人間にとって感染症は「常にそこにある危機 」。身近な病原体から健康を守るためのガイドブック『たいせつな家族を感染症から守る本』
更新日:2021/6/1
人類の歴史は感染症との戦いの歴史、なんてことがよく言われる。ペスト、天然痘、コレラ、結核、マラリア、スペイン風邪、エイズ、新型インフルエンザ――さまざまな病原体が引き起こす感染症とそのパンデミックは、世界の歴史の流れにも大きな影響を与えてきた。現在進行形で世界を脅威にさらしている新型コロナウイルスも、人類史に多大な影響を与えた感染症のひとつとして歴史に残ることだろう。そして、普段はあまり意識することはないかもしれないが、人間の一生もまた病原体と縁が切れない。人間にとって感染症は、常にそこにある危機なのだ。
『たいせつな家族を感染症から守る本』(生田和良/講談社)は、そうした身近な感染症からどのように身を守ればいいのか、その知識と対策を教えてくれる1冊だ。本書にはモデルケースとしてひとつの家族が登場。赤ちゃんからおじいちゃんおばあちゃんまで、それぞれのライフステージに関連のある感染症をそれぞれ取り上げていく構成になっている。1~3章では予習編として、感染症や免疫の仕組みを解説。細菌とウイルスの違い、その感染の仕方と予防方法、人間の免疫とワクチンのメカニズムなど、コロナ禍の今こそおさえておきたい情報をわかりやすく紹介する。
4章以降が各世代の日常生活で遭遇する可能性の高い感染症の解説だ。読み進めていくと、あらためて人間と感染症との関係の深さを実感させられる。なにしろ、私たちは生まれたばかりの0才児の頃から、スケジュールを組むのも大変なぐらい何度もワクチン接種を繰り返している。しかし、B型肝炎、ポリオ、破傷風、日本脳炎など、重大な感染症の数々を子どものうちからしっかり予防できるのもワクチンのおかげだ。
幼児期や学童期に入って集団生活が始まれば、感染性胃腸炎、手足口病、ヘルパンギーナ、りんご病、溶血性連鎖球菌感染症、プール熱、麻しん、水ぼうそう、おたふく風邪、インフルエンザといった感染症の流行に直面する。
思春期、青年期になると怖いのがエイズや梅毒、クラミジアといった性感染症の感染だ。妊娠中は胎児へ母子感染して早産や死産を起こし、障害のある赤ちゃんが生まれることもある風しんに注意しなくてはいけない。
働き盛りの成人期以降は、海外旅行や出張で日本ではほとんど発生しない狂犬病やデング熱といった感染症に感染してしまう危険性がある。実際に海外から日本に戻ってから発症し、感染が広がる輸入感染症もかなり増えてきているという。新型コロナウイルス感染症はまさにそうした輸入感染症だ。
そして免疫が衰え始めて、基礎疾患をもっていることが多い高齢者にとって感染症はさらに大きな脅威になる。ちょっとしたことで肺炎になってしまうし、それまで免疫の力で防いできた感染症にもかかりやすくなっている。病院や高齢者施設に入っていても、抗生物質の乱用が生み出した薬剤耐性菌、高齢者が重症化しやすい感染性胃腸炎に気をつけなければならない。感染症を引き起こす病原体は、どこまでも人間につきまとうのだ。
本書ではこうした数々の感染症の症状や対処法について詳しく紹介してくれるほか、検査やワクチン、医薬についても解説。人間の生活の身近なところに潜んでいる感染症を防ぎ、身を守るための役立つ知識がしっかり詰まっている。本書のまえがきで著者は次のように言う。
“感染症は災害に似ている。忘れたころにやってくる。だから備えよう。”
本書はさまざまな感染症から身を守るために役立つガイドブックとして、まさにそうした“備え”のひとつになるはずだ。
文=橋富政彦