酒村ゆっけ、が目指すのはポスト吉田類か!? 安価で酒と料理を楽しむ秘訣は、ストロングゼロや「焼肉きんぐ」を擬人化する想像力にあった!
更新日:2021/4/10
全国各地の酒場を求めて彷徨う居酒屋探訪家といえば、『酒場放浪記』の著者・吉田類を思い浮べる人が多いだろう。だが、1949年生まれの彼に続かんとばかりに、昨今、パリッコやスズキナオなど、若手飲酒シーンの代表的人物も次々に著作を上梓している。
彼らの活動については、 以前ダ・ヴィンチニュースで著作を書評したので参照していただきたいが、本記事でとりあげるのは、「ネオ無職」を名乗る酒村ゆっけ、という女性。ツイッターのフォロワーは5万人を超え、YouTubeでは飲食の模様をライヴ配信するなどし、次代の飲酒シーンを牽引するだろう人気者である。
そんな酒村氏の『無職、ときどきハイボール』(ダイヤモンド社)は、安くて美味い酒場や料理屋に赴き、文章で食レポをする記事がメイン。鳥貴族やサイゼリヤから吉野家まで、飲食店のメニューや値段、客層などを仔細に記述しており、実践的な情報も多く含まれている。
面白いのは、酒村氏がアルコールを恋人に見立て、擬人化するくだりだ。詳細はネットにもアップされているが、ストロングゼロは「正真正銘のダメ男」、角ハイボールは「安心感しかない旦那」、鬼殺しは「離婚歴もあり、孤独を背負った50代」など、名フレーズの連発。
また、擬人化の最たるものが、「焼肉きんぐ」で肉を食らう以下の文章だろう。
すき焼きの甘いタレをたくさん吸収して、ふにょふにょになった肉を卵黄に絡めた瞬間「もう離れられないよ」と束縛してくる。これは地雷系男子だ(中略)共依存に堕ちていくのは目に見えている
隠れ家的な名店を紹介する本ではない。むしろ、安価なチェーン店でいかに独自の愉しみ方を見つけるかに力点が置かれている印象だ。そして酒村氏は、それらの店で自分なりのちょい足しレシピを考案する。
例えば、「いきなり!ステーキ」では、ガーリックパウダーと塩こしょうとコーンをご飯と混ぜ、ガーリックライスを創ることに成功。大阪の「福政」という店では、豚足にニンニクを追加すればするほど、ラーメン二郎の味に近づくことに気づく。その果て無き発想力には恐れ入るばかりだ。
また、軽妙で明るく清々しい文体も本書の明るいトーンとマッチしている。繰り出すボキャブラリーは多彩で、ユーモアや自虐を織り交ぜた筆致も実に魅力的。エッセイストとしての彼女の才能にも確かなものを感じる。
ちなみに、筆者が外で酒を飲む時よく利用するのは、ファミレス大手のジョナサンだ。平日の18時までなら(※)、ビールとハイボールが半額。サイドメニューを2品頼み、生ビール(プレミアムモルツ)を2杯飲むと、会計は約1000円である。さらに、焼酎とドリンクバーを頼み、ジュースやコーラで割って飲むのも愉しい。本来ドリンクバー単体は399円(税込439円)なのだが、焼酎+ドリンクバーのセットは、なんと499円(税込549円)、つまり焼酎は100円(税込110円)なのである!
たとえ所持金が少なくても、想像力を駆使して戦略を練れば、そこそこ美味しい酒や料理が安価で飲み食いできる。つまりは、当人の創意工夫で豊かな時間が過ごせるはず、という思考法が本書の基底を成しているように思う。酒を愛してやまない酒村氏が提示しているのは、そんなポジティブな精神ではないだろうか。
文=土佐有明
(※店舗によって異なります)