LiSAと振り返る、10年間の「最高の日々、最高の道のり」――LiSA10周年インタビュー④

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公開日:2021/5/20

LiSA

 2011年4月20日。1stミニアルバム『Letters to U』で、LiSAがソロデビューを果たしてから、10周年を迎えた。『紅蓮華』や『炎』の驚異的な大ヒット、2020年末にはTBS「第62回輝く!日本レコード大賞」にて「日本レコード大賞」を受賞、NHK紅白歌合戦に2年連続出場――いまやLiSAを説明し、紹介するためのフレーズはそれこそ無数にあるけれど、10年前に歩みを始めたひとりのシンガー・LiSAが、最初から自信たっぷりで、すべてを成功させてきた完全無欠のスーパースターだったかと言えば、決してそうではない。傷つき、悩み、それでも楽曲を受け取ってくれる・ライブを一緒に楽しむ仲間たち、彼らがLiSAに託した夢が、彼女を奮い立たせ、その足を前に運ばせる力となってきた。LiSAがオンリーワンの存在であり続けている理由、それは聴き手に近づきたいと願う想いの強さであると思う。初めて話を聞かせてもらった2012年から、その印象はまったく変わらない。ブレることなく過ごした日々、進んできた道のりが、今のLiSAの楽曲やメッセージを形成しているのだ。

 今回は、5/18付のオリコンデイリーアルバムランキングで初登場第1位を獲得した10周年のミニアルバム『LADYBUG』のリリースにあわせて、10年間の軌跡をLiSAとともに振り返らせてもらった。『紅蓮華』や『炎』をきっかけにLiSAを認知し、彼女の歌にのめり込んだ方は、たくさんいることだろう。だからこそ、LiSAの原点・根幹を成す考え方をお伝えするために、10年間の前半について厚めに語ってもらうロング・インタビューとなった。5日にわたって、お届けしていきたい。第4回は、5周年を迎えた当時の心境と、2017年に発表した“Catch the Moment”前後にもたらされた転換について、振り返ってもらった。

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その人の時間をもらっている間に注げることを精一杯やること以外、わたしにできることはないなって思う

――2016年は、4月に2枚目のミニアルバム『LUCKY Hi FiVE!』をリリースしました。

LiSA:5周年ですね。

――「何年続けていくんだ」という目標って、そこまで明確に立てるものではないと思うんですけど、5年続けられたことについてはどう感じてましたか。

LiSA:あっという間に、5年が過ぎた感じはしていました。もうそのときはすでに、自分のスタイルが決まってきて、「5年、来たなあ」っていうよりは、「ここから行くぞ!」みたいな気持ちのほうが強かった気がします。

――振り返って「こんな5年間だったな」という感慨ではなく、進んでいくぞ、と気合が入っていた。

LiSA:はい。

――とはいえ、5年経過するまでの時点で、けっこういろんなことあったなあ、と(笑)。

LiSA:そうですね(笑)。なんだろう、人が就職して、いろんな経験をする感じに似てるのかもしれない、と思いました。5年経ってやっと慣れてくる、毎日出社していくことが自分の生活の一部になっていく感じ、というか。自然にそれができていく感じ。リリースして、リリースイベントをして、ライブする、みたいな自分の中の道筋のようなものがちゃんとできてきた。「これを続けていくと、こういうライブができるな。ライブを作るために、どういう音楽を作ろうかな」という目的地がある上での制作をしていく。その流れ、方程式が、自分の中でできた感じはありました。

――その時点で「ここから行くぞ!」と考えた先に、思い描いていたこととは?

LiSA:自分の中で、ひとつ武道館が大きな目標だったから、その先を思い描いていくのがちょっと難しかったりはしたんですけど、横浜アリーナとかさいたまスーパーアリーナのような場所で――今話した「こうしていけばライブができる」の感覚に似ていて、さいたまスーパーアリーナでやる、みたいな目標を、ちゃんと描ける希望は持っていた気がします。やっぱり、全国でのライブをすごく大切に作ってきたから、全国で行きたい場所、やりたい場所、みんなとやりたい夢が、できていきました。

――当時の発言を振り返ってみると、2015年あたりから発信する言葉が少しずつ変わってきたところがあるように感じる部分があって。自分の中でがんじがらめになっていた部分が、ちょっとずつ解放されて、「こんな自分も、いいじゃん」と思えるようになった時期でもあるのかな、と。

LiSA:そうですね。やっぱり1回挫けて、そこから復活劇を自分で作って――「こういう生き方がいいんじゃないか」って、ひとつの正解みたいなものができた気はします。

――『LUCKY Hi FiVE!』のリリース当時、本当の意味で支えてくれる人のことを信じて、自分の意思で進めるようになったんだ、と感じさせる印象的な言葉もありました。

LiSA:やっぱり、もともとの性質的にはすごく臆病なので、みんなのことが大事だけど、信用し切らないようにしてた節はあったと思います。だから、いつかいなくなるものなんだ、という前提でいた気がするんですけど、いなくならなかった現実を見て、「その人たちに全力を注いでもいいんだ」と思って――なんだろう、「永遠があるかもしれない」と思うようになった、が近いのかも。

――『Letters to U』をリリースしたときから、見てくれる人たちはそのときどきで必ずいたし、その存在はどんどん増えていったじゃないですか。だけど、自分自身のことを信じるまでは、時間を必要としたわけで、それはLiSA自身のどんな部分がそうさせていたんだろう、と思うんです。

LiSA:たぶん、5年目くらいの頃は、目の前にある人やものがいつかいなくなるものだと思っていたから、いなくなることを悲しまないようにしていた気がします。今は、ちょっと言い方が難しいんですけど、自分が大切にしてさえいれば、本当の意味では何もなくならないと思ってます。

――今まさに目の前にいないんだとしても、ということ?

