怒涛の9カ月連続放送! 今の『転スラ』を見逃すな!――『転生したらスライムだった件』中山敦史(監督)インタビュー

アニメ

公開日:2021/5/24

転生したらスライムだった件 第2期
TVアニメ『転生したらスライムだった件 第2期』 (C)川上泰樹・伏瀬・講談社/転スラ製作委員会

 スライムに転生してしまったサラリーマンが始める新しい異世界ライフ! 主人公リムルは彼を慕い集った数多の魔物たちと<ジュラ・テンペスト連邦国>を建国し、「人間と魔物が共に歩ける国」というやさしい理想を形にしつつあった。だが、この世界には、魔物に対して敵意を向ける存在がいた――。

『転生したらスライムだった件』は著者の伏瀬が小説投稿サイト「小説家になろう」で連載し、人気を集めた作品。川上泰樹によるマンガ版が執筆され、そのマンガ版をベースにアニメ化が行われた。アニメの第1期は2018年10月からスタート。第2期の第1部が2021年1月から3月まで放送され、4月からはスピンオフ作品『転生したらスライムだった件 転スラ日記』のアニメ版も放送開始。7月からは第2期の第2部が放送を予定している。

 インタビューシリーズのクライマックスを飾るのは、第2期の監督を務めた中山敦史。彼は第1期で副監督を務め、第1話や第7話をはじめとするキーとなる話数の演出を担当していた。演出家として実力を発揮していた彼が、激動の第2期をどのような想いを込めて制作していたのか、存分に語りつくしてもらった。

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『転スラ』は世界全体を描く物語。スケール感が尋常じゃない作品だと思った

――中山さんにとって『転生したらスライムだった件』は付き合いの長い作品になっているかと思います。作品全般に対する印象をお聞かせください。

中山:作品としてのスケール感が尋常ではないなと思っています。世界全体を描く物語になっていて、登場するキャラクターの人数も、キャラクターたちがたどっていくドラマや進化していく過程もボリューム感があって。自分たちがこれまで関わってきた作品の最大値を大きく超えたサイズの作品だと思っています。はたして、この規模の作品をアニメとして作れるのか、そこが最初は不安でしたね。逆に言うと、「それを描ききる」という思いが、やりがいになっているところがあって。とにかく膨大な物量を日々こなしていくことに向き合っています。

――第1期では中山さんは副監督という役割でした。同時に、各話の演出も担当されています。『転スラ』に参加した経緯を、あらためてお聞かせいただけないでしょうか?

中山:第1期の脚本会議の途中から、この作品に参加したんです。先ほどお話したように、作品のボリューム感がすごく大きいので、菊地(康仁)監督(第1期監督)の補佐として、現場で手が回らないところをサポートするかたちで参加させていただきました。実際には各話の演出も兼ねていたので、現場の作業を進めていく中で、ようやくやり方が見えたところで第1期が終わった、という感じでしたね。

――副監督のお仕事とは、具体的にどんなものだったのでしょうか。

中山:菊地監督とは具体的に作業を分担していたわけではありませんでした。作品全体のイメージづくりやアイデアを監督とふたりで出し合っていって。そこから設定やデザイン類を決め込んでいきました。第1期に関しては、菊地監督が絵コンテのチェックをされていたので、チェックを受けた絵コンテを現場で映像にしていくところを自分が見るかたちで進めていきました。

――第1期では第1話の演出を担当されています。第1話では三上悟がスライムとして転生するシーンが描かれますが、どんなところに注力されたのでしょうか。

中山:第1話の絵コンテを見たときに驚いたんです。第1話は特殊な内容で、まず転生する前のシーケンスをたっぷりと描いているんですね。しかも、転生したあとは目も見えないし耳も聞こえないところから始まって、スライムであることを少しずつ自覚していく。その過程をすごく丁寧に描いている絵コンテだったんです。でも、これは従来の作画アニメーションでは成立しそうもなくて、「これはどうしましょう」と。そこからスタートしたんです。

――第1話は、モーショングラフィックなどの表現を足すことで、ドラマチックに見せていましたね。

中山:アニメーション制作をしているエイトビットには、グラフィックデザイナーの生原(雄次)さんというスゴ腕の方がいらっしゃるのですが、彼のイメージをどんどん引き出して、誰も見たことのないグラフィックをメインにおいて、まとめていこうということになりました。グラフィックを多用した1話だったんですが、進化やスキル獲得の表現が作品にマッチしているのではないかという話になりまして。その後も、この方向性をどんどん活かしていこうという話になりました。

