日ごろから肺をしっかりメンテナンス。「呼吸できる」のは幸せなこと/最高の体調を引き出す超肺活④
公開日:2021/5/29
『最高の体調を引き出す超肺活』から厳選して全5回連載でお届けします。今回は第4回です。
新型コロナウイルスで、もっともダメージを受ける臓器・肺。これまで注目を集める機会がなかった肺にこそ、最高の体調を引き出す力が秘められています。自律神経研究の第一人者が、肺の重要性を徹底解説!
エクモは「肺によるガス交換」を体外で代理しているだけ
「はじめに」でもお伝えしたように、新型コロナウイルス感染症の流行によって、ECMOの存在が有名になりました。ニュースなどで「人工心肺装置」と紹介されていますが、ECMOとはExtracorporeal Membrane Oxygenation(体外式膜型人工肺による酸素化)の略で、肺機能を代行する装置や治療のことを指します。
新型コロナウイルス感染症が重症化し、患者が重度の肺炎による呼吸不全を起こすと、人工呼吸器で高濃度の酸素を強制的に肺胞に送って呼吸をサポートします。
しかし、さらに肺炎が悪化すると、肺胞の損傷が止まらず、酸素を充分に取り込めない状態に陥ります。
このとき登場するのがエクモです。エクモは体外で肺機能を代行することで、肺を一時的に休ませて回復させる役割を担っています。
つまり、エクモは呼吸と循環に対する「究極の対症療法」であり、根治療法ではありません。
通常の治療ではただちに絶命してしまう患者や、臓器に回復不能な傷害を残すような患者に対し、治療や回復するまでの時間を確保するための装置です。
肺胞のメカニズムをエクモで知る
42ページのイラストをご覧ください。エクモによる治療は、太ももの付け根の静脈にカニューレと呼ばれる太い管を挿入し、血液を体外に取り出します。そこから遠心型のポンプを用いて人工肺に血液を送ります。
人工肺に送られた血液は、酸素と二酸化炭素のガス交換が行われ、管を通して首の静脈に戻されます。
人工肺は、肺胞と同じ原理を再現しています。人工肺の内部には多くの管が通り、高圧の酸素が流れています。この管の中の酸素は血液に取り組まれ、同時に血液中に含まれている二酸化炭素は管側に流れる仕組みとなっています。エクモは、肺胞で行っている機能をそのまま代わりに行っているわけです。
現在、全国にはおよそ2200台のエクモが配置されています。しかし、エクモを扱える医療従事者の数は足りていないのが現状です。なぜなら、新型コロナウイルスが蔓延する以前、エクモを使用する症例は大病院でも年間2〜3例程度しかなく、習熟するには10年以上の長い期間が必要だったからです。エクモに習熟した医療従事者を増やすことが重症化患者を救うカギになってきます。
また同時に、エクモの驚くべき機能が、私たちの肺にもともと備わっていることを改めて自覚し、肺の健康を保つことの重要性を多くの人に知ってほしいと思っています。
死を意識して気づいた「ただ呼吸できる幸せ」
かくいう私も、肺と呼吸の大切さを痛感した出来事があります。
じつは私は、50代の半ばに、呼吸ができずに死を目前にしたことがあるのです。
ある日を境に、ゴホゴホと咳が止まらなくなり、普段どおりの呼吸ができなくなってしまいました。1時間おき程度に咳が出て、息を吸うことも吐くこともうまくできない状態に。咳をしすぎて、腹筋から内出血を起こしていました。
喘息になってしまったのかと思いながらも、ちょうどニューヨークへの出張が決まっており、さまざまな薬を持って渡米しました。ニューヨークに着くと、症状はさらに悪化し、咳が止まらないどころか、数十秒、呼吸まで止まってしまったのです。
呼吸ができない時間はとてつもなく長く感じました。「大丈夫。すぐに戻る」と自分にいい聞かせながら、なんとか平静を保つものの、「死」という文字が脳裏に浮かんでいました。数十秒経って、呼吸することができるようになりましたが、そんな死と隣り合わせの状況が、数時間おきに1週間にわたって起こりました。
肺の病気は想像を絶するほど苦しい
病名は「急性喉頭蓋炎」でした。先に紹介した、食べ物が気管に入らないようにする喉頭蓋が急激に腫れ、気道が塞がることで窒息に至るケースが多い病気です。
適切な治療によって現在は症状が落ち着きましたが、思いがけず死にかけたことで、「ただ呼吸できること」がいかに幸せなことか、ひしひしと感じました。
COPDや肺炎など、呼吸器が病気になると、筆舌しがたい苦しみを味わうことになります。肺の機能の衰えは自覚症状が少ないため、「思いがけず病気になる」人がほとんどです。
繰り返しますが、肺胞は一度衰えると再生することができません。
呼吸ができない苦しみを味わわないためにも、いまのうちからしっかりと肺をメンテナンスしておくことが重要です。