怒涛の9カ月連続放送! 今の『転スラ』を見逃すな!③――『転生したらスライムだった件』設定制作・小林祐美子インタビュー
公開日:2021/4/5
スライムに転生してしまったサラリーマンが始める新しい異世界ライフ! 主人公リムルは彼を慕い集った数多の魔物たちと<ジュラ・テンペスト連邦国>を建国し、「人間と魔物が共に歩ける国」というやさしい理想を形にしつつあった。だが、この世界には、魔物に対して敵意を向ける存在がいた――。
『転生したらスライムだった件』は著者の伏瀬が小説投稿サイト「小説家になろう」で連載し、人気を集めた作品。川上泰樹によるマンガ版が執筆され、そのマンガ版をベースにアニメ化が行われた。アニメの第1期は2018年10月からスタート。第2期の第1部が2021年1月から3月まで放送され、4月からはスピンオフ作品『転生したらスライムだった件 転スラ日記』のアニメ版も放送開始。7月からは第2期の第2部が放送を予定している。
このシリーズでアニメーション制作を担当しているスタジオが、エイトビットだ。彼らは登山ブームを生み出した『ヤマノススメ』や、人気シリーズ最新作『魔法科高校の劣等生 来訪者編』を手掛けた制作スタジオ。アニメ『転生したらスライムだった件』を第1期から制作し、『転生したらスライムだった件 転スラ日記』のアニメ化も担当。第2期においてもその力を存分に振るっている。今回は『転スラ』の複雑な世界観や多数のキャラクターたちの設定を作り、取りまとめている設定制作の小林祐美子さんにお話を聞いた。アニメを作る上で大事な基礎部分となる設定は、こうやって生まれている!
転生前の主人公は日本人だから、異世界と和風が混ざったデザインにしました
――原作『転生したらスライムだった件』をお読みになった感想をお聞かせください。
小林:私はこの作品で初めて、「なろう」作品(小説投稿サイト「小説家になろう」で人気を集めている小説などの作品)を読んだんです。ただただ面白いな、と感じながら読んでいました。コミカライズ版も小説版も、ずっと楽しみながら読ませてもらっています。
――小林さんはどのタイミングで設定制作として『転スラ』に参加されたんですか?
小林:私は第1期のシナリオが全話上がるタイミングでスタッフに合流したんです。第1期のときはコミカライズ版をベースにしてアニメの設定を作っていたのですが、たとえば金属がどこまで普及しているのか、プラスチックは存在しているのか、といった世界観の基本的なところを、原作の伏瀬先生に確認しながら、監督たち(第1期監督は菊地康仁・第2期監督は中山敦史)やキャラクターデザインの江畑諒真さんとともに確認していきました。基本的に、そういった描写の部分は、中世のヨーロッパ的なものをベースにしています。
――原作者の伏瀬先生ともやり取りされていると思います。伏瀬さんはどんな作家さんだと感じていますか。
小林:建築業にお詳しいとのことで、街づくりや国づくりにご自身の知識を上手く作品に取り入れていかれているんだなと思いました。とくに美術設定を発注するときは、原作で記述されている建物や街の描写に気を付けていました。
――伏瀬さんとはどんなやり取りをしていますか。
小林:まず、設定を各設定の担当者さんにお願いするときは、原作小説の記述を抜粋して、参考の指示としてまとめてお渡ししています。そのあと、その担当者さんからラフの設定が上がってきたところで、原作チェックとして原作サイドにそのラフの設定を見てもらっています。そこで「街の中の道はもっとこんな雰囲気で」とか、そういうご指摘をいただいて、設定を完成形にもっていく感じです。
――第2期は人間の国が次々と登場します。ファルムス王国やイングラシア王国、獣王国ユーラザニアなど数々の国々、西方聖教会などが登場しますが、その違いをどのように描こうとお考えでしたか。
小林:伏瀬先生のイメージしている国があり、人口の規模感まで考えられているので、そこをベースにしつつ、監督がさらにイメージを固めてくださいます。たとえば、獣王国ユーラザニアだと広大な果樹園をみせたりと、視聴者の方々がひとめで国の違いがわかるようにしているんです。
――『転スラ』だからこそ作った設定があればお聞かせください。
小林:第1期では、ゴブリンの村から中央都市リムルに発展していく段階を、監督と相談しつつ、美術設定を作っていきました。第2期でも、リムルが国を大きくしていくなかで、今後、道路の機能を拡張する展開もあるので大きくしておいて欲しいなど、伏瀬先生からの原作ならではのご指摘もデザインに落とし込んでいます。あと三上悟(リムル)は日本人なので、彼が作る建物には異世界と和風が入り混じったかたちになっているんです。そこは『転スラ』ならではかな、と思っています。
一番多いキャラクター設定が作られているのは、やっぱりリムル
――第2期から新たに顔を見せるキャラクターも増えています。キャラクターのデザイン設定はどのようにつくられているのでしょうか。
小林:キャラクター設定はみっつばー先生や川上泰樹先生のイラストをもとに、ふたりの絵を活かしたデザインをしているので、事前におふたりの絵をかき集める作業を頑張りました。さらに、キャラクターごとの小説の記述を抜き出しています。キャラクターデザインの江畑さんはWEB版(小説家になろう版)から『転スラ』を読み込まれているので、WEB版と小説版の記述のすり合わせもしながらデザインを描いてくださっています。
――一番多く設定を作っているキャラクターは?