LiSA:はい。今、その人との思い出の中に生きられるというのは、すごく幸せなことだなって思います。愛情の大きさとか形って、みんなそれぞれ違うじゃないですか。仕事をしてる中で、たま~に見つけて「あっ、好き」って思う感覚もきっと「好き」だし、夢中で追いかける感覚もきっと人に「好き」だし。信じてもらえてるかどうか、家族になれているかどうか、なのかなって思います。なんだろう、「最終的に家族になれたらいいのかな」って思ったというか。たとえば、全然会わない友達で、でもなぜかすごく信頼できる人っていたりしますよね、「あいつはきっと大丈夫だな」って思うし、何かあったら助けてあげたいって思うし、何かあったらわたしはきっと一緒に喜ぶし。冷めない熱というか愛情のようなものが、その相手に対してしっかりある。そうやって信じてもらえるくらい、今のわたしがその人の時間をもらっている間に注げることを精一杯やること以外、わたしにできることはないなって思います。

――なるほど。やるべきことが固まってきた、というか。

LiSA:そうですね。それは、“Catch the Moment”の歌詞に書いたことが、そのまんまそのとおりだったりもします。「今この一瞬に、自分がその人に対して何ができるか」っていう。お仕事に関しても、お客さんに対しても、普段の人間関係に関しても、それ以外のことってないんじゃないかなって思います。

LiSA

敵だと思っていた人たちも、全部味方に変えてやるって思ってました

――“Catch the Moment”がリリースされてもう4年経つけど、LiSAッ子にとっても欠かせないアンセムになったなと。この曲は今、どう見えていますか。

LiSA:わたしの性質の軸です。思い返せば、永遠とか人の気持ちとか、時が過ぎていくことに対して、とにかくわたしは臆病だし、怖くて。目の前から人がいなくなっていくことが平気になることは、一生ないと思います。人がいなくなっていくこと、人に嫌われること、人が離れていくこと、もしくは環境が変わっていくこと。それが平気になることは、今後もきっとないだろうなって。

 だけど自分の中で落とし前をつけるというか(笑)、落とし所として、この一瞬、その人と会っているその時間に、どれだけ自分が誠実に愛情を注げるのか、それ以外ないなって思うようになりました。それは自分の気持ちを解決するにも、相手に自分のありのままを見てもらって選んでもらうためにも、それ以外の方法はないなって思うんですよね。誰かがいなくなったあとって、納得していなくなったはずなのに、絶対に悲しくなるんですよ。アニプレックスから所属レーベルが変わるときもそうだったし。“Catch~”が、アニプレックスからの最後のリリースでした。

――なるほど。それでも進んでいかなきゃいけない、そのことに向き合っていたと。

LiSA:そうですね。とても幸せなことだけど、たとえば大人になって結婚して子どもを連れてライブに来てくれる子がいたり、それぞれが変わったり、それぞれが自分の道を選んで離れていく、いなくなっていくことってあるんですよね。それはもちろん、わたし自身もそうだし。その中で、自分が大切に思い続けているかどうか、そのときにどれだけその人たちと真剣に生きたかが重要なんだなって思います。

――すごいなあ……ここまでの話、何ひとつブレてない。2012年まで振り返って、そのときどきの言葉を振り返ってきたんですよ。当時と整合性が取れない言葉が出てきてもおかしくはないけど、まったくブレてないです(笑)。

LiSA:(笑)ちゃんとそのときどきで納得して言葉にして、曖昧な発言をしてないからだと思います。

――まさにそうなんでしょうね。「続けていけばまた会えるかもしれない。そのために今できることをやろうと思った」って、“Catch~”のときに言ってたわけです。4年越しでまったく同じことを言ってるんだなあって、今ちょっと感激しちゃった(笑)。

LiSA:確かに(笑)。アニプレックスから移籍した最初にリリースした(4thアルバムの)『LiTTLE DEViL PARADE』って、わたしにとって「昨日の敵は今日の友」みたいな意味合いがあったりするんですよね。デビルな気持ちも連れて、反骨精神じゃないけど、そういう気持ちも味方にして進んでいくんだ、みたいな。

――怒りのエネルギーが自分を動かした、というわけではないでしょう?

LiSA:ではないですね。でも、味方ではないと思っていた人たちも、全部味方に変えてやるって思ってました。

――同時に、LiSA的な存在に対するフォロワー、憧れが広がっていったのもこの頃だと思うんだけど、「LiSAみたいになりたい」と思ってもLiSAにはなれないわけで、そういう意味では新しいフィールドをどんどん切り拓いていたんだなあ、と思いますね。

LiSA:それを音楽に落とし込む場所を作ってくれた人たち、それを一緒に理解して楽曲を作ってくれた人たちも、ほんとの意味で強い味方がいっぱいいた気がします。

――2017年は、いろいろな意味で転換があった。

LiSA:ありました。2017年は、次に向かっての切り替えをしていく時期でした。

第5回へ続く(第5回は5月21日配信予定です)

取材・文=清水大輔  写真=藤原江理奈
スタイリング=久芳俊夫(BEAMS) ヘアメイク=氏家恵子