1000件断られたセールスマンの晩御飯は「ご褒美のお寿司」!?/がんばらない戦略⑤
公開日:2021/4/19
『がんばらない戦略』から冒頭部分を全7回連載でお届けします。今回は第5回です。
がむしゃらに働く人生から脱却し本当に必要な努力に注力できる自分に変われる新時代の人生戦略の指南書が登場! これからの時代に大切なのは「がんばらない努力」を身につけること。子供の頃からやる気だけは人一倍だったのに、何をやっても結果が出なかった著者。しかし、ある日を境に人生が大きく変わった――。
STAGE2 ゲームばかりしてる男
「ごちそうさま」を言うと、ミサキは黒い服の家族たちの家を出ました。
アパートの階段を下り、1階に差し掛かると?
「買ったばかりだからいらないです!」
と、ちょうどセールスマンがピシャリと断られて閉め出される場面に遭遇しました。
「飛び込み営業も大変だなぁ~」
と思いながら、ミサキはなにもできずに眺めていました。
するとどうでしょう、ドアが閉まるやいなやセールスマンは意外な行動に出ます。
「(やった~~~~)」
と声を殺してこぶしを握りしめてガッツポーズ。
まるで市民マラソンで優勝したランナーくらいの喜びようです。
断られたのになぜでしょう。
不思議に思ってじーっと観察を続けていると、目が合ってしまいました。
気まずい、これは気まずい。
「君。断られたのになんで喜んでんだよコイツ、って思ってるんでしょ」
「あ、はい」
「断られ過ぎて、ちょっと頭おかしくなってるんちゃう? くらい思ってるんでしょ」
「え? はい」
「そこ、はいじゃないからね」
「すみません」
「ちょっと失礼なんじゃない?」
詰め寄ってくるセールスマン。
ミサキ、このあたりで物語初のピンチを迎えるのでしょうか?
「ま、よそ様の家の前でいつまでもおしゃべりしてるのもあれなんでね。そこ、座ろうか」
セールスマンはミサキをアパートの前の公園にあるベンチに案内しました。
日差しはとてもあたたかいけど、どうにも微妙な展開の午後です。
「今日ね、俺ね、晩ご飯が寿司なの」
ベンチに腰掛けるなり、セールスマンが自分語りをはじめました。
「お寿司……お寿司ですか」
ワケがわからないのでミサキはなんとなく、それっぽい返事をしてみました。
よくわからないときは、とりあえず相手の言葉を繰り返しておけばなんとかなる。
ガンバール国のお父さんがガンバって読んでいる本をチラ見したときに書いてあったことです。
「あのね、俺、営業まわっててね。豆腐売ってんの」
「豆腐?」
スーツ姿のセールスマン、持ち物はアタッシュケースです。
とても豆腐を売っているようには見えません。
「ほら」
空気を察したのかセールスマンは、アタッシュケースを開けて見せてくれました。
言われた通りアタッシュケースにはなみなみと水が張られ、豆腐がびっしり並んでいました。
「君、これからの時代はね、意外性が大事なんだよ、意外性。他の人が思いつかないようなことをやらないと、レッドオーシャンで勝負するのはつらいじゃない? それにほら、うかうかしてると10年後にはAIに仕事奪われちゃうからさ、わかる?」
いかにも“受け売り”な言葉を並べるセールスマン。
でも、たしかに、かつてアタッシュケースで豆腐を売り歩いた豆腐売りがいたでしょうか。まぁ、いなかったのにも理由があったでしょうがね。
セールスマンは続けます。
「俺ね、昔ね、セールス嫌いでね、仕事ぜんぜん面白くなかったの。
毎日同じことの繰り返しでね、飽き飽き。断られるたびに凹むしね。
人格否定されたみたいな気分になってさ。努力って報われないと、虚しいじゃない」
「虚しい、ですよね」
「でね、仕事つまんないからサボってゲームばっかしてたわけ。
