮かぶ……そんな人も中にはいるのでは?
この本は、そんな人にうってつけの1冊と言えるだろう。「フリーランス」として生きるにはどうしたらいいか、さまざまな人達に異なったテーマで行われた、14本のインタビューがまとめられている。ナビゲートしていくのはフリーランス1年目のライター・ミホ、フリーランス3年目のエンジニア・ショウタという2人で、この2人がインタビュアーとなることで「フリーランスのリアルな悩み」を引き出すという構成。そのため、とても読みやすい。ただ、よくある“フリーランス指南本”には「フリーランスとして生きていくためのHOW TO本」といった感のものが多いが、これはもう1歩踏み込んだ内容が多いのが特徴だ。
例えば、1本目のインタビュー「自分の可能性は広げていけばいい?」というテーマに登場するのは、NHKアナウンサーからフリーとなった登坂淳一氏。フリーになるという「新しい挑戦」をポジティブに紹介したかと思えば、2本目のフリーランス協会・平田麻莉氏のインタビューではいきなり「フリーランスって、自己責任?」というぐさりと来るテーマがやってくる。その後も続いていくのは、セルフブランディングはどうしたらいいか、家は買えるか、大きな病気になったらどうする、子育てと両立できるか……言うなれば“生々しい”話たち。なかには、フリーランスとしての将来に対して不安が増してしまうような、そんな内容も。フリーランスの人が読むとあいたたた……と胃痛をおぼえるようなくだりも多い。
しかし、だからこそこの本は“親切”だし、“誠実”だと思う。フリーランスのメリットとデメリット、双方をしっかりと伝えた上で、あくまでも生き方を選択するのは自分自身なのだから。なにより、営業の仕方やメンタルコントロール、保険や年金、2023年にやってくるインボイス制度も含め、フリーランスとして生きていくために知っておきたいことは、ほぼ網羅されているのでは? だからこそ今フリーランスを考えている人で、この1冊を読んで「自分には向かないな」と思えるなら、それはそれできっと正しい選択肢なのだ。
ちなみに。個人的に刺さった章は、編集者である竹熊健太郎氏に聞いた「フリーランスにならざるを得ない人は、どうしたら生き残れる?」というテーマ。フリーに“ならざるを得ない”人について「自分らしい働き方」や「組織になじめない人」というふんわりした表現ではなく、ADHDなどの発達障害の可能性も含めて言及している。もちろんリスクも大きなフリーランスという生き方だが、その生き方で救われる人がいるのも事実。この本でそういう点に気付かされ、自分に〝合った〟働き方を再考する、そんな人がいたら、それこそこの本の目指すところなのでは……そんなことを思うのだ。
文=川口有紀(フリート)