五感への刺激が優秀な子を育てる⁉ 実際に経験したことで得られる「体験学習」の大切さ!/わが子が勉強するようになる方法 ②
公開日:2021/4/11
中学受験を取り巻く社会環境は大きく変化し、今までの受験対策では対応できなくなっています! 偏差値が高くても試験に落ちることも。そこで、「伝説の家庭教師」が、自分の力で生きていける子どもを育てるための、38の実践的なルール・方法の中から抜粋してご紹介します。
五感への刺激の積み重ねの重要性
近年、都心の高層マンションが大変な人気ですね。景色を一望できる上階に住むというのが、憧れのライフスタイルとして盛んにもてはやされています。
でも、私は高層マンションの上階に住む子どもは才能が開花しづらい傾向にあると感じています。比較的、教育熱心な母親が多いためでしょうか、子どものレベルの平均値そのものは高いのですが、
「この子はスゴイぞ」
という子どもの割合は低いように感じます。
それは、高層マンションという住環境を完全にコントロールされたなかで育つと、刺激が少なすぎるからだと思っています。
タワーの上階に住んでいると窓を開ける機会も少なくなりますし、風が吹く音や雨が降る音、鳥の鳴き声といった自然界の音もまったく聞こえません。廊下にはカーペットが敷かれていて、靴音などもしないのです。
上手に刺激を与えれば与えるほど成長する子どもの時期に、こういう環境で育つのはあまりよくないのではないかと感じています。いろいろなものを触った、見た、匂いをかいだというような視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚の五感への刺激を小さな頃から少しでも多く積み重ねてほしいからです。
でもそれは、高層マンションに限らず、都会に住むすべての子どもが抱える問題だとも言えます。
土を触れば、そこには香りや温度、湿度があります。その土には雑草が生い茂っていて、季節ごとの野草を知ることができます。掘り返せば、さまざまな昆虫たちがそこで暮らしていることを知るでしょう。
単に植物の写真を見て「きれいだね」と疑似体験するのと、そういった緑や土の匂いといった五感とともに記憶に刻まれているのとでは大きく違います。
積み重ねていけば、たとえば国語の問題を解いている時も、五感を使って主人公の心情や情景を理解することができるようになるのです。
炎を見たことがない、身体感覚に乏しい子どもたち
そういった皮膚感覚や身体感覚をともなった経験の量と質が、その子の将来に少なからず影響を与えていると感じています。
ある子どもに、理科の「燃焼」の単元を教えている時のことでした。
「木炭って、何かわかるか?」
と私が聞くと、
「わからない」
という答えでした。その後、このようなやり取りになりました。
「炭だよ。バーベキューの時に使う真っ黒いやつ。知ってるかな?」
「バーベキューしたことないもん」
「そうか、炭を見たことがないんだ。じゃあ覚えておいてね。木炭のように個体がそのまま燃える場合は、炎をあげずに赤くなって燃えるんだよ。炎は気体が燃えるから出るんだ。キッチンのガスコンロは、都市ガスという気体が燃えるから、炎が出るんだよ」
「わからない。だって家のキッチンのコンロは火が出ないもの」
そういえば、この家はオール電化でした。
電車が電車を追い越す感覚がわからない
もう一つ、身体感覚に乏しい例を挙げておきましょう。
小学5年生で通過算の問題をやっても、なかなか理解できない子どもがいます。
それは、列車に乗ったり車窓を眺めたりという経験が少ないために、「列車が別の列車に追いつき、やがて追い越す」という感覚がわからないのです。
さらには、通過算の苦手な子どもの多くは、時計算も苦手な傾向があります。
短針はゆっくりと動き、その短針を長針が何度も何度も追い抜いていく、ということが理解できないのです。
「1時と2時の間で、時計の長針と短針が90 度になるのは何時何分でしょう」
という問題があります。1時の短針を書かせたあと、
「90度になる長針を、だいたいの位置でいいから書いてごらん」
と言ってもそれができません。
