コロナ禍で顕在化した格差とは?「婚活」「パラサイト・シングル」の名付け親が斬る

暮らし

公開日:2021/5/9

新型格差社会
『新型格差社会』(山田昌弘/朝日新聞出版)

「格差社会」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。

 多くの人は、経済格差を思い浮かべるかもしれない。

 新型コロナウイルスの感染拡大は、経済格差以外にもさまざまな格差を顕在化させてきた。『新型格差社会』(山田昌弘/朝日新聞出版)は、「家族」「教育」「仕事」「地域」「消費」の「新型格差」に着目する。家族や暮らしを研究する著者の山田昌弘さんは、「婚活」や「パラサイト・シングル」を名付けてきた社会学者だ。時代をつぶさに観察してきた著者が、現代の「新型格差」を考察した上で、これからの社会をより良くするために緊急提言する本書は、まさしく今読んでおきたい一冊である。

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「家族」は、大きな格差が広がってきている。まずコロナ禍では、婚姻数が大きく減少した(厚生労働省の速報値)。結婚を控えたカップルが結婚式の日取りを先延ばしした、結婚後の経済的生活に見通しが立たなくなった、などの影響が考えられるという。子どもの出生数も大幅に減少している。“将来の生活の見通しがつかない状況があれば、出生数は相当に減って当然”と山田さんは説明する。感染リスクを考慮して妊娠を避けたことなども想定される。経済的な不安は、少子化を加速させるほか、ドメスティック・バイオレンス(DV)を引き起こす可能性も。これには、「ステイホーム」で家族と過ごす時間が増えた影響もあるだろう。

 総じて、戦後型家族システム、つまり“「主に夫の収入で中流生活を維持する」という戦後型家族が限界点に来ている”と山田さんは指摘する。社会は、さまざまな形の家族をきちんと認めて、サポートしていかなければならなくなっている。

 地域格差も広がっている。「ニューノーマルな働き方」が推奨されて1年が経つ。リモートワークでも仕事ができる人は、職住近接の縛りがなくなり、東京から人が流出し始めた。しかし、「教育」や「医療」に地域格差があることは、意外な落とし穴だ。今後バランスが変わっていく可能性はあるものの、収入や健康に関しては、未来で新たな格差が生まれるかもしれない。

 また、ボランティアや地域活動には金銭的、時間的、労力的に余裕がある人々を要する。しかし地元意識の薄まってきた昨今では、余裕の生まれた人が都市部に転居してしまうこともあり、コミュニティが成立しづらくなっているという。

 山田さんは“令和は、「格差の存在を認め、それを踏まえた上で新しい形の社会をみんなで作っていく時代」になればよい、いや、するべきだ”と提言する。

 網羅的にコロナ禍を経験した社会のありようを考察した本書は、「新型格差」の現在地と未来の展望を知りたいあなたにおすすめだ。

文=遠藤光太