会社のトップ5%の社員が習慣にしていることは? AI分析でわかった誰にでも真似できる習慣

ビジネス

更新日:2021/4/30

AI分析でわかった トップ5%社員の習慣
『AI分析でわかった トップ5%社員の習慣』(越川慎司/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 クロスリバーの社長として700社16万人の働き方改革の支援事業を行い、数多くの実践的なビジネス書を執筆している越川慎司さん。昨年9月には『AI分析でわかった トップ5%社員の習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を刊行。ビジネスパーソンに「効率よく成果を出す方法」を紹介する本書は、2021年4月現在で11刷・発行部数6万8100部となり、幅広い層から支持を受ける話題書となっている。コロナ禍の今こそ読むべき本書の内容について、著者の越川さんに聞いた。

advertisement

AIが導き出したシンプルで再現性の高い“習慣”

越川慎司さん
越川慎司さん

――“トップ5%”とは人事評価「上位5%社員」とのことですが、どういった経緯でその習慣についての本を書くことになったのでしょうか。

越川慎司さん(以下、越川) 私たちクロスリバーはクライアント企業の働き方を変えて、生産性向上を実現するためのコンサルティングをしています。これまでに700社以上に支援を行ってきましたが、どの会社でもトップ5%社員は常に突出した成果を出し続けて、高い評価を得ているんです。そこで、トップ5%社員が「どのような行動、働き方をしているのか」という点に注目し、調査と分析を行いました。その結果、トップ5%社員の行動や働き方には驚くほど共通点が多くあることがわかったんです。しかも、それらは誰でもすぐ真似して実践できるぐらいシンプルなものでした。実際、それらを他の95%の一般社員に実践してもらう再現実験を行ったところ、8割以上の社員で成果アップを実感したんです。つまり、このトップ5%社員の習慣や行動は他の人にも適用できる非常に高い再現性があるということになります。それを1冊にまとめて紹介したのが本書です。

――タイトルに「AI分析でわかった」とありますが、AIをどのように使ったのですか。

越川 クライアント企業25社にご協力をいただき、まずトップ5%社員と95%の一般社員、計1万8000人を対象に調査を行いました。トップ5%社員に対しては、アンケートやヒアリング調査のほか、日常業務を行っている間にデスクにウェブカメラや各種センサーを設置。さらに個人を特定しない形でメール履歴やビジネスチャット、オンライン会議を記録するなどして、あらゆる行動や発言内容のデータを集めました。その膨大なデータをMicrosoft、Google、Amazon、IBMの4社のAIサービスを使って分析しました。音声や画像の認識、発言の自然言語処理などを行い、トップ5%社員の共通点、つまり成功モデルを抽出し、95%の一般社員との違いを明らかにしたんです。

 AIを使った理由のひとつはとにかく処理速度が速いこと。膨大なデータをまとめて処理し、分析するといった作業を一部自動化して行いました。AIを使わずにこの大量のデータの集計、分析をしていたら、この本の完成まであと3年はかかったと思います。そして、何よりAIを使うことで人間では気づくことのできないインサイトを得られる点が大きいですね。たとえば、AIが声や表情から感情分析した結果、トップ5%社員はポジティブなコメントが全体の約31%もあり、その割合が他の95%社員より1.9倍も高いことがわかりました。また、トップ5%社員は「だけど」「でも」「ですから」「どうしても」といったダ行言葉を使って話す頻度が圧倒的に少ないと判明。こうした分析を数字に基づいて出すことは、人間のコンサルタントにはなかなかできません。この本に書かれているのは、このようなAIだからこそわかった分析結果なんです。

――実際にトップ5%社員の働き方を見て、越川さんはどのような印象を受けましたか。

越川 ひと昔前の“モーレツ社員”や“企業戦士”などと呼ばれた人たちとはかなり印象が違います。かつて仕事のできる人といえば、IQが高いエリートでとにかくたくさん働くことで成果を出すというタイプが多かったのですが、今のトップ5%社員はIQよりもEQ(心の知能指数)、つまりハートの力を重視しています。みんな、ものすごく謙虚でフレンドリーなんです。その人間力で人とのつながりを作って、チームプレイで成果を出している。実際、今は昔と違って仕事のあり方が業種を問わず、とても複雑で変化が激しくなっています。そこで、トップ5%社員はひとりでは複雑な課題解決なんかできないと割り切っているんですよ。だから、周りの社員たち、時には社外の人や顧客までを引き込んで課題解決をする“巻込力”がとても高いんです。

 そうした人間関係を構築するときも自分の能力を誇示してマウンティングをするのではなく、逆に「自分はこういうことが苦手」とか「この分野はちょっと勉強不足」といった感じで、自分の“弱み”を最初に見せる傾向があることもAI分析でわかっています。こうした態度を取ることで、皆が安心して腹を割って話せるようになるんですね。これは心理学でいう“自己開示”と“返報性の原理”と呼ばれるもの。トップ5%社員はこうしたコミュニケーションによって、より多くの情報や意見、アイデアを得て、成果に結びつけているんです。

――トップ5%社員はそうした心理学的な理論を意識して活用しているのですか?

