教科書が読めない、先生の解説が理解できない…。子どもの読解力低下は読書不足が原因?

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公開日:2021/5/28

読書をする子は○○がすごい
『読書をする子は○○がすごい』(榎本博明/日本経済新聞出版)

 子どもたちの読解力が、危機的な状況だ。

 2018年、全国大学生協連が、2017年10月~11月の期間で読書時間ゼロの大学生の割合が50%を超えたという調査結果を発表した。また、塾といえば高校生以下が連想されるが、昨今では授業がわからず塾に通う大学生がいるほか、塾の運営者によると、“そのような学生の多くは本を読まず、数学や物理といった専門知識以前に、国語力に問題を抱えているようである”とのことである。『読書をする子は○○がすごい』(榎本博明/日本経済新聞出版)では、そうした危機的な状況と、読書の効用について解説されている。『「やりたい仕事」病』など多数の著書で、心理学をベースとし、さまざまな知見を社会に提供してきた著者による新刊である。

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 人工知能研究の過程で、中高生が実は教科書を読めていなかったことが判明したのは、記憶に新しいところだ。

『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(新井紀子/東洋経済新報社)によると、AIが東京大学の試験を合格できるかチャレンジしたが、結果として実現せず、今後も難しいという見通しだ。一方で、難関私大には80%以上の確率で合格できるという驚愕の結果も示された。

 東京大学と難関私大の差こそが、本書が注目する「読解力」なのだ。AIは問題の意味を理解して解答しているわけではなく、確率論で答えを導き出しているにすぎない。しかし人間は異なり、問題を読み、咀嚼(そしゃく)し、理解した上で答えを導く。

 その能力が、落ちているというのだ。

“これでは授業に出てもついていけないだろう。教科書を読んでもわからない、先生の解説を聴いてもわからない。仮にわかりたいという思いが強い熱心な生徒だったとして、わからない箇所を教師に質問したところで、質問に対する教師の説明がまたわからないということになってしまう”

 そして、読解力不足によって引き起こされるのは、コミュニケーションのすれ違いだと著者は考える。

 確かに、世間には「わかりやすいもの」が増えすぎているのかもしれない。図解やパワーポイント資料、動画はわかりやすくて便利だが、根本にある「文章を読むこと」がおろそかになっていないかを振り返りたい。

 読書習慣は、神経線維の発達を促すとの研究結果もあるそうだ。本を読む習慣をどのようにつければよいかという点まで解説されている本書は、子どもだけでなく大人にも非常に役立つだろう。

文=遠藤光太