2022年本屋大賞最有力作!? 一穂ミチによる『スモールワールズ』を書店員たちが絶賛
公開日:2021/5/14
人生はままならないことの連続だ。もしかしたら、うまくいかない毎日の中で必死にあらがい続けることが、「生きる」ということなのかもしれない。一穂ミチさんの小説『スモールワールズ』(講談社)は、そんなやるせない思いを抱えながら日々を過ごしている人々にスポットライトを当てる6編の連作集。今、書店員の間で大きな注目を集め、「2022年本屋大賞の最有力候補」とも言われている作品なのだ。
この作品の登場人物たちは、皆、どう処理してよいのか分からない感情を抱えている。夫との関係に鬱々とする妻と、孤独な中学生男子(「ネオンテトラ」)。出戻ってきた姉に困惑する弟(「魔王の帰還」)。生後10カ月の孫が不審死を遂げ、疑惑を向けられる祖母(「ピクニック」)。兄を殺されて天涯孤独の身となった妹と、彼女と文通を続けるその加害者(「花うた」)。中年教師と、十数年ぶりに再会した子ども(「愛を適量」)。大切なことを言えないまま別れてしまった先輩と後輩(「式日」)…。登場人物たちの苦悩に触れるにつれて、きっと人は誰もがこんな風に悲しみを抱えながら暮らしているのではないかと思わされる。人生は誰にとっても思うにまかせないものなのかもしれない。そんな感慨とともに読み進めていくと、物語は私たちを思いもよらない方向へといざなっていく。
全国で募ったこの作品への応援店は170店を突破し、書店員からたくさんの絶賛の声が寄せられている。
凄い才能というか天才というか……。何かまだまだ自分が知らないだけで、まだまだ天才がいるんだという自分の不覚さを感じました。そして人間ってまだまだ捨てたものじゃないと思えた。
(東京 大盛堂書店 山本さん)
この短い物語たちの中に喜びや悲しみ、青春の甘酸っぱさや激しさ、繊細さ、生きることの絶望と希望……。ありとあらゆる感情の揺らぎがギュッと詰め込まれていました。多くの人たちに届けたいと心から思える作品に出会えました。
(福島 鹿島ブックセンター 八巻さん)
広い世の中で、人知れず傷ついている人に、そっと差し出したい本です。生きてきた時間も場所も、環境も違う人と、同じ世界を生きるのはすごく美しくてすごく苦しいと、改めて思いました。そして、苦しくて当然だと、初めて思えました。この本は、私の心に貼る絆創膏です。痛みは消えないけど、安心します。生きる自分を労りたくなる物語です。
(北海道 紀伊國屋書店札幌店 大石さん)
心の深い所にじんわりと沁み込んでいくような物語。ほの暗い想いを抱える登場人物たちに、なぜか親近感を覚えてしまう。いろんなテイストの物語が詰め込まれた、一冊で何度でも楽しめる。『スモールワールズ』、そのタイトルの通りの彼ら彼女らの身のまわりの小さな世界の物語たちは、とても愛おしい。
(東京 丸善津田沼店 西尾さん)
短編集ということでしたが、どの作品も全く違う手法で書かれてあって「本当に同じ著者なの?」と驚きました。どの作品も人と人の繋がりが書かれてあって、それぞれの交錯する想いに胸が痛くなりました。中でも「花うた」は私にとって特別な作品になりました。こんなにもいろんな感情を引き出されるなんて思いもしませんでした。読んでる途中、「えっ!」って声に出るくらい驚いたり、衝撃で目頭が熱くなったり。この作品読めてこんな読書体験ができて幸せでした。ありがとうございます。
(香川 TSUTAYA西宝店 今村さん)
怖くて、悲しくて、切なくて、美しくて、なによりひたすらに面白い。魔法も奇跡も、この世界にはあんまり存在しないのだと知ってしまった私たちのための童話集。日本中の読者が、一穂ミチの魔法にかかる日が楽しみで仕方ありません。2021年。2月だというのに、一年で一番面白い本に出合ってしまいました。
(佐賀 明林堂書店南佐賀店 本間さん)
ハラハラさせられたり、ゾクっとしたり、時にはホロリと泣けてきたり。この本の6編の物語にはそれぞれの味わいがある。あらゆる喜怒哀楽が込められた短編集は、ハッピーエンドとは決していえないけれど、バッドエンドともいいがたい。だけれども、読めば読むほど、気持ちがラクになっていく。ままならない自分の人生を何だか愛せそうな気がしてくる。
これほど書店員の間で評判の作品なのだから、「来年の本屋大賞最有力候補」との呼び声も納得だ。本好き代表ともいえる書店員の心を掴んだこの作品は、これから多くの人々の心を震わせるに違いないだろう。
文=アサトーミナミ