小林:やはりリムルが一番多く作られていますね。リムルは身長も変わりますし、細かいですが髪の毛の長さも伸びています。服装もいろいろあって、川上先生がリムルの服装のパターンを多く描いてくださっているので、それをもとに第1期のときの青いコートと、コートを脱いだときのインナー、半袖、それ以外に各話で着る服装などを作っています。あと、裸の設定もありますね。たぶん衣装だけで10パターンくらいあると思います。魔王化したときには、新しい衣装に変わるので、そこもぜひ楽しみにしてください。
――『転生したらスライムだった件 転スラ日記』とは、どのように統一感を取り、どのように別作品観を出していくのか。お考えになっていることをお聞かせください。
小林:『転スラ日記』では別の設定制作が立っているんですが、本編で描かれていないテンペストの生活を描いているんです。登場するキャラクターが多いので、『転スラ日記』のキャラクターデザインを起こすときの参考に、本編のデザインを使ってもらっています。あと「テンペストの、この建物の設定は、本編で今後作りますか?」と聞かれることも多くて、そのあたりは『転スラ日記』側で作ってもらうものもありました。たとえば、テンペストに住んでいる国民(モブ)のキャラクター設定は『転スラ日記』でかなり多く作ってもらっています。中には、魚人みたいなキャラクターもいて、「ああ、これは本編にいなかったキャラクターだな」と思いました。
あと、日常生活を描いているので、本編で出ているキャラクターたちも衣装替えをしているんです。リムルだけでなく、ミリム、シュナ、シオンも新しい衣装で登場します。テンペストの中の鬼人たちの家も、『転スラ日記』で初登場ですね。念のため本編の監督(中山敦史)にも設定を見てもらっているので、もしかしたらいつか本編で『転スラ日記』の設定を使うことも……あるかもしれません(笑)。
他の作品のスタッフさんからも「『転スラ』のキャラ数はえげつない」と言われます(笑)
――第2期後半クールはどんな設定をお作りになっているのでしょうか。
小林:第2期後半クールでは戦いが始まるんですが、その規模がすごいことになっていて。小説の記述だと2万対3万とか、すごく大規模な戦闘になっています。テンペストのメンバーも軍団に分かれて行動していくんですが、それぞれも3,000くらいの規模で動いていますし、衣装も変えていかないといけない。監督と頭を抱えつつ、デザイナーさんにいろいろなパターンを描いてもらっています。軍団のモブのコスチュームも見ていただけると嬉しいです。
――第2期後半では、かなり強力な存在も登場しますね。
小林:視聴者のみなさんが気になっているだろう魔王たちも、江畑さんに頑張って描いてもらっています。
――本編では、みっつばー先生や川上先生が描いていないキャラクターも登場していることがあります。こちらはどのようにお作りになっているのでしょうか?
小林:伏瀬先生や監督からざっくりとしたイメージを伺いつつ、キャラクターデザイン側でも大ラフを切り、先生に見てもらっています。そのうえで先生からフィードバックをいただいて、それをしっかりと反映して完成形にしていくんです。アニメ側で先に起こしたキャラクターは、コミカライズ版の川上先生のところにお渡しするようにしていて、のちのコミカライズ版で登場していたり、そのあたりはお互いにやり取りしながら作っていけていると思います。
――第2期は第1部のあとに『転スラ日記』がオンエアされることになるわけですが、本編のスタッフのみなさんはそのまま第2期第2部を作り続けているんですよね。
小林:そうですね。『転スラ』はキャラクター数が多いので、ずっと設定をつくり続けています。他の作品に関わっているスタッフさんからも「『転スラ』のキャラ数はえげつない」と言われるくらいなので(笑)、いかにスケジュール通りにデザインをあげていただけるか、試行錯誤しつつ頑張っています。
TVアニメ『転生したらスライムだった件 転スラ日記』公式サイト
取材・文=志田英邦
小林祐美子(こばやし・ゆみこ)
『転生したらスライムだった件』第1期から設定制作を務める。小説版第12巻~16巻に付属したOAD版でも設定制作を務めた。