メガネのJINS役員が伝授! 幾多の誘惑を振り切って本気で集中する方法
公開日:2021/4/22
ウェブミーティングで主催者が画面共有をする。画面上部に10以上はあろうかというウィンドウが所狭しと並んでいるのが見える。そこから受け取る印象は、大きく2パターンに分かれると思う。「さぞかし色んなタスクをスピード全開でこなしているに違いない、すごい人だな」という見え方、あるいは、「こんなにいっぱい仕事を同時進行させるなんてできっこない、集中力を欠いた人だな」という見え方だ。
『深い集中を取り戻せ』(井上一鷹/ダイヤモンド社)はタイトルが示すとおり後者のスタンスで、集中の深さを起点に、仕事サイクルやライフスタイルに良い流れをもたらすヒントを与えてくれる。著者は、メガネ販売を中心に事業を展開する株式会社ジンズの執行役員。メガネ型ウェアラブルデバイス・JINS MEMEの制作を通して、生理データの読み解き・心理学・脳神経科学に精通しており、会員制ワークスペースの運営を行う株式会社Think Lab取締役も兼任している人物だ。
本書によると、集中の瞬間を最良質かつ最大限にするには、大きく分けて4つの方面からのアプローチが必要だという。
1. 取り組み方をよくする
2. 環境(空間)を整える
3. 体調をキープする
4. 基礎体力を上げる
近年、スマホ・メール・SNSの通知など集中を削ぐ要素が増えてきて、1つのことを考える力が弱ってきているといわれている。リモートワークや在宅ワークの普及にしたがって、環境のコントロールが大切になってきている。このあたりまでは、わざわざ読書をしなくても実感できることかと思う。本書がリマインドしてくれる当然なようでありつつも重大な注意点の1つは、「取り組み方をよくする」「環境(空間)を整える」といったことを行う主体が、会社組織から個々人に移譲されつつあるということだ。
「うちの会社は、なんでこんなイスなんだろう」「デザイン的にも機能的にも微妙で、自分だったら絶対に選ばないんだけど……」などということがよくあったでしょう。
このような「ファシリティ」を選択する主体が、総務の人からあなた自身に移るのです。
この変化をポジティブに捉えられる人もいれば、「ただでさえ考えることが多いのに、そんな面倒なこともこれから考えなければいけないのか」とネガティブ要素として捉える人もいるだろう。著者のスタンスは当然前向きだ。
凝り固まった組織形態や制度、ひいては個々人を取り巻く時間を解体し再構築する機会を掴めるチャンスに今私たちは恵まれている。「うまくこの好機をモノにすれば、幸福の尺度を大きく刷新できる」という気概に満ちた著者は、いわゆる「1万時間の法則」を持ち出して、読者の心を揺さぶる。プロフェッショナルになれるまでの時間は約1万時間。その前提で、ある心理学者の「人は1日4時間しか集中状態を作れない」という論を受け入れるとするならば、人生をやり繰りしても極めることができるのはたった5つだという(仕事に取り組める時間の総量が約50年の場合、人に与えられた集中時間の総量は5万時間という計算に基づいている)。
今、目の前の仕事が、人生の5分の1をかけてもやりたいことでしょうか。
ぜひ、それを考える機会にしてください。
もし、そこに疑問があるようなら、絶対に集中なんて続きません。続いたところで、後々。よい人生を送ったと振り返ることはないかもしれません。
コロナ禍で生じた変化に、もちろん様々な不自由はある。しかし、その中からいくらかの自由を勝ち取れば、能動的で濃密で魔法のような「一人の時間」を手にすることができる。長いようで(集中できてしまえば)あっという間な本書の約350ページに、その秘訣が凝縮されている。
文=神保慶政