久しぶりに集まったゼミの仲間と恩師。がんばっているのにうまく結果につながっていない様子の教え子たちに、恩師は?/がんばらない戦略②
公開日:2021/4/16
『がんばらない戦略』から冒頭部分を全7回連載でお届けします。今回は第2回です。
がむしゃらに働く人生から脱却し本当に必要な努力に注力できる自分に変われる新時代の人生戦略の指南書が登場! これからの時代に大切なのは「がんばらない努力」を身につけること。子供の頃からやる気だけは人一倍だったのに、何をやっても結果が出なかった著者。しかし、ある日を境に人生が大きく変わった――。
ある集まり 原宿で
ある晴れた日曜日の昼下がり、神宮の森の中に佇む隠れ家レストランから男女の笑い声がこぼれた。その一ヵ月ほど前、アリサが数年ぶりに大学のゼミ仲間だったヒカルとSNSでつながったのをきっかけに、当時仲がよかったメンバーと一緒に、恩師を誘ってミニ同窓会をしようということになったのだ。美味しい料理をとり、ひとしきり昔話に花を咲かせた後、それぞれの近況へと話題が移った。
最初に口を開いたのは、大学時代マッチョのイケメンだったラグビー部出身のマサトだ。
「みんな全然変わらないけど、俺なんて会社に入ってから20㎏太っちゃったんだよねぇ。
毎日取引先と飲み会に行って、最後はダメだダメだって思いながら、どうしてもシメのラーメンを食べちゃうんだよなぁ……」
カラダを折ると、こんもりと盛り上がるお腹の肉を両手でつかみながらマサトは嘆く。
「ああー、割れた腹筋を取り戻してぇー。もう一度Tシャツの似合うカラダになりてぇー」
学生時代は毎日欠かさず部活に出て、練習の後ヘトヘトになっても学校のジムでトレーニングに励んでいた。まさに、鋼鉄の意志を持つマサトだと思っていただけに、みんな驚きを隠せない様子だった。
「いやいや、意志が強いっていうか、あの頃は監督が怖かったから強制力が働いてたんだよ。それに、レギュラーになりたい一心で、ろくに勉強もしないで部活に打ち込んでいても両親が許してくれてたしね。でも、会社に入ってからは、飲み会に誘われたら断れないんだよな。もともとお酒が好きだし。あー、俺って本当に意志が弱いんだよなぁー」
それを聞いていたヒカルが口を開く。
「マサトだけじゃないわ。私も意志が弱いのよね。うちの会社は外資系だから、今年こそずっと夢だった海外赴任を目指そうと思って、年明けからもう一度英語を勉強し直すことにしたの。でも、まだ子どもが小さいから、会社を出て保育園に迎えに行って、ご飯を食べさせて、相手をして寝かしつけているうちに、気がつけば疲れ切って自分も子どもの横で寝ちゃってるんだよね。もっと体力があればなぁって思うよ……」
さらに、アリサも続く。
「ヒカル、そりゃあ無理もないよー。私なんて、今年こそ貯金するぞー!って、新年の抱負を掲げて家計簿をつけはじめたものの、一週間と続かなかったよ……」
気のおけない仲間たちの再会に、みんな包み隠さずいまの自分をさらけ出して笑った。一人一人進む道は違ったが、この瞬間気持ちはひとつになっていた。
メンバーはそれぞれ目標に向かって努力していた。しかし、全員が続けられず、途中で挫折してしまっていると告白した。
やがて恩師のミツルが口を開いた。
「話を聞いてると、みんながんばっているようだけれど、なかなかうまくいってないみたいだね? そうだ。実は私の教え子たちの中で、成功や幸せをつかんだ子たちには、ある共通点があるんだ。言いかえれば幸せをつかむための方法なんだけれど、その子たちはみんな、ある物語を読んでそれに気づき、うまくいくようになっていったんだ。その物語を、社会に出てがんばっている君たちに贈らせてほしい」
「先生、ぜひ詳しく聞かせてください!」
アリサが言った。
「教え子たちはその物語のおかげで、努力に対する見方を変えることができたんだ。努力をすればいつかきっと報われると思っていたのが、そうではないんだ、とね。ただがむしゃらにがんばるんじゃなくて、努力の仕方によってはがんばらなくても結果が出せるということを学んでいたよ。それで、次々に目標を達成することができるようになっていったんだ。プライベートでも仕事でも。
最初は、みんな子どもの頃読んだ絵本のような話だからと甘く見ているんだ。所詮子ども騙しだろって。
でも、そのうちがんばっても結果が出せない物語の主人公と同じように、自分の思い込みが目標達成を遠ざけている、ということに気づき出す。
主人公が出会う10人の個性的なキャラクターは、それぞれにがんばらなくても結果が出せる方法を教えてくれるのだけど、成功をつかんだ子たちは騙されたと思いながらも、少しずつ自分の生活に取り込んでいく。
そして、変わる。
貯金、ダイエット、運動、仕事……、めいめいがこれまでずっと失敗してきたことで、立て続けに結果を出せるようになっていくんだ。
変化が出はじめるときは、いつもみんな信じられない様子だよ。
それに自分が結果を出せるようになってから周囲を見渡すと、成功している人は誰しも多かれ少なかれこの物語が教えてくれることを実践していると気づくようになっていく。
うまくいった教え子たちが周りにこの物語のことを話したら、最初は半信半疑の人もいるけれど、実際にやってみた人たちから、次第に目標を達成した喜びの声が寄せられるようになっていくんだ。思い込みから抜け出すことができたおかげでね。
もっとも、最後まで信じられないという人もいるさ。意志の力を使ってがんばらないで結果が出るわけがない。そうした考えを変えることができない人は、これまでと同じように自分の意志の力を信じて新しいことに挑戦するたびに、何度も挫折を繰り返すのかもしれないね」
「先生、気になります! それはどんな物語なんですか?」
乗り出すようにして、ヒカルが聞いた。
「『ガンバール国とガンバラン王国』っていう物語さ」
ガンバール国とガンバラン王国……。
「なにそれっ、かなり気になる題名!」
不安と期待が入り混じる表情で、みんなが食いついた。
「面白そう!」
アリサが目を輝かせて言った。
「先生、早く聞きたいです!」
痺れを切らすかのように、マサトとヒカルが声を揃えた。
「もちろんだよ」
ミツル先生はうなずいた。
「少し長くなるけれど、みんな時間は大丈夫かい?」
そう言って、物語を話しはじめた。