近ごろの時計はとても性能がよくて、時刻が狂ったから針を回して合わせるという機会がほとんどありません。デジタル時計も多いですから、
「短針を追い抜いたあと、この場所まで長針をまわせばいいんだ」
と、ほんの少し先の状態を予想しながら針を動かし、止めることができないのです。
そういう子どもを見るたびに、体験というのは本当に大切なことだと、近ごろますます強く感じるようになっています。
「納得」して学習する基礎の蓄積
今、第一線で活躍している著名な知識人の書いた伝記やエッセイを読むと、幼い頃から昆虫に夢中になっている人がかなり多いことに気づきます。
生物学者の福岡伸一さんはもちろん、解剖学者の養老孟司さん、故人では精神科医であり作家でもあった北杜夫さんも、幼い頃からファーブルに憧れて、昆虫採集に熱中していたそうです。最近では俳優で東大卒の「カマキリ先生」こと香川照之さんも人気ですね。
そういったエピソードを知ると、テストの成績とは直接的には関係ない、こういった遊びの経験が、どれだけ幼い子どもの頭と心の栄養になっているかがわかります。
小学4年生以降になると、単に暗記したり機械的に問題を解いたりするのではなく、「理解」や「納得」を積み重ねながらの学習が必要になります。でも、4年生までにそういった昆虫遊びなどのさまざまな経験がなければ、納得して学習するための基礎が、その子どものなかにそもそも蓄積されていないのです。
カエルを解剖して知る生物の仕組み
私の教えている生徒のお父さんに、岡山県出身の歯科医の方がいます。その人は自分が小学3年生の時、雑誌に出ていたフナの解剖の記事に興味を持ち、親に解剖バサミを買ってもらったのだそうです。
そして、ちょっと残酷な話ですが川に行ってカエルをつかまえ、解剖してみたそうです。解剖したカエルの心臓を取り出してみたらビクビク動いていて感動した。食塩水に浸けると心臓の鼓動が長くもつと書いてあったので、やってみたら確かにそうだった、と話していました。
さらに、2匹のカエルの心臓を取りかえてみたらどうなるか興味を持ってやってみると、まあ当たり前なのですが、2匹とも死んでしまいました。でも、このまま捨ててしまうのはかわいそうだからと、最後はライギョのエサにした、というのです。
この話を聞いて、そこまで実験心に富んだ小学3年生がいるのかと、これまで多くの子どもたちを見てきた私も驚きました。
近年は賛否両論ありますが、こういった生きた体験ほどすばらしいものはありません。そうやって自分で興味を持ち、見て、実際に触れた感覚というのは決して忘れないものです。それがのちに、人生の豊かな素養となるのは確実です。
脊椎動物や節足動物が何か知っているか
たとえばこういう問題があったとします。
「無脊椎動物のなかの節足動物のなかの多足類は何ですか?」
すると、最後の「多足類」という言葉だけに反応して、「タコ」と答える子どもがいます。
原因は二つ考えられます。一つ目は、言葉理解の不注意で、「多足」だけに反応してしまったことで起きた勘違いです。二つ目は、「節足動物は硬い」という身体感覚を持っていなかったから。小6生でも「タコ」と答える子はいますから、二つ目が原因になっている子も多いと考えています。
でも身体感覚があれば、次のように考えることができます。
まずはじめの条件の「無脊椎動物」について、
「無脊椎動物ということは背骨がないんだな。そのなかにはフニャフニャしてるものもいるし、硬いものもいるな」
と思考を巡らせます。そして、
「でも節足動物ということは、その無脊椎動物のなかでも硬いもののほうだな。それで足が多いものはムカデだ」
と答えを出せるのです。
その時、実際にムカデと触れ合った経験があればもちろん理想的です。でもムカデを触ったり、見たりしたことがなかったとしても、日頃から昆虫採集などが好きな子どもなら、姿かたちを想像することはそれほど難しくはないでしょう。
そういうすべてのことが原体験として役立ち、将来その子がどんどん伸びていく要素につながっていくのです。
普段の生活や遊びのなかで知識や感覚を得ることを、私は「体験学習」と名づけています。幼少期は、この体験学習をなるべくたくさん積むように注意をはらってあげてください。