私のポンコツバイト伝説「ポンコツ人生」後編/伊藤沙莉『【さり】ではなく【さいり】です。』

小説・エッセイ

更新日:2021/6/7

6月10日に発売される、女優・伊藤沙莉さんの初のフォトエッセイ『【さり】ではなく【さいり】です。』。発売に先駆けて、本書からエッセイ「ポンコツ人生」を前後編でお楽しみください。

>前編はこちら

『【さり】ではなく【さいり】です。』
『【さり】ではなく【さいり】です。』(伊藤沙莉/KADOKAWA)

「ポンコツ人生」後編

その後の私はとにかくのび太。
元気な、昼寝をしないのび太。
喋り倒すのが大好きなのび太。

テスト0点なんて余裕でとっていたし
考えごとや妄想をしている時に話しかけられても
本当に全くと言っていいほど聞こえない。
言われたこととか、やってることとかやらなきゃいけないこととか
普通に忘れちゃう。思い出しても何故か後回し。

通信簿に書かれてたことといえば
大体マストで「落ち着きがない」。
中学の三者面談で担任が母に言った言葉は
「一度すっとびでてったら最後、戻ってこない」。
先生と母のトホホ顔が目に焼き付いている。

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中でも一部では有名だが
私のポンコツバイト伝説はまあまあある。
自分で伝説とか言うのもちょっとどうかと思うけど
もはや伝説なのだ。

 

コンビニのバイト中は
レジ打ち中にシンプルに就寝。
パンはレンジ内でシンプルに爆発。
ハッと起床した時とバンッと爆発した時のお客様の顔は、一生忘れない。

近くで何かがあったのか警察が訪ねてきた時
私は違うことに夢中でよく聞いてなかったが
一応店長に
「なんか知らないおじさんが何か聞いてきました」
と伝達した。
店長からしたら
それを聞いてどうしろと?状態だったと思う。
とても優しい粋な店長だったので
「警察とかじゃなくてか?」と聞いてくれたのだが
私は警察という認識をしていなかったので
「いや、違うと思う、普通の知らないおじさん」
と答えた。
こいつと話しててもらちがあかないと流石の店長も思ったのだろう。
防犯カメラを再生した。
警察手帳を私に向かってガッツリ見せていた。
その時の私はなんか全然違うとこ見てた。

気まずすぎたのでレジに戻った。

 

居酒屋のバイトでは
ビラ配りしてたら夜の散歩が気持ちよくなって
一時行方不明。戻った時死ぬほど怒られた。

ファーストオーダーは
キッチンに転送するのを忘れて
お客様の喉は一生砂漠。

差し入れのシュークリームをキッチンで食べてる時、
呼び鈴が鳴って
口いっぱいにシュークリームを詰め込んだまま
キッチンから出ようとしたところ
首根っこ摑まれてキッチンに戻された。
漫画かと思った。

クリーニング屋のバイトでは
朝のレジ作業を間違えてまさかのレジ締め。
その日の売り上げは0円となった。
いつも優しかったパートのおばさまからは
「伊藤さんね、前代未聞だよ……」
前代未聞なんて人に言われることが
人生に一度でもあるとは想像もしてなかった。

卵屋のバイトは
のんびりしてて、店内にはボッサとか流れてて。
あれ、オルゴールだったかな。
とにかく、たぶん一番性には合っていた。
けど、たまーに卵割っちゃったり、個数間違えたり。

こんな普通に笑えないことばかりしでかしてきた。

でも何故かどこの人たちもみんな優しかった。
もちろん毎度死ぬほど反省していたし
なんでできないの?!って自暴自棄にはなっていたが、
皆様の優しさに救われていた。

以前出演させて頂いた『A-Studio+』でも言ったが
9歳というかなり早い段階で
お芝居に出会えた私は相当ついていると思う。

それしかできないのだ。
お芝居はできてるとか完璧とか
そういうことではなくて、
シンプルに。
本当に正真正銘、性に合ってるんだと思う。

有難いことだ。
そんな職業に、お芝居に、出会えたんだから。
大事にしないといけない。
そこで出会った人たちも含め。
みんなに支えられて、ポンコツはやっと立てるのだ。
だけど甘えてばかりもいられないし、
ポンコツなりに支える側もやっていかなくては。

 

お世話になったバイト先の方々、
本当にすみませんでした。
本当にありがとうございました。

こんなんでもなんとか生きてます。
ポンコツからは以上です。

<その他のエッセイは本書でお楽しみください>