地球温暖化とも自然保護とも関係なくゴミ拾いをおすすめする理由/38歳、男性、独身――淡々と生きているようで、実はそうでもない日常。④

暮らし

公開日:2021/5/28


38歳、男性、独身――淡々と生きているようで、実はそうでもない日常。』から厳選して全5回連載でお届けします。今回は第4回です。

男女問わず共感できる、笑いあり涙ありの独身エッセイ、誕生!「そのうち結婚するっしょ」と思いながら、気づけばアラフォーになっていたすべての人へ。圧倒的共感でお送りする独身論。

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38歳、男性、独身――淡々と生きているようで、実はそうでもない日常。
『38歳、男性、独身――淡々と生きているようで、実はそうでもない日常。』(ウイ/KADOKAWA)

世界で一番正直な「ゴミを拾う理由」

独身男性が道端のゴミを拾う。その地球温暖化とも自然保護とも関係ない理由とは。

 定期的にゴミ拾いのボランティアに参加します。

 頻度は月に1回行けるかどうか。場所は山、海、街のいずれかです。

 僕がゴミを拾うきっかけとなったのは、シンプルに大好きな海と山が汚いことです。温暖化を止めたいとか、人の役に立ちたいとか、そんな大それた理由ではなくて、趣味であるアウトドアでお世話になっているし、単純に本当に自然が好きなのです。

 

 ゴミ拾いに参加していると、様々な人たちと出会い、色々な話を聞く機会があります。その中で特に印象深い話だったのが、環境活動家の方から聞いた「僕たちは毎週クレジットカード1枚分、1ヵ月でハンガー1本分のプラスチックを食べている」という話です。食ってねーし、と思ったのですが、どうやら食べているみたいです。

 山にレジャーで訪れた心無い人たちがゴミを捨てていくわけです。アホな顔して。街でも平気でポイ捨てする人がいるわけです。ダサいシャツ着て。

 山や街に捨てられたゴミは側溝等に溜まり、雨で流され川を経由し、最終的には海に流れ着きます。そのゴミが紫外線や潮水で劣化し分解されてマイクロプラスチックと呼ばれる小さな物質になり、魚や飲料水として僕らの体内に戻ってくるわけです。

 健康被害の度合いはまだ研究中でハッキリしたことは分かりませんが、おそらく僕らがマイクロプラスチックによって死ぬことはないでしょう。体調不良もないと思います。僕らの子供や孫やひ孫あたりは分かりませんが、人間はすごいのでマイクロプラスチックを分解できる身体に進化するかもしれません。

 動物にとってもゴミ問題は深刻です。海鳥の胃の中から大量のプラスチックゴミが出てきたり、イルカやカメが人間の出したゴミを誤食し、ビニール等に絡まり溺れ死んだりしているわけです。その映像を見ると心が痛みます。

 環境問題は無視できない状況です。エコバッグはもちろん、できればマイボトルも持ち、あとは過剰なプラスチック梱包に疑問を持ってほしいと思います。

 でも、僕は環境問題を持ち出してみなさんに「一緒にゴミを拾おうぜ!」と言うつもりはこれっぽっちもありません。人それぞれの価値観があります。

 

それでもゴミ拾いをおすすめしたいのは

 ゴミ拾いのイベントに参加すると、デモなどの環境活動に誘われます。押し付けてくるような人もいます。ほとんどノーサンキューです。しかし、それでも僕は、ゴミ拾いを今後も続けるし、みなさんにもおすすめする理由があるのです。

 

 これは、僕がゴミを拾ってみて分かったことでもあります。そして、ボランティアをする人があまり言わないことかもしれません。みんな感じているけど、言わないだけかもしれないし、こんなことを感じるのは僕だけなのかもしれません。

 僕がゴミ拾いをおすすめする理由。

 それは「自己肯定感がめちゃくちゃぶち上がる」ということです。

 早朝に起きて! わざわざゴミを拾う自分、最高‼ ってなるのです。

 ボランティアに参加しない時も、僕はゴミを拾っています。毎日ではありませんが、よく利用する自動販売機のそばで空き缶などを拾っては、すぐ横にあるゴミ箱に捨てています。マンションの郵便受けの周辺とかもそうです。

 マイボトルやエコバッグも持って、できるだけプラスチックを排除する。車ではなく自転車や電車を使う。飯は残さず食べる。これらは、地球のためでもあるのです。愛は地球を救ってくれないから。

 でも本音を言えば、地球よりも大事な自分のためなのです。

 マイクロプラスチックの話を聞いた時も「もっとゴミ拾わないと!」という感情はなく、正直に言えば「クレジットカード1枚分くらいへっちゃらだぜ!」って思ってしまいました。

 山や海を美しくしたい、という感情はきっかけに過ぎず、いつしかゴミ拾いの目的は自己肯定感をぶち上げて、自分への評価を◎にすることになっていました。

 

いつも何かが足りない人生に

 人生はいつも何かが足りません。仕事も思った通りにいかないし、友達は減るし、恋人もいない。放っておいたら自己評価は落ちる一方です。そんな中で自分に対して「今日の自分、最高だったぜ」って言える行為が、僕にとってゴミ拾いなのです。

 たとえば先週の僕ですが、

・LINEの返信が遅かった マイナス5点
・請求書の金額を間違えた マイナス10点
・締め切りを忘れた マイナス20点
・二日酔いで半日ムダにした マイナス15点
―合計 マイナス50点

 このマイナス50点を、「ゴミ拾いをした」プラス50点で、プラマイ0にしているわけです。人の役に立っている、地球のために良いことをしている、大勢の人が拾わないゴミを拾うナルシストなわけです。

 でも、それでいいんです。自分のこと、ちょっとだけ好きになれるなら。

 

 これを読んでいる方の中に自己評価が低い方がいらっしゃったら、試しに帰り道のゴミを拾ってみてください。誰も見ていなくても、自分は見ていますから。

 自分で自分のことを承認してあげないと、いつまでたっても自己評価は上がりません。こんなに一所懸命生きているのに、誰もOKを出してくれません。それなら、自分でOKを出してあげるのです。

 それに、自分で行う自分への承認は、SNSで他人から指一本で送られる承認なんかより何倍も心を満たしてくれます。

 僕は今後もゴミを拾う人生を選択したいと思います。

 大事な地球のためではなく、愛すべき自分のために。

<第5回に続く>