諦めずに新たな一歩を踏み出すとき、大事なこと。『明日の私の見つけ方』/佐藤日向の#砂糖図書館⑱

アニメ

更新日:2021/5/29

声優としてTVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』などに出演、さらに映像や舞台でも活躍を繰り広げる佐藤日向さん。お芝居や歌の表現とストイックに向き合う彼女を支えているのは、たくさんの本やマンガから受け取ってきた言葉の力。「佐藤日向の#砂糖図書館」が、新たな本との出会いをお届けします。

佐藤日向

先日、レストランを劇場と見立てて芝居を展開する舞台に出演させて頂いた。
この公演は、実際にレストランの中でお客様もいる状態で芝居を展開していくため、まるでレストランで働いているような気持ちになれる。そして、公演を終えるごとに歌って踊る筋肉とはまた違った、張り詰めた緊張感が常にある中で働き続けることの大変さを実感した。

今回紹介するのはレストランが舞台になっている、長月天音さんの『明日の私の見つけ方』という作品。旅館が実家の主人公が、両親を亡くしたことをきっかけに都内の飲食店へ就職し、時に厳しく、時に優しい、愛情深い先輩たちと共に成長していく温かい物語だ。

この物語に登場する「支配人」によって、主人公だけでなく読者も成長させてもらえる物語になっているのが印象的だった。例えば、主人公は店舗に配属された初日に「今のあなたは新しい環境になれることが最優先ですが、いつでも立ち止まって考えられるということも忘れないでください。たとえそんな時がきても、ここでのあなたの経験は、様々な形で活かせるはずですから」という言葉を、支配人からかけてもらう。この言葉が、私の中にじんわりと残った。

誰にでも新たな一歩を踏み出した瞬間は、一年生のような感覚でドキドキしながら、場に慣れることを優先させると思う。だが、諦めることと、立ち止まって考えた時にまた新たな一歩を踏み出そうと考えることは違うはずだ。

普段芝居をやる中で、「この芝居から変えない」と決めつけてしまうのはこだわりではなく逃げだと考えるようにしている。稽古期間や収録までに何度も自分の芝居を客観的に見て、演出家さんにダメ出しを頂いたうえで、自分自身でどれだけ芝居に磨きをかけていけるかが勝負だと思っているからだ。
諦めることは簡単だが、雑草精神で根強く頑張った後の達成感や経験値は、何にも変え難い宝物に変化する。きっと本作に登場する「支配人」は、どの職業に対してもそういった考えた方を持っている方なんだろう。

作中に登場する先輩の「謙虚に、でも図太くなること。負けるもんかって思えるかどうかで、その先の未来も、先輩たちの見方も変わってくる」という言葉の通り、やると決めた事に誠実に向き合うことで、初めて人として成長出来るのだ。

5月末になり、新たな環境に慣れ始めた今、この作品を読むことで、挫けそうだった心が「もう少し、ほんの少しだけ頑張ってみてもいいかな」と思える。
まるでエールを送ってくれているような本作の「支配人」たちは、きっと貴方の心を救ってくれるだろう。

さとう・ひなた
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして、メジャーデビュー。2014年3月に卒業後、声優としての活動をスタート。TVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)のほか、映像、舞台でも活躍中。