――モーショングラフィック表現は『転スラ』の特徴になりましたね。第2期の第35話の大賢者の進化シーンは、グラフィックだけでひとつのドラマが描かれていました。

中山:そうですね。第35話は第1話で転生した時と同じくらいのボリューム感のグラフィックシーンがありましたね。今回はリムル自身が魔王に進化すると同時に大賢者が進化するということもあったので、ここもグラフィックをたくさん使っています。

――第1期では第1話以外にも、たくさんの演出担当話数をお持ちです。第7話ではシズの過去といった物語のターニングポイントになる話数をご担当されています。

中山:第1期で言うと第1話と第7話がキーになる話数だと思っていて、そのどちらも米澤(優)さんというスペシャルな原画マンさんにひとり原画(1話分の全ての原画をひとりのアニメーターが作画すること)をお願いしたんです。米澤さんは演出までを含めた作画をしてくださったので、私はなるべく余計なものを挟まないような演出処理をさせていただきました。第7話は菊地監督も、色味や過去の世界のイメージをお持ちだったので、それほど試行錯誤はなかったかと思います。

――ひとり原画をするときに、演出は原画マンさんとどんなやり取りをしているんですが?

中山:基本的には、通常の作画打ち合わせよりもざっくりと、そこでひと通りその話数でやりたいことを全てお伝えするんです。そうすると、米澤さんが私のリクエストを上回るようなすばらしい原画をあげてくださる。演出としては楽をさせてもらいました。

――第13話は蜥蜴人族(リザードマン)と豚頭族(オーク)の決戦、第19話は暴風大妖渦(カリュブディス)戦と、かなり大がかりな戦闘が行われる話数です。

中山:どちらも作業カロリー的に重い話数でした。第13話はリザードマンとオークの集団戦闘。社内の原画マンさんだけでなく、たくさんの方がすごく頑張ってくださって、すばらしいものになったと思います。第19話はシリーズ後半の話数ということで限られた時間の中で、カリュブディスの巨大感を出すことは大変でしたね。空中にいるものなので、普通のセル描き(キャラクターと同じ作画)でやると、対比物がなくてなかなか巨大感が出ないんです。そこでカリュブディスを背景(美術)として描き、質感を出すことで大きさを表現しよう、と。カットごとに3Dやセルを使い分けながら、カリュブディスを表現していきました。

――いろいろな手法でカリュブディスを描いていたんですね。

中山:リムルたちがカリュブディスの上に乗ったりするので、基本的には背景で描いています。巨大感を感じさせるために、カリュブディスのまわりにカメラを回り込ませるときは、3Dを使っています。第13話も第19話も作業的には重い話数だったのですが、第1期の後半はどの話数も重たかったので、私の担当分だけが大変というわけでもありませんでした。

――そのあと24.5話として閑話「ヴェルドラ日記」のディレクターを担当されていますね。

中山:ほぼ第1期の制作のゴールが見えてきたところで「ヴェルドラ日記」を作ることになりまして。ここは筆安(一幸)さん(シリーズ構成・脚本)にラジオドラマを書いていただこうと。リムルのお腹の中にいるヴェルドラの視点で、これまでのドラマを振り返ってもらいました。最初は丁寧に振り返っていたんですが、途中から暴走していって。中盤からはイフリートとバカ話をしているという内容になってしまったんですけど(笑)。ある意味で、筆安さんの良さを活かすことができたんじゃないかなと思っています。

転生したらスライムだった件 第2期

転生したらスライムだった件 第2期

転生したらスライムだった件 第2期

リムルの感情を丁寧に追いかけていった第2期

――第2期から中山さんは監督として『転スラ』に関わっていらっしゃいます。第2期をどのように描こうとしていましたか。

中山:ひとことで言うのは難しいんですけど、『転スラ』はリムルを中心とした国造りのお話だと思っています。なので、リムルの行動がブレないように気を付けていました。リムルは、もともと三上悟という中年男性が転生した存在なんですが、そこをついつい忘れそうになってしまうんですね。ともすればかわいらしい女の子として描きそうになってしまう。でも、彼の芯は中年男性であり、自分なりの目的を目指しているのだということは、忘れないようにしています。

――そんなリムルを第2期で描くにあたり、どんなところに力を入れたのでしょうか。

中山:いまお話したこととは逆に受け取られるかもしれないですが、リムルと言うキャラクターは実は自由でもあるんですね。スライムと人間のふたつの状態を行き来していて、なおかつスライムのときは自由なかたちに変化するんです。第2期では、リムルが人間の姿でいることが多くなるので、スライム感がなくならないように、要所ごとにスライムの状態になるように気を付けていました。あと、第2期に関してはリムルの感情面を描くことに注意を払っています。リムルという人物は……最初はそうではなかったかもしれないですけど、現在はすごく仲間想いの人物になっている。今回、自分の国・テンペストやその国の人々が蹂躙されることで、感情に大きな変化が起きる。そういう部分は丁寧に描こうと思っていました。

