アイデアを100案出すのに重要な3ステップとは? 思考をカタチにする方法を紹介/100案思考「書けない」「思いつかない」「通らない」がなくなる⑥
公開日:2021/5/25
『100案思考「書けない」「思いつかない」「通らない」がなくなる』から厳選して全6回連載でお届けします。今回は第6回です。
才能、センス、道具なんていらない。どんな場合でも、いいアイデアを考えてくる人には共通点があります。それは「とにかくたくさん数を出すこと」。1案しか持ってこない人のアイデアが優れていたことは、ただの一度もありません。ここでは“考え方”のヒントを教えます。
思考をカタチにする「3ステップ」
ここから、いよいよアイデア出しの全体像に進みましょう。
「え、全体像もなにも、つまんなくてもいいから、書けばいいんじゃないの?」
はい、ここまでそう説明してきました。
しかし、ただ紙に向かってやみくもに書くだけでは、100案は難しいでしょう。20〜30案で息が上がると思います。ただ出していくだけでは、この「アイデアの壁」を超えられないのです。
では、どうするか。必要なのは手順を踏むことです。具体的には、次の3ステップに沿って作業を進めることが重要です。
①インプットする
②アイデアを出す
③アイデアを選ぶ
多くの人にとって100案出すことが難しいのは、「①インプットする」をすっ飛ばして、いきなり「②アイデアを出す」に手をつけるからです。個人の頭の中にあるものなど、たかがしれています。まずは外からインプットしなければいけないのです。
また、せっかく100案出せても、その中からいい案を選べないと意味がありません。漫画やドラマのように「おぉ、これだ!」と満場一致で名アイデアが選ばれることは滅多にありません。いい案とダメな案は、意外と区別がつきにくいのです。「③アイデアを選ぶ」方法を理解している必要があります。
順番に説明しましょう。
①インプットする
『アイデアのつくり方』の著者ジェームス・W・ヤングは「広告マンは牛と同じである。食べなければミルクは出ない」と書いています。わざわざ本に書いてあるということは、放っておくと広告マンにかぎらずほとんどの人が、絶食状態で特濃ミルクを出そうとすることを意味しています。先述のとおり、アイデアとは「既存の要素の組み合わせや、その一部を変えたもの」です。もとになる「既存の要素」がなければ、組み合わせたり変えたりできません。
インプットといっても、大げさに構えることはありません。睡眠時間を削って本を何冊も読んだり、勉強会に出まくったりする必要もありません。本書では、どんなに忙しい人でも簡単に実践できるインプット方法を紹介します。
また、インプットをどう定着させるかに頭を悩ませている人も多いように思います。次々と出版される勉強術の本の内容を覚えるだけでも、ひと苦労です。ここでも、ご安心ください。インプットの定着に特別なルールは必要ありません。
②アイデアを出す
アイデアを出したいというニーズは多く、書店のビジネス書のコーナーでは、数多くの専門書が並べられています。「KJ法」「マンダラート」「マインドマップ」など、手法もさまざま。アイデア出しのためのアプリも多数存在します。
僕もいろいろ試してみたのですが……白状しますと、どれ1つとして長続きしませんでした(苦笑)。最初はいいなと思っても、すぐに飽きたり、面倒くさくなったりして、使わなくなってしまうのです。
「特別な用紙や複雑なルール、アプリなどを使う方法は長続きしない」というのが、僕の結論です。いくらそのやり方がかっこよく見えても、です。
この世界のどこかには、そうしたやり方が肌にあっている人もいるのでしょう。しかし、少なくとも僕のようなズボラ人間には向いていません。それに、特殊なメモや図を使ってアウトプットしている人を、僕はこれまで1人も見たことがありません。みなさんのまわりにはいますか? そういう人……。
本書では僕と同じような「ズボラさん各位」のために、僕が実際に仕事で使っている「書くだけ」の方法を紹介します。なにかを買ったり手順を覚えたりする必要はいっさいありません。絶対に誰でも実践できます。
③アイデアを選ぶ
どんな人でも100案出せば、その中にはいいものが、絶対に1つは含まれています。経験上、これは保証できます。しかし、ここからが問題です。100案の中からその1案を選ぶのは意外と難しいのです。
「ひらめいた!」と思った案を会議で見せると、みんなに苦笑いされた。