越川 いや、これは完全に無意識なんです。トップ5%社員が意識してやっているのは“内省”の時間を持つこと。自分の仕事を振り返って、どんなことをしたときにうまくいったのか、あるいはうまくいかなかったのか、それを考える時間を作っているんですね。そこで成果が出たものを継続していくから、自己開示や返報性の原理を知らなくても、自然とそれが習慣になっていく。内省によって成果を出すテクニックを身につけることができるんですね。そして、内省することで自分ひとりでコントロールできることの限界がわかっているから、トップ5%社員は自分ではなく、相手を主役にしたコミュニケーションをするんです。

――相手を主役にしたコミュニケーションとは?

越川 たとえば、顧客に提案する資料作成をするとき、一般社員はパワーポイントなどで見栄えのいい資料を作り込むことに没頭しがちです。しかし、このときの資料の目的は見栄えのいい資料を作成することではなく、相手を動かして契約をもらうことですよね。自分が“伝える”ことではなく、相手に“伝わる”ことのほうが大事。トップ5%社員はそれがわかっているから「どうすれば相手がわかりやすく理解できて、行動を起こしてくれるのか」を起点にして資料を作ります。そのような相手を主役にしたコミュニケーションをすることが、結果的に人を動かすということがわかっているんですね。ですから、1枚の資料で相手に“伝わる”のであれば、無理に30枚の資料を作るようなこともしません。私たちがクライアント企業に行った調査では、一般的な企業では平均して1週間の仕事のうち14%を資料作成に費やしていますが、トップ5%社員の考え方はその時間を大幅にダイエットすることにつながります。このように目的意識をしっかり持つこともトップ5%社員の特徴のひとつです。

行動しなければ意識は変わらない

――トップ5%社員の習慣を参考にする際、本書の読者はどのようなことを意識したらいいでしょう?

越川 この本には働き方を変えるための60以上の具体的なテクニックを収めています。もちろん、それを全部やる必要はありません。最初から通して読む必要もなく、パラパラとめくって興味を持ったところや、自分で変えてみたいと思ったところから読んでもいいと思います。それで、ぜひやってもらいたいのは、書いてあったことをひとつでいいのでピックアップして、読んだ日かその翌日すぐに自分でやってみることです。読書などでインプットをしても、アウトプットにつなげる人は実は3割程度しかいません。しかし、実際に行動することでしか意識は変わらないんですね。だからこそ、ひとりでも多くの読者にこの“行動実験”をしてもらうことが本書の目的のひとつになっています。コロナ禍で働き方を変えざるを得なくなって大変な思いをしているビジネスパーソンは多いでしょう。しかし、コロナ禍が落ち着いたとしても、今後はずっと行動実験をして進化していくことが求められる時代です。だから、まず失敗を恐れずに行動をすることを心がけてほしい。それが本書の根幹のメッセージなんです。

――この本を読んでトップ5%社員の習慣を学ぶことで、読者にはどのような変化が期待できますか。

越川 まず、この本はトップ5%社員になることを目指す人に向けたものではありません。私は95%の一般社員にトップ5%社員の習慣を参考にして「“ラクして”成果を上げられる」ようになってもらいたいんです。現実に今は働き方改革が叫ばれ、より短い時間でより高い成果を求められる時代になっています。成果を出して、高い評価を得ることができれば、自分の裁量で自分の好きなように仕事をできるようになります。そのような“自己選択権”を持つことをトップ5%社員はとても大事にしています。それは仕事をすることで自分の幸せにつながる環境が得られるから。この本を使って、それを手にするためのショートカットを見つけることができると思います。

――本書の反響はいかがでしたか?

越川 想定外で嬉しかったことは、ビジネスパーソンだけでなく、非常に幅広い層に読んでもらえたことです。学生や主婦の方、そして地方公務員の方々から多くの好意的な感想をいただいています。やはり普段の生活の質を高める上でも、トップ5%社員の習慣が参考になるところが多いと感じてくださっているようですね。それと、もうひとつ嬉しい反応だったのは、多くの読者が読んだ後に周囲の人たちに本書を薦めてくれたことです。友人や同僚だけでなく、中には上司や夫にも薦めたという方もいらっしゃいました。本書が幅広い読者を獲得して部数をのばしているのは、こうした読者の皆さんの行動の波及効果があったからでしょう。私たちクロスリバーも現在「トップ5%社員増産計画」を各方面で展開しています。ダ・ヴィンチニュース読者の皆さんもぜひ本書を手にとって、自分の働き方を見直してみてもらいたいですね。

取材・文=橋富政彦

プロフィール
越川慎司(こしかわ・しんじ)
株式会社クロスリバー 代表取締役。株式会社キャスター 執行役員。元マイクロソフト業務執行役員
国内および外資系通信会社に勤務、IT ベンチャーの起業を経て、2005年に米マイクロソフト本社に入社。2017年にクロスリバーを設立し、メンバー全員が選択式週休3日・完全リモートワーク・複業を実践。
著書に『巻込力』(経済法令研究会)、『週休3日でも年収を3倍にした仕事術』(PHP研究所)、『科学的に正しいずるい資料作成術』(かんき出版)など15冊。