「いい意味で裏切られた感」「タイトルに込められた意味を知ってゾワっと…」一穂ミチ『スモールワールズ』を読書メーターユーザーはどう読んだ?
公開日:2021/5/20
作家・一穂ミチさんに大きな注目が集まっている。一穂ミチさんは、デビュー作『雪よ林檎の香のごとく』(新書館)や劇場版アニメ化された『イエスかノーか半分か』(新書館)などのBL小説で知られてきた小説家。そんな彼女の一般文芸作品『スモールワールズ』(講談社)が今、読書家たちの間で大きな話題を呼んでいるのだ。
この作品は6つの家族の光と影を描いた6編の連作集だ。夫との関係に鬱々としている主婦が家庭に恵まれない少年と出会う「ネオンテトラ」。出戻ってきた世にも恐ろしい姉とふたたび暮らすことになった小心者の弟の日々を描いた「魔王の帰還」。生後10カ月で突然死した孫のそばにいた祖母への疑惑ミステリー「ピクニック」。兄を殺された妹と、加害者の往復書簡「花うた」。十数年ぶりに再会した子どもと父親の不思議な共同生活「愛を適量」。大切なことを言えないまま別れてしまった先輩と後輩を描く「式日」…。すべてを読み終えた時、なんだか茫然としてしまったのは、きっと私だけではないだろう。誰だってきっと悲しみを抱えながら暮らしている。この作品では人それぞれの悲しみに視線が向けられるが、その先に、まばゆい希望が待ち受けているわけではない。だが、それでも、人生は続いていくのだ。ままならない人生を歩んでいく登場人物たちの姿にどうしようもなく強く胸を揺さぶられるのだ。
読書メーターユーザーたちはこの作品をどう読んだのだろうか。
あにゃまる
1番好きな作家さんです。これまでの作品はほぼハッピーエンドで終わっていたのでテイストの違いに驚きましたが、文章や表現、短編の繋がり方とか上手いなぁと思うしやっぱり大好きです。 人生って不幸で卑怯で不安で悲しいんだけど、小さな幸福と優しさと希望と喜びで帳尻取るしかないんだなというのをしみじみ感じました。 これまでの作品みたいにひたひたと幸せに浸れる読了感はなくて、人生の不条理をもやもやと考えてしまう作品でした。 これから一般向け作品執筆が中心になるのかな。変わらずBLも書いてくれると嬉しいなぁ‥
kat
BL作品はいくつか読んでいて、一穂さんの文章はとても好きなんだけど、いい意味で裏切られた感。少しずつ繋がりがある連作集で、最後が最初に繋がるから、小さな世界なんだね。世の中って意外に狭いよね。でも、それぞれの人生は想像もつかないほど深かったりする。6作品、全部良かったけど、「魔王の帰還」が好き。コミカライズされるそうなので、是非読みたい!あと「ピクニック」は怖かった。
niko
圧巻!各話が少しずつ重なる連作短編集ですが、まず、それぞれの物語の完成度が素晴らしい。そして、ラスト6話の「式日」から1話目の「ネオンテトラ」への繋がりが見えた時には震えました。それぞれの点が線になり、一つの輪になる小さな世界…タイトルの回収もお見事。背中を押されるもの、ゾクっとするもの、哀愁を感じるもの…と、読後の余韻もそれぞれ違い、重層的な一冊となっている。人間の怖さ、強さ、弱さが詰まっており、深層心理を抉る描写には心が疲弊した。恐らく、一穂先生が世に知れ渡るきっかけとなる作品。気になる方は是非。
よっち
ゆるく繋がった世界の中で繰り広げられてゆく、周囲には理解されづらい何とも複雑な思いを抱えている不器用な主人公たちが、目の前の現実に向き合って受け入れ、そっと寄り添うようになってゆくそれぞれのエピソードはとても印象的で、改めてこの著者さんの描く物語は好きだなとしみじみ感じました。
桜子@さりげなく復活♡
さり気なく繋がっている短編が6つ。さり気なく…がとても心地よく、こうやって私の世界も繋がってるんだろうなと思うと、心がジンとする。生きていると幸せばかりじゃなくて、逃げ出したいことも多くて。でも、フワッと柔らかい優しさに一瞬でも包まれると、なんだか生きて行けるって思えたりする。生きているとその繰り返しで、それって誰かと繋がってるってことで。うん、生きているって、やっぱりいい。
ほたる
驚くほど文章が読みやすくすんなりと自分の中に染み渡っていく感じだった。「ネオンテトラ」はこのタイトルに込められた意味を知ったとき思わずゾワっとしてしまった。「魔王の帰還」がこの一冊の中では個人的ベスト。ひと夏の青春の情景、そして絶対に曲がらない魔王の姿に涙を流さずにはいられなかった。「ピクニック」も丁寧な語り口調とは裏腹に思わず怖くなってしまった。「花うた」は書簡のやりとりが流れるように読め、最後の物語でジンとした。「愛を適量」は親と子の心温まる感じがした。「式日」は懐かしさが漂うお話。傑作でした。
れっつ
人は見かけによらない。先のことは誰にもわからない。どうしようもなく抑えきれない気持ちで行動してしまう時もあるし、言わないつもりの気持ちがふと滲み出す時もある。きっと誰もがうちに秘めた悩みや思いもよらない展開に翻弄されながら今を不器用に生きている。スモールワールズ、小さな世界たち。6章それぞれのテーマや描き方は時にコミック調、時に恋物語、時にゾクっとミステリーで、独立しているように見えて最終章は第1章へと回帰する。それは自分の物語かもしれなかった誰かの物語。何度でも読み返したくなる珠玉の1冊です。
6編の作品には人生のやるせなさが漂うが、それぞれの読後感はまるで異なる。ゾクっとさせられるものから涙を誘うものまでさまざまだ。おまけに、予想を裏切る展開に何度も度肝を抜かれる。一穂ミチさんはどれほどたくさんの引き出しをもつ小説家なのか。1人の作家がこんなにも多彩な作品を描けることに驚かされる。
人生の機微を鮮やかに描き出したこの短編集は、まだまだ多くの人に驚きを与えそうだ。一穂ミチさんの作品を未体験だという人も、ひとたびこの作品に触れれば、その魅力に心揺さぶられること間違いなし。今年最注目の作品をぜひともあなたも体感してみてほしい。
文=アサトーミナミ