無理強いせず、子どもの可能性を広げよう! 伸びる子が育つ家庭の共通点とは?/わが子が勉強するようになる方法 ④

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公開日:2021/4/13

中学受験を取り巻く社会環境は大きく変化し、今までの受験対策では対応できなくなっています! 偏差値が高くても試験に落ちることも。そこで、「伝説の家庭教師」が、自分の力で生きていける子どもを育てるための、38の実践的なルール・方法の中から抜粋してご紹介します。

わが子が勉強するようになる方法
『わが子が勉強するようになる方法 2500人以上の子どもを超有名中学に合格させた「伝説の家庭教師」が教える超実践的な38のルール』(西村則康/アスコム)

わが子が勉強するようになる方法

身体と頭脳の動きは互いに関連している

「3つの力(思考力・判断力・表現力)」を持つ頭脳に育っていくために大切な要素の一つは、手先の器用さです。

 私の経験として、コンパスや三角定規をうまく使えないのに「3つの力」の素地ができた子はほとんどいません。それは、おそらく身体の動きと頭脳の動きが互いに関連しているからだと思います。

「ここに一つの定規を置いて、こうすべらせると平行な線になるな……」という、イメージを先行させてとらえる時に、脳は、自分の指がこう動いたり押さえたりしているという〝身体イメージ〟のリハーサルをしています。この、身体イメージのリハーサルをうまくこなすために、リアルな手先の器用さが必要になるのです。

 そういう話をすると、

「うちの子はダメだわ」

 とあきらめるお母さんもいるかもしれませんが、あきらめる前に、子どもにはぜひ質のいいコンパスを買ってあげてください。

 

 質の善し悪しによって、コンパスは本当に使い勝手が違います。支点のところがガタガタしているコンパスや、針を突き刺したのにツルンと滑ってしまうコンパスを使っている子どもは、円を描くことを「難しい」と感じてしまいます。自分の指がスムーズに動いてきれいな円が描ける、という自己イメージを持てなくなってしまうのです。

 しかも、描いた円や補助線が歪んでいると、そういう視覚的要素だけで、答えを間違ってしまうこともあるのです。

 

 小学生にも、ぜひ製図用のきちんとしたコンパスを持たせてあげてください。

 包丁を使うのが下手で料理が苦手だと思っていたのに、切れる包丁を使いはじめた途端、腕が上がるというのもよく聞く話です。

 器用になるためにも、幼い頃から家庭菜園や料理、日曜大工や工作などさまざまな経験をさせてあげることも大切です。

わが子が勉強するようになる方法

家庭の雰囲気が明暗を分ける

 家庭教師の私は職業柄、今までさまざまな家族の姿を見てきました。その経験上、この子は伸びるだろうなと思う家庭には共通点があります。

 それは、リラックスした雰囲気に満ちているということです。もっと簡単に言えば、家族の雰囲気が明るいんですね。ご両親のコミュニケーション能力が高く、そのため家族全員の表情がいきいきと輝いているのです。

 反対に、これはちょっとよくないな、と感じる家庭もあります。

 お母さんのイラ立ちが家に充満している家庭――と言えばいいでしょうか。子どもへの一言一言に何かトゲがあり、お母さんの表情にも子どもの表情にもこわばりがある……そんな家庭です。

 確かに、お母さんは毎日が大変です。子どもと日々向き合っていると、ついついイラ立つことが多くなります。

「何度言えばわかるの!」
「何してるの! 静かにしなさいって言ったでしょ!」

 こんな言葉が口癖になってしまうのもよくわかります。

 でも、ふざけたり、だらしがなかったり、時に失敗したり、嘘もついたりするのが、そもそも子どもというものではないでしょうか。

教育熱心な母親ほど子どもの未来にレールを引きがち

 偏った教育熱心さを持つお母さんは、先回りして子どもの未来にレールを引きがちです。しかもそのレールの幅が狭いことが特徴です。勉強も遊びも、親がいいと思ったことだけをやらせて、日々机に向かわせます。そして、有名大学や一流企業に入ればもう人生は安泰だという、今の日本にはそぐわない考えを持っていらっしゃるようです。

 でもそれが、本来は可能性を秘めている子どもの未来を狭めていることに、気づいてほしいと感じます。しかも、お母さんの先回りは高校受験や大学受験でも、ほとんどの場合マイナスに働きます。

 昨今進歩したSNSや「ママ友」の間での情報交換が頻繁に行われていますが、これも問題です。例えば「○歳までに分数計算ができないといけない」「桜蔭に合格するには××の参考書が必要だ」などなど。そもそもエビデンスのない噂話なうえに、そのやり方はAさんの子には合っているかもしれないけれども、Bさんの子には合わないかもしれない。誰かの成功体験が、まことしやかな事実として伝わり、「お受験ママ」たちはそれらの情報に振り回されてしまうのです。

