とりあえずメタル、ついでにメタル/メタルか?メタルじゃないか?⑫
公開日:2021/5/29
“新しいメタルの誕生”をテーマに“BABYMETAL”というプロジェクトを立ち上げ、斬新なアイディアとブレること無き鋼鉄の魂で世界へと導いてきたプロデューサー・KOBAMETAL。そんな彼が世の中のあらゆる事象を“メタル”の視点で斬りまくる! “メタルか? メタルじゃないか?”。その答えの中に、常識を覆し、閉塞感を感じる日常を変えるヒントが見つけられるかもしれない!!
「とりあえずビールで!」「ついでに枝豆も!」
居酒屋などに入り、席につきネクタイを緩めたら、ついつい条件反射で言ってしまうこれらの言葉。社会人であれば誰しもが口にしたことがある鉄板フレーズではないだろうか。
いわゆる「定番」「お約束」といったリフレインとはとかく相性がいいのがメタルという音楽の大きな特徴だ。何と言ってもエレキギターの決まったフレーズをこれでもかと雨アラレのように繰り返してこそのメタル。基本的にメタルは、このギターリフと呼ばれるものを中心に出来上がっていると言っても過言ではない。
さらに言えば、曲の中で、ここでギターソロがくる! とか、ボーカルがシャウトする! といったキメの入るポイントが非常にわかりやすい。くるぞ……くるぞ……キターー! まるでジェットコースターに乗ってカタカタと頂上まで登って行き、一気に駆け下りるあの瞬間によく似ている。あるいはヒーローがピンチの後に繰り出す必殺技のようだとも言える。最初っから出しとけよ! というツッコミも含めて。
とかく日本人は、こうした型を持つものに愛着が湧きやすいのかもしれない。伝統芸能と言われるほとんどのものがそれぞれの型を大切に保持し伝承している。わかりやすいところで言えば、歌舞伎などはその代表的なものだろう。「見得」なんかはまさに、ギターヒーローが光速の速弾きを決めたあとのチョーキングのようではないか! しかも歌舞伎は、その時代時代の最先端の舞台技術やアートフォームを取り入れ、伝統と最新のバランスをうまく取りながら発展し続けている。
メタルもまた然り。伝統的な型を大切にしながら、様々な要素を取り入れて発展していっている。その結果多くのサブジャンルが誕生したり、楽器が進化したり、演奏や録音の技術が果てしなく高上したりというイノベーションにつながっている。一見、ただのメタルに見えても、よくよく見ると実は細かくアップデートされたものだったりするのだ。
一方で、「とりあえず」とか、「ついでに」といった、ライトな感じが一切ないというのがメタルの特徴でもあったりする。
ものすごい好きか、嫌いか。そこにグラデーションはあまりなく、パッキリと白か黒かで分かれている。よくブームに乗っかって何かを好きになる人たちのことを「にわか」と言って揶揄したりするが、メタルに「にわか」は存在しない。
それはおそらく、メタルが独自の型を持っているからに他ならない。しかもその型が、例えば歪んだギターの音だったり、それが隙間なく鳴り響き続けたり、ハイトーンを駆使するボーカルスタイルだったり、ツーバスをドコドコ鳴らすドラムだったり、あれ? ベース鳴ってるの?っていう轟音まみれのアンサンブルだったり、とにかく過剰な方向で定型化してしまったため、それを受け入れられる人と受け入れられない人がはっきりしているということになったのではないだろうか。
「とりあえずメタル」にはならない
ロックフェスの場面を想像してみてほしい。
サマーソニックでもフジロックでも、ロッキンでもいい。広大な会場に用意された、いくつものステージには、話題のバンドやアーティストが100組近くも参加している。オーディエンスは自分のお気に入りのバンドを見るために、次はここへ行ってそれからあっちに行って……と綿密に計画を立てる。時には、ステージからステージの移動のついでに見てみたいバンドなんかもあったりして、そうした新しい音楽との出会いがフェスの魅力のひとつだと言える。
しかし――。
「ついでにメタル見てみようか」
とは確実にならない。悲しいかな、ならない。
もちろんメタラー以外の人々が、フェス会場に到着するなり、
「とりあえずメタル!」
ともならないのである。
基本的に、メタルバンドには熱烈なメタラーが大集結する。そうしてどのステージよりも熱く盛り上がる。
「とりあえずメタル」「ついでにメタル」――そうしたポピュラリティーを得た、まるで生ビールのようなメタルがいつか出てくることを願いつつ、消費されすぎてもまた飽きられるだけだよなぁ、とも思う。
そう考えれと、ビールも一口にビールと言っても、その製法や産地によってずいぶん味が異なるものだ。実際スーパーの売り場を見てみれば、実にたくさんの種類のビールが売られているし、季節ごとに新商品が投入される。さらに、世間でどんなドリンクが流行ろうともビールはビールでそのポジションを確保し続けている。なるほど。ビールがいつまでも飽きずに愛され続ける理由がこのへんにあるのは間違いない。つまり、基本の型を保持したままアップデートを繰り返す、ということだ。ビールはビールのままでビールを超えていくからこそ得られるポピュラリティーがあるというわけだ。
メタルのトレンドにそこまでの流行り廃りのスピード感はないが、メタルもそうありたいものだ。メタルの魂百まで、メタルはメタルとしてこれからも進化してくことだろう。
STAY METAL!