「いわくつき」品整理から展覧会の設営まで──博物館「学芸員」の仕事はやりがいもあるけど大変!
公開日:2021/5/18
最近はコロナ禍で休館になっているところも多いが、日本には多くの美術館や博物館が存在し、さまざまな物が展示されている。鎧兜など歴史的な遺物に感動したという人は少なくないだろうし、中には「将来、自分もこのような仕事に携わりたい」と考えた人もいるかもしれない。ではいわゆる「博物館」には、どのような人が勤めているのか。それは「学芸員」と呼ばれる、専門知識を持った人々である。しかしながらその仕事は専門的なので、あまり一般には知られていないだろう。だからこそ『ただいま収蔵品整理中!: 学芸員さんの細かすぎる日常』(鷹取ゆう/河出書房新社)のように、学芸員の仕事の一端を垣間見られるような書籍は非常にありがたい。
本書はひょんなことから郷土資料館でバイトをすることになった細野勇という女性が主人公。無論、限りなく現実に近いフィクションということなので、モデルは作者自身であろう。作者は国家資格である「博物館学芸員」を取得しており、資料館でのバイトが可能なのだ。勇がバイトする郷土資料館には多くの収蔵品があり、寄贈品など未処理の品は資料館とは別の、本書では廃校を収蔵場所として利用していた。そこで発生する悲喜こもごもが面白いのだが、特に興味を惹かれた部分を紹介したい。
収蔵品の大敵は「虫」!
人それぞれではあるだろうが、虫が苦手な人は少なくあるまい。そして文化財など貴重な遺物にとっても、虫は大敵なのである。家庭でお馴染みの「G」やハエなどの衛生害虫はもちろん、シロアリなどの家屋害虫のほか、紙や革製品にダメージを与える害虫も存在する。本書では「燻蒸」という強力な薬品を使って駆除する方法を紹介。もちろん一度駆除しても、今後繁殖しないように環境を整えることが必要であり、学芸員の日常はある意味、害虫との戦いといえそうだ。
企画展はこうして作られる!
恐竜展やミイラ展など、博物館などでよく行なわれる企画展。この設営も当然、学芸員たちの仕事だ。まず破損のないよう慎重に、展示物を収蔵庫から運搬。展示ケースなどの配置は、観覧者が見やすいように考えられている。展示物の説明文も当然、学芸員が書き起こす。子供にも読みやすいように、なるべく平易な文章にしなければならないのだ。また使いかたが分かりにくそうな物に関してはイラストも用いられるそうで、作者はそういう部分で自身の技能を活かしていたという。学芸員たちのさまざまな技能があって初めて企画展は作られるのであり、これまで何となく眺めていた展示物の見方も、本書のおかげで少し変わりそうだ。
収蔵品には「いわくつき」なモノも!
収蔵品には個人などから権利ごと譲られた「寄贈品」も多く、中には「いわくつき」な品も含まれる。そのため作者は資料整理の際には「身代札」「粗塩」「厄除守」を持参しているのだ。そして実際、作者を含め学芸員の多くは、いわゆる心霊現象の遭遇体験があるという。本書では学芸員が信仰道具の資料整理に携わっていたとき、体調不良をはじめとして身代札や厄除守の破損、粗塩の黒色化があったことが描かれている。そしてこれは「信仰道具の資料整理に携わっていた際の筆者体験談」なのだとか。ちなみに私がこの原稿を書いているとき(午前6時ごろ)に、玄関のドアを叩くような音が響いてきたのだが、これは──。
本書は郷土資料館でのエピソードがメインだが、どうやら学芸員とは相当大変な仕事らしい。専門知識に加え、本書の作者であれば製図の技術など、何かしらのスキルが必要となる世界なのだ。しかしそれでも学芸員は人気があり、競争率も高いのだという。それはやはり学芸員という仕事が魅力的であり、やりがいに溢れていることの証明のような気もするのである。
文=木谷誠