すべては自然界で生き残るため。“えげつない”寄生生物の世界へようこそ
公開日:2021/5/20
ほんのりとした色合いで彩られた可愛い漫画『えげつない!寄生生物』(成田聡子/新潮社)。そこにはくすっと笑えるような描写を交えたストーリーがある。ただ不思議なのは、登場するのが寄生生物と、寄生された生物であることだ。
次の2ページはショートショート小説である。主人公は寄生生物、もしくは寄生された生物やその仲間だ。質の高い物語に思わずのめりこんで読み終えてからが、いよいよ説明だ。なぜ、寄生生物は寄生した生物の行動や生命までも自由自在に操るのか。理学博士の成田聡子さんによる説明は、子どもの頃、理科が大の苦手だった私が読んでもわかりやすく興味深い。
本作のタイトルどおり、寄生生物はえげつない生き方をする。
例えばフクロムシに寄生されたカニは、性別問わずメス化する。フクロムシは自らの枝状の器官をカニに張り巡らせ、カニの神経系を操って奴隷にする。
ショートショート小説の主人公は、寄生されたカニの親友だ。
脱皮のたびに大きくなるカニ。「お前より大きくなってやるぞ」と競い合いながらも、兄弟のような存在だった親友が、あるとき脱皮してもハサミも体も大きくならなかった。逆に脱皮のたびにメスのように小さく、腹だけが大きくなり、話しかけても相手にされなくなった。
“僕はあいつがわからなくなった。親友が少しずつ別人になっていくような感覚だった。
そして、僕たちはほとんど会わなくなった。”
別人のようになったカニの身には何が起きていたのか、次のページで詳しく解説される。彼はフクロムシに寄生されていたのだ。
“フクロムシに寄生されたカニはみずからの子孫を残すことはできず、ただフクロムシに栄養を与え、卵を守り、孵化したフクロムシの子どもたちを拡散させるためだけに生きていく、まるで奴隷のような一生を送ることになります。”
他にも、アリの死ぬ時間や場所まで操るカビや、クモを操って巣を張らせた揚げ句、その体液を吸い取りクモの命を奪うクモヒメバチなど、多くの寄生生物が紹介される。
すべて漫画とショートショート小説の後、解説がある。すっとその世界観に入れるのが本作の大きな特徴だろう。映画を見ているときのはらはらした気分を味わえる。しかも描かれている内容は、どれもノンフィクションなのだ。
本作では、寄生された生物の哀れな運命だけではなく、生物に関する豆知識も得られる。
例えば一般には虫だと思われているクモ。実は昆虫ではなく、クモだけで構成されている生物群なのだ。
えげつない生き方をする寄生生物たち。その生き様は知的好奇心を刺激する。ちょっとした雑学を身に着けてみたい人には、ぜひ本作を読んでもらいたい。
文=若林理央