日本列島は約3000万年前に大陸からちぎれて今の形に!? 日本列島形成の真相に迫る『新版 絵でわかる日本列島の誕生』
公開日:2021/5/13
イザナギノミコトとイザナミノミコトが空から矛で海をかき回し、矛先から滴り落ちた塩がたまって、“オノゴロ島”ができた――日本最古の歴史書『古事記』には、このようにして日本最初の島が誕生したと書いてあるそうだ。もちろん、これは神話のストーリー。では、実際のところ日本列島はいつどのようにして誕生したのだろう? 『新版 絵でわかる日本列島の誕生』(堤之恭/講談社)は、そうした疑問に地球科学の最新知見から応えながら、日本列島の成り立ちを解説していく1冊だ。
「大昔、日本列島はユーラシア大陸と地続きだった」ことを聞いたことがある人は多いだろう。でも、大陸からどのように日本列島は“独立”したのか、知っている人は少ないかもしれない。
その独立を説明するのが、“プレートテクトニクス”という学説だ。この説によると、地球表面には10数枚のプレートと呼ばれる岩板があり、それがバラバラに動くことでさまざまな地質現象を引き起こしている。ほとんどの地震の原因になっているのも、このプレート運動だ。
まず、日本列島の土台になっているのは、海のプレートが大陸のプレートの下に沈みこむときにできる“付加体”という海の岩石と陸の砂や泥が固まった地質。この日本列島の土台となった付加体が形成されはじめたのがおよそ6億年前だという。そして約3000万年前、またしてもプレートの運動で付加体が大陸からちぎれ、もともと湖だったところが太平洋とつながって日本海となり、日本列島の原型が形成されたそうだ。縄文時代の始まりが約1万年前だから、気が遠くなるほどの大昔の話である。
そんな大昔には人類文明が存在するはずもなく、もちろん当時の記録なんてものはない。そこで、日本列島形成の生き証人となるのが地層に含まれる岩石や鉱物だ。地球科学者たちはそんな岩石や鉱物を分析することで、プレートの動きや地質の形成、その年代を推測し、地球の営みを考察してきた。
本書では、そうした分析のひとつひとつが持つ意味を詳しく解説しながら、日本列島形成の歴史をたどる。その過程で紹介される「地球にかつて存在していたひとつの巨大大陸の姿」「なぜ日本列島が“逆くの字”になっているのか」「日本に火山帯が集中し、地震が多い理由」「いずれ日本にぶつかるハワイ」「現世は氷河期?」などのトピックスも興味深い読みどころだ。
そして、本書では新しいデータや観察事実が得られる度に学説がどのようにアップデートされていったのか、その研究史も紹介している。今では一般常識とされているプレートテクトニクス理論も日本で広く認められるようになったのは1980年代に入ってからだそうだ。
同時にそれは、日本の科学界で長く信じられていた説がプレートテクトニクス理論によって“誤り”とされてしまったことを意味する。誰も正解を知らない謎の真相を突き止めるため、現在も地球科学者たちはさらなる研究を進めていて、今後もしかしたら、現在正しいとされている学説が覆るようなこともあるかもしれない。この正解にたどり着こうとする探求の過程こそが、科学の面白さでもあるのだろう。
内容が内容だけに専門的な用語や記述も多くなっているが、タイトルの通りにふんだんにカラーイラストを用いた解説は丁寧でわかりやすい。想像を超えて壮大でダイナミックな地球の動き、複雑な日本列島形成の過程、その謎に挑もうとする人間の知性と探究心。そうしたものに興味がある人にはきっと楽しめる1冊になっているはずだ。
文=橋富政彦