韓国SFドラマの金字塔! 男性ライターが夢中になった韓国ドラマ『シーシュポス:The Myth』の魅力とは
公開日:2021/5/3
2月から韓国での放送開始と同時にNetflixでも配信され、4月に最終回を迎えた韓国ドラマ『シーシュポス:The Myth』。『新世紀エヴァンゲリオン』とか『AKIRA』とか、M・ナイト・シャマランの映画とか、あるいはスティーヴン・キングの小説とか、そういう神秘系SF(という言葉があるのかわからないが)が好きな人には、絶対にチェックしてほしい作品だ。
まだ完結してまもない作品なのでストーリーの詳細を書くことは避けるが、ある飛行機事故をきっかけに、天才工学者であるハン・テスルの身に降りかかるさまざまな事件や謎が、全16話をかけて徐々に解き明かされていく、というのが本作のあらすじ。核戦争によって荒廃した未来と現代を行き来しながらスリリングな展開を見せるストーリーはそれだけでも視聴者を引き込む魅力満載だが、CGや特殊効果を駆使した演出や派手なアクションシーンなど、単純にエンターテインメントとしても目を離せない要素もまたこの作品には満ちている。タイトルはギリシャ神話からの名前だが(神々を欺き、大きな岩を山頂に運ぶという永遠に終わらない罰を受けた「シーシュポスの神話」がモチーフとなっている)、その名のとおり神話的に壮大な時間軸のなかで繰り広げられる一大SF叙事詩なのである。
もうそれだけで一定の人にはおもしろそうだと思ってもらえたと思うが、実際にめちゃくちゃおもしろいのだ。物語のキーとなる正体不明のスーツケース、未来から来たという登場人物、「アップローダー」「シグマ」など、飛び交う造語やテクニカルタームにハイテクマシーン……。さまざまな謎がエピソードを重ねるほどに繋がって一層複雑な様相を見せつつ、重大な真実を浮かび上がらせていく。1話の時点ではかなり入り組んでいたストーリーが徐々にひとつの大きな流れになり、一部で「神回」とも言われた最終回での怒涛の展開へと繋がっていくカタルシスは、通して2回観た今も衝撃として残っている。
しかも重要なのは、それを決して難解にすることなく、スタイリッシュに描き切っている作品としてのクオリティ。『梨泰院クラス』を手がけた韓国の放送局JTBCの10周年記念作品ということで、制作チームの気合も相当なものなのだろう。Netflixでは配信開始されるや否や全世界でTOP10入りを果たす好調ぶりを見せたが、確かにこのドラマは世界中のユーザーに受け入れられるだけのパワーを持ったドラマだった。
そんな物語を彩るのがこちらも豪華なキャストだ。主人公テスル役のチョ・スンウ(「秘密の森」シリーズ)、そしてテスルを守るために未来からやってきたカン・ソヘ役のパク・シネ(『美男<イケメン>ですね』)という2大スター共演が話題となったが、事実シリアスな言葉や表情での演技からハードなアクションシーンまでを演じる2人の演技力がこのドラマを牽引している。とくにパク・シネ。個人的にファンだというのもあるが、彼女のクールな演技をたっぷり観られるだけでもこの作品の価値はかなりのものだと思う。
それはさておき、実力派が揃った脇役陣も含め個性的な人物が次々と登場して織り成していく人間ドラマとしての側面もこの作品の魅力である。いまだにネット上ではドラマの結末をめぐる考察や賛否両論が繰り広げられているが、そうした議論を誘発するのも魅力的なドラマゆえだろう。今の韓国ドラマの底力を、このエポックメイキングな作品で味わってもらいたい。
文=小川智宏