ひとり身の生活が楽しくなるヒントも! 独身が独身として生きることについて書いた本/38歳、男性、独身――淡々と生きているようで、実はそうでもない日常。①

暮らし

公開日:2021/5/25


38歳、男性、独身――淡々と生きているようで、実はそうでもない日常。』から厳選して全5回連載でお届けします。今回は第1回です。

男女問わず共感できる、笑いあり涙ありの独身エッセイ、誕生!「そのうち結婚するっしょ」と思いながら、気づけばアラフォーになっていたすべての人へ。圧倒的共感でお送りする独身論。

38歳、男性、独身――淡々と生きているようで、実はそうでもない日常。
『38歳、男性、独身――淡々と生きているようで、実はそうでもない日常。』(ウイ/KADOKAWA)

はじめに

「いつかは自分も結婚するはず」と思いながら過ごす快適な独身生活について

 みなさんは洗い物をしている時に、蛇口から流れる水がお玉に当たり、噴水のように水が飛び散って、服や床が濡れてしまったらどうしますか。僕は顔色一つ変えずに洗い物を続け、黙って床を拭き、乾いた服に着替えて終わりです。

 ここで「見て見て〜。濡れちゃったよ〜」と眉毛を下げた情けない顔で濡れた服を披露し「あはは」と笑い合うことができる人が部屋にいたなら、日常の失敗は微笑ましい暮らしの1ページとして美しく昇華させることができるのでしょう。

 しかし、悲しいかな38歳独身。服を濡らそうが、咳をしようが一人なのです。18歳で始めた一人暮らしは、あっと言う間に20年が経過。「一人暮らし」と表記するよりも「独り暮らし」と表記したほうがなんだかしっくりくるような気がします。そしてその間、一度も結婚せずに今日まで健やかに過ごしてしまいました。

 いい歳をして独身だと、「この人は何か問題があるのかな?」と思われてしまうのが世の常です。若い頃は「そんなの被害妄想でしょ?」と甘く見積もっていたのですが、いざ自分がアラフォーの独身になってみると、決してそうではないことを知りました。いくら世間が晩婚化しているとは言え、マイノリティたる所以を、人は知りたがるのです。

 決して口に出すことはありませんが、巨額の借金があるとか、他人の気持ちに寄り添えないとか、異性に対してだらしないとか、理想が高すぎるとか、極度の潔癖症とか、満たされない性癖があるとか、人間として「欠点」とまで言わずとも「何かしら結婚できない要素」があるに違いないという目で見られてしまうことは確実にある。そして、みんな言わないだけで、実は自分には人として大切な何かが欠落しているのではないかと不安になり、自分で自分の欠点を探し回ってしまう時だってあるのです。

 

 果たして僕たち独身は難ありなのでしょうか。そんなことないと思いませんか。

 巨額の借金なんかしていないし、人に言えない変な趣味や、一生かけても満たされないような性癖もない。アイドルと結婚できると本気で信じてはいないし、SNSで他人を攻撃したりもしないし、世界の陰謀論を信じているわけでもない。ダイエットだってするし、体臭や身だしなみにだって気を付けている。

 確かに小さな欠点はいくつかあれど、ポジティブに捉えれば個性と言えなくもないものばかり。致命的な欠点はきっと一つもないと思うのです。

 

 僕たちはいつも目の前のことに一所懸命で、行儀よく、できるだけまじめに生きてきました。早起きしたり終電を逃したり、人間関係に悩んだりしながら、就業規則を守り働いているのです。そうやって働いて稼いだお金で毎月税金や家賃や光熱費を払い、友達と飲みに行って、それなりに恋愛もしてきたのです。そんなまじめな「普通の生活」の延長線上に、結婚とか子供とか旅行とかマイホームとか、子供の頃に提示されていたいわゆる「普通の幸せ」が存在すると思っていました。

 でも、そうではありませんでした。手元にあるのは、僕ならこの本で告白したような、傍から見れば実に淡々としているであろう独身の日々です。それが僕たちの日常であり生活であり人生であります。決して高望みしたつもりはないのに、おかしいな。

 

 ちょっと愚痴っぽくなってしまいました。そんなふうに一所懸命生きた結果、たまたま独身の僕たちですが、「不幸なのか?」と問われればきっぱりと首を横に振ります。僕たちは不幸なんかではありません。各々が誰にも見つからない場所に寂しさや不安を隠しながら、毎日楽しく生きているのです。きっと世間の皆様からも、僕たちは楽しそうに生きているように見えていると思います。

 僕たちは何を食べるも、どこに行くも、全ての決定権が手中にあります。そんな生活、楽しくないわけがないのです。時たま、どうしようもない不安から夜襲を受け、愛されたいと嘆く夜がありながらも、この自由と責任の狭間で生きる独身の生活が楽しくてしょうがないのです。

 

 この本は、どこにでもいる独身が、ただ独身として生きることについて書きました。僕は、きっとあなたと同じような駅に住み、同じようなものを食べ、同じような間取りの部屋で暮らしています。一生逃げ切るための資格やお金も持たず、孤独を抱えながらも、涼しい顔して電車に揺られて労働に勤しむ独身です。このまえがきも、代々木のドトールのカウンターの一番端で身を縮こまらせながら書いています。

 そんな独身が書いた本ですので、きっとこの本を読んでも恋人はできないし、年収も上がらないし、意識は高くならないと思います。

 でも、僕たちを取り巻く状況や、なんとなく感じている生きにくさや、足をすくってくる恐怖の正体、そしてなぜこんなにも独身生活が楽しいかについて、包み隠さず書きました。そこにはひょっとしたら、もう少し続くかもしれない独身生活が、今よりちょっと楽しくなるヒントもあるかもしれません。

 それだけではありますが、独身仲間の話を聞くつもりでぜひお付き合いください。

 

2021年 あと2か月で39歳になる初夏に

ウイ こと、ウイケンタ

<第2回に続く>