最後まで読むと必ず最初に戻りたくなる!? 『お探し物は図書室まで』で本屋大賞ノミネートの青山美智子さんによる、6人の悩める人々の物語
公開日:2021/4/7
本屋大賞にノミネートされた青山美智子さんの『お探し物は図書室まで』(ポプラ社)で、迷える登場人物たちに導きを与えるのは白熊のように大きな司書の女性の「何をお探し?」という決めゼリフ。このたび文庫化された『鎌倉うずまき案内所』(宝島社)でその役目を担うのはふたりの老人だ。
時計屋のわきにある狭い外階段を地下に降りていくと、たどりつくのが「鎌倉うずまき案内所」。何も置かれていない小さな部屋にいるのは、小柄な爺さんふたり。揃いの紺色ネクタイに、グレーのスーツ。同じ顔で、同じ背格好。彼らの第一声は、必ず「はぐれましたか?」。鎌倉の町で、目的地を見失って、さまよいこんだ語り手たちは、問われて気づく。自分は迷ったのではなく、人生の本筋から、あるべき場所から、はぐれてしまったのだと。そうして、誰にも吐露することのできなかった胸の内をぶちまける彼らに、老人たちは妙に軽々しく言うのである。「ナイスうずまき!」と。
やりたい仕事ができずにくさっている編集者の青年。YouTuberになるから大学には行かないと宣言した息子を受け入れられない主婦。そして、恋人からのプロポーズをOKしたものの、価値観の違いから迷いを捨てきれない女性。教室という狭い世界で、居場所を守るのに必死で、大事な友人を傷つけてしまった中学生。才能に行き詰まりを感じている劇団主宰者。「ナイスうずまき」をもらった彼らは、それぞれ、老人たちよりある意味クセの強い所長による“儀式”で啓示をもらう。そして悩みのうずまきから、どうにか脱出していくのだが……。
一見、関係なさそうな語り手たちが、アイテムや人を介してゆるやかに繋がっていくのは青山作品の魅力だが、今作でおもしろいのは時代がさかのぼっていくことだ。平成から令和に変わる2019年から始まり、それぞれの章で描かれる時代は、6年ずつ過去に巻き戻り、昭和の終わりにたどりつく。最初は、戸惑った。どうせ登場人物がリンクしていくのなら、迷いから脱出したその後が垣間見えたほうがいい、と思ったからだ。けれどそれが浅はかだったことは、読んでいくうちに気づく。
第一章で描かれる2019年の青年からみれば、第二章の2013年は過去だけれど、語り手である主婦にとっては切実な“今”だ。第一章に登場するフリーライターの青年は、第四章、2001年では中学生として登場するけれど、どちらの章でも彼は懸命に“今”を生きている。人生は、常に“今”の積み重ね。その瞬間の出会いや決断が、結果的に道となっていく。けれどそれはまっすぐな一本道などではなくて、少しずつ伸びていく螺旋階段――うずまきのようなもの。似たようなことに悩んで同じところをぐるぐるしているように感じながらも、実はほんのちょっとだけ上にのぼっている。そんな小さな変化をくりかえしながら、語り手たちも、読み手である私たちも、死ぬまで生きていくのだろう。
悩むことも、迷うことも、決して停滞ではないと本作は教えてくれる。読み終えたあと、「ナイスうずまき!」と自分に掛け声をかけてみれば、きっとほんのちょっと、前に進む元気が出るはずだ。
文=立花もも