こういうクソ男いる! 黒歴史を思い出す共感必至のマンガ『恋愛マトリョシカガール やさぐれ女とダメ恋女』

マンガ

公開日:2021/4/22

恋愛マトリョシカガール やさぐれ女とダメ恋女
『恋愛マトリョシカガール やさぐれ女とダメ恋女』(山本白湯/文藝春秋)

 山本白湯さんのマンガを読むと、どうしようもなくだめで弱い自分を肯定されているような気持ちになる。それはたぶん、男も女も。たとえば『恋愛マトリョシカガール やさぐれ女とダメ恋女』(文藝春秋)。同僚である2人の女性の恋物語を描いた作品なのだけど、派手系の美人ゆえに男から軽く口説かれがちな美央はともかく、愛されたい願望の強いゆるふわ女子なのに遊び人の男と体の関係をずるずる続けてしまう理恵はかなり“だめ”である。

 けれどcakesでの連載中、毎回更新を心待ちにしてしまったのは、「いるいる、こういう子たち」「こういうクソ男もめっちゃ知ってる……」という圧倒的なリアルさで描かれる彼女たちが幸せになることを、いつのまにか本当の友人のように願っていたからだ。そして、知ってる誰かを映しながら読んでいるようで、その姿に実は、自分自身をほんのり重ねてしまっていたからだと思う。

第1話「ブロックする男」より

 美央は、モテるけれど恋愛が下手だ。第一話冒頭に出てくる男は、「意外と家庭的だし優しいし、美人だし、結婚してあげてもいいかな」なんてプロポーズしてくるし、彼女に迫ってくる男たちはみんな“ケモノのような目”でギラギラと見定めようとしてくる。恋愛にほとほと嫌気のさしている彼女自身は、男を見る目が若干なさそうなところはさておき、そんなにだめではないのだけれど、周囲にわんさか湧いて出る男たちがひどすぎて、女性ならば過去のいろんな事案を思い出して「ギギギギギ……」となること必至。そんな美央が、友達の紹介で“男らしさ”のやや欠けた男性と出会い、改めて恋することを知っていく過程は激しく胸キュンなのだけど、山本さんのマンガをいいなあと思うのは、ダメ男たちのこともどこか魅力的に描いているところだ。

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“プロポーズ男”は、美央が寝込んでも看病するどころか心配もしやしないし、ごはんもつくってもらって当たり前だと思っている。取引先の営業マンは、電話は横柄だったのに美央の顔を見たとたん態度を変えて、俺に落ちない女はいないとばかりに迫ってくる。どこからどう見ても“だめ”な男ばかりなのだけど、彼らは決して“最低な人間”としては描かれない。

第5話「草食系の男」より

 理恵も同じ。好みの男と出会ってすぐホテルに行ってしまい、甘い言葉と相性のいいセックスにほだされて、付き合ってもいないのにずるずる関係を続けてしまう。「イケメンの彼氏がいる」という肩書に酔いしれてしまったから、想いはしだいに執着となり、やがて彼にも鬱陶しがられるようになる。正直、読んでいたら理恵も男もどちらもダメダメだ。……が、やっぱり人として最低、というほどではない。それぞれ自分の欲を満たしながらも、一生懸命、自分だけの幸せを探しているだけなのだ。

 思い返せばのたうちまわりたくなるような失敗と、「私はこんなに頑張っても幸せになれないのにどうしてあいつはのうのうと!」みたいな見るに堪えない嫉妬心。どちらも決してほめられたものではないのだけれど、山本さんはきれいごとでは囲わず、まっすぐに描いて肯定してくれるのだ。ちなみにcakesでは現在、バイト先の飲食店を混沌に陥れるサークルクラッシャー女子の話が連載中。こちらも要チェックである。

文=立花もも