教官は“野蛮人”!? 騎士の生き様を描く、教官と落ちこぼれたちの学園物語

ライトノベル

公開日:2021/4/17

古き掟の魔法騎士
『古き掟の魔法騎士』(羊太郎/KADOKAWA)

 必死に努力しているのに認めてもらえない。実力はあるのに根拠のないデマやレッテルを貼られて正しく評価してもらえない。みなさんも他人に認め認めてもらえずに悔しい思いをした経験はないだろうか。『古き掟の魔法騎士』(羊太郎/KADOKAWA)のアルヴィンやシドは、まさにそんなキャラクターだ。

 先王を亡くし権力争いに揺れるキャルバニア王国は、魔国ダクネシアと邪教を崇める暗黒騎士団の脅威に晒されていた。王子アルヴィンは若く未熟で、騎士としての実力を示す妖精剣も最弱の格しかなく、周囲の騎士候補生や、王国の実権を握る三大公爵家からも侮られていた。

 祖国の窮状を憂いたアルヴィンは、王家に伝わる儀式をおこない、伝説の騎士シド=ブリーツェを復活させる。

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 一千年前、聖王アルスルに仕えていたシドは、数多の戦場で殊勲を挙げた最強の騎士でありながら、悪行の限りを尽くし、《野蛮人》の蔑称で語られる悪逆の騎士。しかし蘇ったシドは、伝承にあるような悪人ではなく、傍若無人ではあるが、忠義に厚く、弱者を守り、悪を討つ、真の騎士だった!

 アルヴィンはシドを騎士学園の落ちこぼれ学級の教官として迎える。生徒たちも最初はシドを信用しなかったが、自分たちでは敵わない妖魔を軽々と討伐したシドの姿を見て、「自分たちも強くなれるのか」と問いかける。そんな生徒たちにシドはこう答える。

「騎士とは、強い戦士を指す言葉じゃない。生き様だ。騎士たらんと己を律し、意思を貫き続ける限り、そいつは立派な騎士だ」

 その言葉に感銘を受けた生徒たちはシドの教えに従い、過酷な特訓の中で騎士として成長していく。しかし魔国ダクネシアの魔の手は、すぐそこまで迫っていた……。

 一見するとシドは口も態度も悪く、およそ騎士のイメージとはかけ離れた無頼漢である。だが権力を笠に着て身勝手な要求ばかりする上級貴族とは違い、どんなに自分を悪し様に言われても黙って受け流し、自分の行動と実績を示して周囲の批判を封じる姿が胸を打つのだ。

 そしてシドが生徒たちに教えるのは、騎士としての強さだけではない。世間からどのように思われても、強敵を前に力及ばなくても、己の正義や信念を貫き通す、騎士としての生き様だ。自分が何かを成し遂げるために、誰かの評価は必要ない。一人ではなにもできなくとも、仲間がいれば乗り越えられる。人々を守るために窮地に陥ったアルヴィンと、友を助けるために立ち上がる落ちこぼれ生徒たちの友情も熱く、懸命に生きる登場人物たちの生き様が眩しいのだ。

 いまの私たちは、夢や将来のためにと頑張っていても、いつの間にか他人から認められることが目的になっていないだろうか。しかし、周囲の評価は結果の後に勝手についてくるものだ。騎士の生き様を貫くシドやアルヴィンたちの姿に、もう一度、頑張ってみようという気持ちが湧いてくる。

文=愛咲優詩


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