逆に、他の人が自信満々で披露した提案が、自分には全然いいと思えなかった。
そんな経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。いいアイデアとダメなアイデアは、意外と区別がつきにくいのです。
先日、書類を整理していたら、筆者が新人のころに書いたボツ・アイデアの山が出てきました。どれも自信作で、当時は「なんでこれがボツなんだ?」「上司もクライアントも見る目がないなぁ」なんて憤っていた記憶があります。しかし、今の筆者の目から見ると……どれも、悲しいくらいおもしろくなかったのです。これはボツになって当然と、自分でも納得……。
一方、さほど思い入れのない案が「いいね」と上司に評価され、困惑したことも思い出しました。
たくさん数を出したのに、どれがいいのかわからない。これはつらいものです。出口のない迷路に入り込んだような気持ちになります。僕の場合、この状態から抜け出すのに3〜4年はかかりました。
本書を読んでいるあなたには、同じつらさを味わってほしくありません。だから「インプット」と「アイデア出し」だけでなく、アイデアの「選び方」をのちほど詳しく記したいと思います。
ここではアイデアを選ぶ上で前提となる、「アイデアと人格を切り離すこと」について説明しましょう。
日本人は議論が下手だと一般的にいわれますが、その理由の1つに、「アイデアと人格」を同一視していることがあるように思います。相手の意見への批判を、人格批判と同じように考えてしまう。だから、思ったことを言えなくなる。実際、少し批判されただけで感情的になって、「じゃあ、代案を出せ!」と言ってくる人、いますよね。これではいいアイデアを選ぶことなんてできません。
とある著名なクリエイティブ・ディレクターは、コピーにダメ出しをする際、「君はいいコピーライターだけど、このコピーはちっともよくない」と言うそうです。これこそがアイデアを選ぶときの基本的な態度です。
人気クリエイターのアイデアはよくて、新人のアイデアはつまらない。そんなワケないですよね。しかし、人格とアイデアの区別ができない人は、しばしばこういう判断をします。アイデアには年齢も性別も人種も関係ないにもかかわらず……です。
現代社会では「差別はよくないこと」とされています。その理由は、倫理的に間違っているからだけではありません。アイデアそのものではなく年齢や性別で判断してしまうと、悪いアイデアが採用されて、社会全体が損をするからなのです。たとえば、「女性が考えたいいアイデア」より「男性が考えた悪いアイデア」が選ばれたら、長い目で見れば誰もが損をしますよね。残念ながら、少なからずある話ですが……。
「アイデアと人格」の同一視は、「自分のアイデアはよく見えてしまう病」にもつながります。苦労して出したアイデアは、自分の子どものようなものですから、欠点もかわいく見えるでしょう。他人のアイデアと並べれば、内容と関係なく自分のほうが優れていると思ってしまうものです。
しかし、他人のアイデアが自分のものより優れていても、人間性とはなんの関係もありません。他の誰かががあなたより優れているということでは、「まったくない」のです。誰のものであっても、いいアイデアがその場にあるのなら、ためらわず認めるようにしましょう。
「人格」を切り離すことは、アイデアだけではなく、ビジネスのあらゆる側面で重要です。
「あなたはいいプログラマーだけど、このアプリの仕様は間違っているのでは?」
「あなたは素晴らしい営業マンだけど、今月の成績は思うようにいかなかった。理由を考えてみてほしい」
「彼は優秀な経理担当者だけれど、今回だけは判断ミスだった」
こんなふうに議論できれば、個人にとっても組織にとっても風通しがよく、生産的になれるのはいうまでもありません。
さて、ここまで説明してきたアイデア出しの3ステップを、次のページにまとめておきます。
①インプットする
アイデアとは既存の要素の組み合わせか、一部を変更したもの。だから、既存の要素をインプットすることが、アイデア出しには欠かせない。
②アイデアを出す
アイデア出しに「質」は無用。必要なのは「量」。最初のうちは、最低100案は考えること。その中には、必ずいいアイデアが混ざっている。つまらないアイデアも出せない人に、いいアイデアは出せないと心得よ。
③アイデアを選ぶ
「好き嫌い」ではなく「良し悪し」で判断する。アイデアと人格を切り離すことも重要。そうして初めて、100案の中からいいアイデアを選ぶことができる。