原田マハ渾身の傑作!「ゴッホの死」の謎に迫る魂のアートミステリー

文芸・カルチャー

更新日:2021/6/3

リボルバー
『リボルバー』(原田マハ/幻冬舎)

「ひまわり」などの作品で知られる画家・フィンセント・ファン・ゴッホと、「タヒチの女たち」などの作品で知られる画家・ポール・ゴーギャン。あまりにも有名なこの2人の天才画家がかつて共同生活を送っていたことをご存じだろうか。

 ゴッホが敬愛するゴーギャンを呼び寄せる形でスタートした共同生活だったが、強烈な個性をもつ2人はすぐに仲違い。ある時、口論となり、ゴーギャンは家を出、ゴッホは左耳を剃刀で切り落とすという奇行に走った。事件後、2人は顔を合わすことはなく、ゴッホは孤独と狂気とに苦しめられていたらしい。

 そして、その1年半後、ゴッホは、パリ郊外の農村で、わずか37年の生涯を終えた。精神病の発作に苦しめられた末の拳銃自殺と言われているが、目撃者はおらず、今もその死は謎に包まれたまま。ゴッホはどうして死を選んだのか。彼の死を聞いた時、ゴーギャンは何を思ったのか。今となっては「ゴッホの死」の真相、そして、彼らの思いを知るよしもない。

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『リボルバー』(幻冬舎)は、アート史上最大の謎「ゴッホの死」に現代の女性研究者が迫る傑作ミステリー。著者の原田マハ氏といえば、『楽園のカンヴァス』や『暗幕のゲルニカ』『たゆたえども沈まず』『美しき愚かものたちのタブロー』などの著作で知られるアート・ミステリーの第一人者。アート好きもそうではない人も、この本を読むにつれて、ゴッホとゴーギャンのかけがえのない関係、彼らが絵画にかけた情熱、そして、原田マハの描き出した「ゴッホの死」の真相に胸を熱くさせられることは間違いない。

 主人公はパリ大学で美術史の修士号を取得した高遠冴。彼女は小さなオークション会社・CDCに勤務するオークショニアであり、ゴッホとゴーギャンをテーマに博士論文を執筆する研究者だ。高額の絵画取引に携わりたいと願っていた冴のもとにある日、錆びついた一丁のリボルバーが持ち込まれる。持ち主によれば、それはゴッホが自殺に使用したものだという。その真贋を調べるべく、冴は調査を始めるが、謎は謎を呼ぶばかりだ。

「ファン・ゴッホは、ほんとうにピストル自殺をしたのか?」
「――殺されたんじゃないのか?……あのリボルバーで、撃ち抜かれて。」

 ゴッホとゴーギャンの絵画を心底愛し、真実を知りたいと奮闘する冴のひたむきさに心奪われる。謎解きもスリル抜群。この錆びついたリボルバーにどんな真実が込められているのか気になって仕方がなくなってしまう。

 そして、物語が進むにつれて、絵画や美術史でしか知りえなかったゴッホとゴーギャンが生身の人間として眼前に蘇ってくるのだ。ぶつかり合い、傷つけ合い、のたうち回りながら、新しい絵を描くという道を突き進んでいった2人の天才画家。高みを目指す彼らの友情と、嫉妬…。一途で人間くさい彼らをどうして愛せずにいられようか。

 ゴッホに何があったか、ゴーギャンが何を感じていたのか、実のところはわからない。だが、原田マハの描き出したこの温かいフィクションこそが真実であればいい。いや、真実に違いないと思わされてしまう。孤高の画家たちの魂の物語は、きっとあなたの心も震わせるに違いないだろう。

文=アサトーミナミ