家でもゲーム、行き帰りの電車でもゲーム、ちょっと時間が空けば仕事中だってゲーム。だってほら、外で営業してるから誰に見張られてるわけでもないし、ゲームし放題じゃない」
「し放題ですね」
「周囲はそりゃなんかいろいろ言うよ。大人なのにいつまでゲームばっかりやってんだとか、情けないとか、時間の無駄だとか、時間の無駄だとか、時間の無駄だとかね」
「時間の無駄……」
「そう時間の無駄ってよく言われた。でもね、俺、ゲームやめられなかったわけ」
「ゲームは、ハマるとやめられないですね」
「だろ? でもそれダメ? ダメなの? 俺がこんなにゲームに夢中になるってことはさ、ゲームには意味があるんだよ。俺は自分を信じたのね、ゲーム好きの自分を」
「自分を信じた?」
「それでゲームをね、やり続けたわけ。朝も昼も晩も。そしたらさ、あるとき、いきなり、バーンと気づいたわけよ」
「気づいた? なににですか?」
「そう、人生はね、ゲームなわけ。人生はゲーム!」
「あぁ、あのゲーム」
「それじゃない!」
「すみません」
「君、わかる? 人生ってゲームなんだよ。人生すべてゲームだと思ったらね、苦しいことなんて、ひとつもなくなるんだよ」
「?」
「たとえば俺は営業で断られるゲームをやってる。ほら」
セールスマンはスマホの中の、カウントアプリをミサキに見せてくれました。
「1000回断られたらね、晩めし寿司って決めてるわけ」
「あぁ、さっきお寿司って」
「そう、いま断られたのが1000回目だったからさ~。今晩はちょっと贅沢して寿司、食べられるってわけ。今朝、起きたとき、990回だったから、今日あたり絶対、達成できると思ってワクワクしてたんだよ」
どうやら今日すでに10回も断られているみたいですが、そこには触れずにおきましょう。
「営業で歩き回るのもゲームなんだよ。このアプリでほら一日3万歩歩いたらキャラクターが進化するんだから」
「進化、いいですね」
「ゲームだと気づく前、仕事も人生も、ただつらいだけだった。
けど俺はもう気づいたんだ。人生はゲーム」
「あのゲーム」
「だからそれは違うって」
「すみません」
「買い物だってゲームなんだよ。スーパーに入ってカートにカゴをセットしたら、あとは何分でレジまでたどり着けるか、それはゲーム」
「ゲームですね」
「受験勉強だって、歴史の年号と出来事でカルタをつくったら、それはゲーム」
「受験勉強にも使える」
「そうそう、暗記は全部ゲーム。それで東大行ったやつもいるって聞くしね。あのね~、努力しても長続きしないとか言ってる全俺に言いたいことは、努力を努力と思ってるうちは、それは努力ってこと」
「努力を努力と思ってるうちは、それは努力……」
名言風でなにも言ってないようでもありますが、なるほどゲームと思えばなんでも楽しそう。
「特にゲームが好きな人はね、身の回りのこと、なんでもゲームにしてしまえば、つらいどころか逆に夢中になるから。ほら、お坊さんが修行してるのだってあれ、人生でどのくらい徳を積めるかのゲームなんじゃない? あ、時間だ」
そう言うとセールスマンは、いきなり立ち上がり、歩き出しました。
「1時間に一回、人に会うミッションをクリアしなきゃならないから、そろそろ行くね」
人生はゲーム。
少なくともあのセールスマンの人生は楽しいゲームに見えたミサキでした。
「ゲーム化するって、目に見えない成果をポイントに置き換えてるってことでもあるのかなぁ」
ミサキは、ぼんやりと、ふるさとガンバール国の家族の顔を思い浮かべていました。
「あ、お父さん、ガンバって本を読もうとするから続かないんじゃないかな。
本の中に“福”って文字を10個見つけたら“福が訪れる”、みたいな感じでゲーム化した方が楽しく読めるんじゃない? 読んでない本、いっぱいあり過ぎだし」
そしてもうひとつミサキが思ったこと。
「それにしても会話って、ほんとに、おうむ返しだけで成立するなー」