――第2期ではジュラ・テンペスト連邦国にファルムス王国が侵略し、被害が出ます。それを知ったときのリムルの受け止め方が印象的でした(第31話)。

中山:リムルは、それを受け入れるまではある程度の時間がかかるだろうと思ったんです。悲しんだり、怒ったり、後悔をしたりといった感情まですぐには持っていけないだろうと思って。第31話では、大賢者と会話するところで自分の感情を整理していく。そこまではリムルは怒ったり悲しんだりといった感情すら整理できないだろうなと思っていました。

――リムルの感情を丁寧に追っていたんですね。

中山:本当なら、もっと話数をかけて描きたいと思っていましたが、さすがにリムルの心の葛藤だけで30分使うことはできなかったので。限られた尺の中でなるべく丁寧に描いていきたいと思っていました。

――ちょっとここで全く違う質問をしますが、もし現実にリムルみたいな人がいたら、アニメーションの現場は変わるでしょうか。

中山:もしアニメの現場にリムルがいたら、天下を取ったも同然でしょうね(笑)。口からペッと、すごい神アニメを出してくれるでしょう(笑)。しかも、大賢者や、あるいは智慧之王(ラファエル)もいますから。智慧之王はいろいろと自分で考えて、裏で作業を進めるようになってきましたし。リムルがいれば、すべての問題を瞬時に解決してくれるでしょうね。

――中山さんは、転生前のサラリーマン・三上悟のころから、リムルがこれほどの大人物になる可能性があったとお考えですか。

中山:まあ、そうなのではないかと思いますね。もちろん、あくまでそれは僕の個人的な考えで、原作者のみぞ知るところではあると思うんですが……。三上は第1話の冒頭からまわりの人を大切に思っていて、部下もすごく大事にしている。器の大きな人物だったんだと思います。

転生したらスライムだった件 第2期

転生したらスライムだった件 第2期

転生したらスライムだった件 第2期

リムルは正義でもなく、殺戮者というわけでもない

――第2期にあたり、原作者の伏瀬さん(小説版原作者)や川上泰樹さん(コミカライズ版原作者)とどんなお話をしましたか。

中山:第2期はテンペストが襲われて、『転スラ』全体の物語としても山になる部分だと考えていました。第1期は後半である程度ストーリーを端折って、シズが遺したイングラシア王国の子供たちを助けるところまで物語を進めていて、平和なエピソードで収まっていたので、第2期をどのようにつなげていくかが最初の問題としてありましたね。原作では、そのあとすぐにヒナタ(・サカグチ)戦に突入してしまうのですが、アニメ第2期をそこから描くと、描いていないエピソードが出てしまって、スムーズにつながらないんじゃないかという懸念があったんです。とくにユーラザニアの三銃士、ファルムス王国のヨウムとミュウラン、グルーシスの3人は今後重要な役割を担うキャラクターたちだったので、どこかで上手く見せていかないといけなかった。そこで原作者のみなさんを交えて、いろいろなアイデアを出し合いました。たとえば、第1期のラストからそのまま原作どおりヒナタ戦につなげてしまって、あとから回想シーンを挟むというやり方。あるいは、もうこのまま回想シーンすらも入れずにどんどん物語を進めるというやり方。いろいろなアイデアが出る中で、自分としては第2期がハードな内容になるのはわかっていたので、第2期のスタートからハードだと、第1期を見ていた人も違和感があるだろうなと思っていました。そこで第1期の平和な温度感を残しつつ、重要キャラクターをあらためて出していこうと。それで第25話から第29話までの構成を固めていきました。

――それで第25話、第26話に獣王国ユーラザニアの三獣士が登場するわけですね。

中山:そうですね。第1期の楽しい空気感を受け継ぎつつ、今後重要なキャラクターになる三獣士のスフィアとアルビスをここで出して、第2期のヒロインでもあるシオンと絡むことで、魅力的に描こうと考えていました。

――その平和な話数の裏で、ファルムス王国の陰謀が進んでいくわけですね。

中山:第29話以降は『転スラ』らしからぬラブロマンス的なものを混ぜつつ、ヨウムとミュウラン、グルーシスという重要なキャラクターを見せることができたら良いなと考えていました。あと、ドワルゴンではエルフのお姉さんたちを出して、第1期のような楽しい雰囲気を盛り上げています。第2期第1部でスポットを当てようと思っていたのは、シオンとシュナでした。今回はシオンにスポットが当たるのですが、それを受け止めるシュナもなるべく活躍させてあげたいなと考えていました。

