「猫がいてくれるから」――人生を変えてくれた猫との暮らし。心あたたまる17の実話
更新日:2021/4/23
猫と暮らすようになって20年――我が家には合計3匹の猫がやってきた。1匹は数年前に旅立ち、今は18歳の老猫姉妹と過ごす日々だ。
いつも眉間にしわを寄せていた私は、猫を飼い始めてから「笑顔が増えたね」と言われるようになった。掃除・洗濯の回数が増えた。猫が心配だから、飲み会の後もすぐに帰るようになった(コロナ禍以前です)。どんなにつらくても「俺が死んだら誰が猫にご飯をあげるんだ?」と、生きる責任を強く感じるようになった。
そう、猫がいてくれるから――今の私もいるのだ。
猫と飼い主・家族の数だけ「猫がいてくれるから」がある。
『猫がいてくれるから』(主婦の友社)は、猫との暮らし、出会いと別れ、猫同士の愛情など、17の実話を集めた1冊だ。どれも、読むだけで心がやわらぎ、優しい気持ちになれる珠玉のエピソードばかりだが、その中でも「猫と暮らすことで飼い主の生き方が変わった」という2編を紹介したい。
episode12より がんばりすぎないとらじろう
アメリカン・ショートヘアのとらじろうの飼い主はイラストレーターの女性。結婚してペット可のマンションに引っ越したのをきっかけに、猫との暮らしを始めた。
彼女は、イラストの仕事では「ミリ単位の線」にこだわり1日を費やしてしまうほど「こだわり」が強く、常に肩肘を張っていた。
自宅のインテリアも、デザインや色味にこだわりが強く、少しでも位置がずれると気になるし、潔癖のきらいもあった。
しかし、である。「とらじろう」が彼女の生活を一変させてしまった。
仕事モードであろうと、遊んでほしければ「ニャッホー」とやってくるし、逆に彼女自身もとらじろうのことが気になって集中が切れる。
潔癖の飼い主だろうと、猫の毛は抜けるし、ソファにも服にも付くし、フローリングや家具にも傷は付く。とらじろうの安全のために、こだわりは後回しになった。
でも、それは彼女にとって「とても心地のよい変化」だった。
「フーテンの寅さん」にその名を由来する「とらじろう」の奔放さが、張りつめた彼女の暮らしや仕事に、適度なゆるみを与えてくれ、イライラや落ち込みも減ったという。
猫がいてくれるから――。
とらじろうと暮らすことで、「ありのままの自分」が見えてきた。そして、そういう自分を素直に受け止められるようになり、「がんばりすぎない」「ほどほど」が気持ちいいことに気づいたのだ。
episode17より 息子を暗闇から連れ出した覚馬
60代の女性の大切な家族は、白黒のハチワレ「覚馬(かくま)」。
息子(次男)が、大学受験に失敗して引きこもりがちになり、家族が「暗いトンネル」の中にいた頃、覚馬との出会いがあった。
ある日、「とある家の窓際にかわいい猫がいる、母さんも見てきなよ」と言われて出かけたものの、お目当ての猫には会えず、帰ろうとしたとき――歩道の排水溝に溜まっていた落ち葉がモゾッと動いた。濡れた落ち葉の下にいたのは、手のひらにのるほどの小さな子猫で、片目は白く、もう片方は目ヤニでふさがっていた。
これも何かの縁だと、飼うことを決めた彼女は、動物病院からの帰り道に「覚馬」と名付けた。当時放送していた大河ドラマ『八重の桜』の山本覚馬のように、もし目が見えなくなっても強く生きられるように、と。
そんな覚馬を見て、「僕が世話をするから」と次男は久しぶりの明るい顔を見せた。
子猫の世話――ミルク、トイレ、体温調節、こまめな目薬の投薬など、とても大変なことを次男はがんばった。その結果、覚馬の両目は無事、きれいに開いた。
「お母さん、僕もこうやって大きくなったのかなぁ?」
毎日毎日、たくさんの時間を覚馬に費やした次男は、“ひとつの命を育てる”ということについて思うところがあったようです。
その後、次男はもう一度がんばる気持ちになり、無事に大学に合格したという。
7年後、夫婦ふたり+猫1匹の暮らしとなった今、コロナ禍でこもりがちな「話題の乏しい日々」でも、覚馬のことならいくらでも話せるという彼女。
猫がいてくれるから――。
夫と2人でずっと家にいてもイライラせずに過ごせるのは、覚馬のおかげです。
覚馬は、トンネルに差し込んだ光だった。
コロナ禍の昨今、ペット需要は急伸し、2020年には猫の新規飼育数は2019年からおよそ7万匹弱増加し、約48万匹(ペットフード協会調べ)だそうだ。
その一方で、飼育放棄をする無責任な飼い主が増加し、問題となっているのも悲しい現実。
インドアメインの生活を求められる日々に、「猫がいてくれたら」と思う気持ちはよくわかるが、ぬいぐるみのように買って飾ってカワイイね、では終わらない。
言う事は聞かないし、ギャーギャー鳴くし、トイレの掃除も必要だし、病気になることだってあるし、お金もかかる。
それでも、本書に紹介されている数々のエピソードのように、かけがえのない存在になってくれるのが、猫なのだ(ペットすべてのことでもある)。
気長に、ほど良く、猫との暮らしを楽しみたい。
あなたの「猫がいてくれるから」を見つけられますよう。
文=水陶マコト