 しかし、本当に大切なのは他の子どもとの比較ではなく「わが子なりに」順調に伸びていることを冷静にとらえることです。中学受験後も続く学習を見据えながら、目前の中学受験を成功させるためには、どこをより伸ばしてやればいいのか。そこをきちんと把握することが親の役割です。

 ある小学6年生の女の子がいました。電磁気の単元を勉強していたのですが、簡易モーターに関する問題がどうしても解けません。

 そこで私はエナメル線(銅線)、クリップ、紙やすり、消しゴム2つ、丸い磁石、電池と電池ボックスをDIYショップで買って、簡易モーターをつくるという宿題を出しました。

 翌週その家に行くと、

「先生できたよ、これこれ!」

 と、その女の子は大はしゃぎです。でも、前日まで回っていたというモーターが、その日はまったく動きません。乾電池を新しいものに換えてもダメでした。女の子は今にも泣きそうな顔になっています。

 実は、その理由は明らかでした。電池ボックスやクリップに巻き付けた銅線がサビはじめて、電流が流れにくくなっていたのです。

「ここにハンダをつけると銅線がサビないから、モーターが回るんだけどね」

 と、その時は説明だけしました。

 次にその家へ行くとハンダごてとハンダ、そして先週うまく回らなかった簡易モーターが置いてあります。女の子はうれしそうに、

「先生がハンダを使うといいと言ったから、お母さんに買ってもらったの」

 と言います。私自身、実は学生の頃からオーディオマニアです。真空管アンプも自分でつくっていましたから、もうハンダづけは得意中の得意です。

 ものの数分でハンダづけが終わり、電池を入れると、簡易モーターが回りはじめました。

「やったー! 先生、ありがとう!」

 本当にうれしそうな笑顔でした。その後、この女の子は電磁誘導やモーターについて完璧に理解できるようになったのです。

 何より私がすばらしいと思ったのは、子どもがとりあえずやってみることに対して、ブレーキをかけないご両親の姿勢でした。

 小学6年生の女の子がハンダごてをほしがるのは大変にめずらしく、普通の親だったら、

「そんな時間があるなら、勉強しなさい」

 という常套句を口にしがちです。でもそんなことは一切言わず、ご両親は子どもの好奇心を大切にしたのです。

 この女の子は理系の大学を目指して、今も日々楽しく勉強しています。

子どもにチャンスを与えても、決して強要しない

 もちろん、親が子どもに進むべき方向性を示してあげることはとても大切ですし、それは親の務めでもあると思います。

 でもそれは決して、子どもに親の望む生き方を押しつけることではありません。

 親は大きな方向性だけを示し、子どもが自分で人生を選び取り、切り拓く力をつけさせてあげるのが理想的です。

 親が子どもの可能性を上手に広げた好例を、もう一つ挙げてみましょう。

 私と一緒に、家庭教師として働く後輩がいます。中学も高校もすべて公立ですが、現役で東京大学に合格し、数学科を卒業した、とても優秀な男です。

 その彼が算数を好きになったきっかけは、小学4年生の時に親から与えられた1冊の薄い問題集でした。親からは、「この問題集をやりなさい」と、強要されたわけではありません。

「もしよければやってみれば」

 と、あくまで気軽な感じで渡されただけでした。でも彼はその問題集に興味を持ち、自分の意志で取り組み、そして算数の問題を解くことの楽しさを覚えたのです。

 もし小学生の時にその1冊の薄い問題集と出合わなければ、おそらく今の彼は存在しなかったでしょう。

 

 このように、親は「もし子どもが興味を示せばしめたもの」くらいの気持ちで、さまざまなチャンスを子どもに与えてあげてほしいのです。宇宙の美しいイラストが掲載されている科学雑誌、近代文学の名作などをさりげなく、目につく場所に置いておくのもいいでしょう。

 ただしその際、決して無理強いをしてはいけません。もし子どもが関心を持たなければ、それはそれでいいのです。

 親が子どもに決まった狭い道を強要しないメリットは、もう一つあります。

 それは、可能性が(無限に)広がることです。子どもを育てる過程においては自分の思いどおりにいかないことが多く、さまざまなことが起こります。でもそんな時にこそ、新たな可能性のドアが開かれることが多いのです。このようなことをあらかじめ理解しておいていただければ、子どものするたいていのことは、笑ってやりすごせるようになります。

 親のメンタルを健康的に保つためにも、親子のスムーズなコミュニケーションを維持するためにも、子どもの未来に幅広いレールを想定しておくのはとても有効です。

<第5回に続く>