――そして第30話からいよいよ怒涛の展開が始まります。西方聖教会聖騎士団長のヒナタ・サカグチをどのように描こうと考えましたか。

中山:これまではリムルが最強キャラクターだったのですが、今回はヒナタが、リムルよりも圧倒的に強いことをしっかりと見せようと考えていました。リムルもハクロウに鍛えられて、剣の腕前がだいぶ上がっているんですが、それでも太刀打ちができない。それを伝えるためにも、リムルのリアクションや表情で、追い詰められていく感じを見せていきたいなと。最後、リムルはユニークスキル・暴食者(グラトニー)を解放するんですが、もうあの時点でリムルは負けているわけです。リムル自身は認めないかもしれませんが(笑)、すでに分身体を作っているわけですからね。なので、そのグラトニーを出すところまで追い込まれていく過程をしっかりと見せたいなと思っていました。

――今回、ファルムス王国の軍勢など、大規模な戦闘が描かれます。こちらについてはどのように描こうとお考えでしたか。

中山:アニメにとってスケール感を出すのはすごく難しいことなんです。文章だと一文で「大軍」「数万の兵士」といった書き方ができるんですけど、それを絵で表現しようとすると、作画の労力のわりに陳腐に見えやすい。今回は3Dなどを駆使して、大規模な軍勢としてファルムス王国の軍勢を描くことができました。

――そのファルムス王国の軍勢に放たれる、リムルの神之怒(メギド)についてはどのように描写しようとお考えでしたか。

中山:原作の小説では、単純な魔法ではなく「物理的なものと精霊魔法を組み合わせたもの」とされていて、「空中に集めた水滴をレンズ状にして、太陽光を集束して発射する」という光学兵器的な扱いになっているんです。そこでこの設定を整理して、絵コンテにまとめていきました。メギドに撃たれた兵士たちは音もなく死んでいく。抗うことができない怖さみたいなものを見せようと考えていました。残虐ではあるけれど、光の乱舞として神々しさも感じさせるビジュアルになると良いなと思っていましたね。

――メギドは一瞬で1万人以上の命を奪う魔法です。リムルはここから魔王になるわけですが、彼をどんな人物として見せたいと思っていましたか。

中山:メギドを放つときのリムルの描写は、原作サイドの伏瀬先生や川上先生が一番気にされている部分でもありました。シナリオの段階から、しっかりとファルムス王国は悪の組織ですよと打ち出していて。そうやって、相手を殺す理由がはっきりしていないと、リムルがただの殺戮者になってしまう。もちろんリムルが正義とはいえませんが、相手側が悪逆非道なのだとわかってもらうことが大事だと思っていました。

――そして第2期第1部のラストにはヴェルドラがついに復活しました。人間の姿を得たヴェルドラをどのように描こうとお考えでしたか。

中山:第1期の第1話を演出していた立場としては、感慨深いところもあるんですけど、ヴェルドラのノリがすごく笑える感じなので、「ヴェルドラってこんなんだっけ?」って感じがありましたね。感動の復活という感じではなく楽しい感じで。第1部のラストの引きとしては、これで良かったのかな?という不安もあります(笑)。

――いよいよ第2期第2部のオンエアが迫ってきていますが、どんな第2部にしたいとお考えですか。

中山:『転スラ』はリムルが「自分の理想とする国を作る物語」です。仲間たちも大切にするし、自分の理想も捨てない。そういうリムルの目指している方向を、第2部ではちゃんと見せていきたいと思います。『転スラ』はバトルも熱くて面白いのですが、ほかの国と外交をしてテンペストという国を発展させていくことも、もうひとつの見どころです。バトルと国造りという両輪をこれからもしっかりと見せていきたいです。第2期第1部ではリムルたちは攻められていて、ずっと受け手側にいたのですが、第2部ではいよいよ反撃を始めます。第1部で活躍しなかった人たちも第2部では活躍するので、それも楽しみにしてください。第1部でフラストレーションを溜めていた方も、きっと発散できる第2部になると良いな、と思っています。

TVアニメ『転生したらスライムだった件』公式サイト

取材・文=志田英邦

中山敦史(なかやま・あつし)
アニメーション監督、演出家。演出と並行して撮影・CGでの参加作品も多数。監督作に『アブソリュート・デュオ』『コメット・ルシファー』(監督は菊地康仁、中山はシリーズディレクター)など。