約17年続いた大作漫画『大奥』ついに完結! “男女逆転”大奥は、最終巻でどうなる?
公開日:2021/4/14
本記事は最終巻の内容を含みます。ご了承の上、お読みください。
江戸時代の将軍や大名は女性で、大奥には男たちがいた。
その斬新な設定から世の中に衝撃を与え、ドラマ化・映画化もされたよしながふみさんの『大奥』(白泉社)。1巻刊行は2005年のことである。そして2021年3月、19巻発売をもって完結した。
まずは本作の始まりを振り返ってみたい。
家光が日本を治めていた頃、男性のみがかかり死に至る疫病「赤面疱瘡」が流行した。それに伴い男性人口は激減、武家や町人、農民も、女性が跡を継ぐことが当たり前になった。そして物語は、吉宗が八代将軍になったところから始まる。
2巻からは時代が遡り、赤面疱瘡で三代将軍・家光(男性)が亡くなったくだりが描かれる。彼が町人の女性に産ませた娘は突如将軍にされ、家光として生きるのを強いられる。彼女の最愛の側室で最初の大奥総取締役になり、後の大奥に多大な影響を与えたお万の方も、男性として登場する。
それからは、順を追って将軍たちの生き様が描かれる。
三代将軍・家光から最後の十五代将軍・慶喜まで。
「男女逆転」と銘打たれることの多い本作だが、実はこの間の将軍のうち、子どもの多い十一代・家斉、十二代・家慶、写真の残っている慶喜は男性である。家斉が子どもの頃に赤面疱瘡の予防接種が成功し、それから男性人口は増えていくが、「疫病を治すためにどのような犠牲があったのか」「女性将軍が続いた直後、男性の将軍はどのように思われていたのか」なども注目してほしいポイントだ。
今回発売された最終19巻を読むとわかるが、十四代・家茂(女性)の正室である和宮、勝海舟、西郷隆盛などは史実どおりの性別だ。一方、幕末まで大奥で生きた十三代・家定の正室・天璋院や最後の大奥総取締役・瀧山は史実と異なり男性である。
写真が残っているのに、なぜ天璋院が男性なのかという謎も、最終巻で明かされる。
幕末と言えば歴史上に名を残す人物が多い。しかしあくまでも本作は「大奥」の物語。19巻のもっとも大きな出来事は江戸城で無血開城が成し遂げられるまでの経緯だ。江戸にいる人物や無血開城に深く関係した人物のみに焦点があてられる。
振り返れば、三代の家光の時代は戦国時代が終わってからそんなに年月が経っていなかった。平和のため、春日局(史実どおり本作でも女性)は時には鬼のように人を殺し、家光の血を継いでいくことを優先した。
「後継ぎを作らなければならない」
これは男女問わず、将軍たちに課せられた義務だ。大奥はそのための場所で、どの将軍も悲しい人生を送る他なかった。愛する人とだけ一緒にいることは叶わない。決して「男女逆転ハーレム」の物語ではないのだ。
大奥を去る前、瀧山は言う。
“皆これからは新しい世の中で生きてゆくのだ
そうでなければ人は生きられぬ”
そして、瀧山は過去に思いを馳せる。大奥の最初の総取締役・お万の方は、大奥のような悲しい場所がいつかなくなることを望んでいたのかもしれないとも述べるのだ。
将軍たちが女性であったという記録はすべて燃やされ、大奥を出て明治維新を迎えた男たちは将軍が女性であったという事実を伏せる。
ならばなぜ、将軍たちはあんなにも苦しみもがいて生き続けたのか。あれにはどのような意味があったのか。
ラストは明治4年だ。ネタバレは避けるが、最後のページの天璋院の言葉を読んでほしい。そこに一つの答えがある。
『大奥』19巻の特装版小冊子には、作者と、映画版・ドラマ版でW主演をした俳優・堺雅人さんの対談や、萩尾望都さんなど有名漫画家たちからのイラスト入りメッセージが収録されている。112ページに及ぶその特装版小冊子では、作者の『大奥』にかけた思いと、完結した今の心情が余すところなく綴られている。
19巻と併せて読むと、『大奥』の凄みがより強く心に残るはずだ。
『大奥』は漫画史に名を残し、完結した後もたくさんの人々を魅了していくだろう。
文=若林理央