その習慣、ストレスかも? あなたの「やめたらラクになる」が見つかる事典

暮らし

公開日:2021/6/5

やめてもいいこと86 心の疲れをとる事典
『やめてもいいこと86 心の疲れをとる事典』(西多昌規:監修/朝日新聞出版)

 外出自粛が必要とされ、何かと行動が制限される今。不自由な生活の中で、先が見えないことへの不安から、長時間働いたり節約や自炊にいそしんだりと、平時よりもがんばっている人もいるはずだ。しかし、それらが自分にとって本当に必要なことかどうか見極めている人はどのくらいいるだろうか。人と会話する機会が減ると自分の生活をなかなか客観視できずに、実はストレスフルな行動を続けていた、という経験があるのは私だけではないはずだ。

『やめてもいいこと86 心の疲れをとる事典』(西多昌規:監修/朝日新聞出版)は、精神科医の西多昌規氏が、コロナ禍で見直されつつある習慣も含めて、やめると心が軽くなる「やめてもいいこと」をまとめた本だ。「働き方」「人間関係」「お金」「習慣」「自分の考え方」という5つのパートで紹介されるトピックの中には、「プライベートをあきらめて仕事にすべてを捧げる」といった明らかにやめたほうがよさそうなこともあれば、「職場ではいつも笑っている」「理想の相手を求める」など、やめるという発想自体が生まれにくいものも。「何かあると『自己責任』と思ってしまう」「ついマウントをとってしまう」など、考え方のクセとして指摘されるものの中には、心当たりを感じてドキッとしてしまう項目もある。

 この本が目を引くのは、ただこれらの習慣を並べるだけではなく、その習慣がストレスを生む理由と、やめたらラクになる理由を、脳の仕組みや医学的な観点を交えて解説しつつ、さらにはリアルな生活に寄せた「やめるための具体策」を提案していることだ。

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 たとえば、「仕事のメール・LINEは即レスする」という、一見、模範的な行動もやめてもいいことのひとつだ。著者は、「常に連絡がきていないか気になる」「鳴っていないのに着信があったような気がする」というスマホ依存の症状が起きるリスクも指摘。仕事外の時間はスマホと距離をとることを勧める一方で、日程調整など必要な内容にはすぐに返事をして、返信に時間がかかる場合は「2~3日お時間をください」と連絡すべき、とアドバイスする。

 生活面の例を挙げると、「『寝なきゃ』と思う」こともNGだ。不眠症治療において「寝なきゃ」は意識をクリアにしてしまうため、避けるべき言葉だという。また、眠くないのにベッドに無理に入ると、ベッドが「居心地の悪い場所」になり同じ場所で安眠しにくくなるとも言われている。「やめてもいいこと」が、多くの人のストレスと向き合ってきた専門家の言葉によって解説されていることで強い説得力を持ち、やめるべき理由がスッと腹落ちする。イラストレーター・うのき氏の笑えるイラストも相まって、「やめよう」という言葉がポジティブに心に響いてくるのだ。

 そしてこの1冊を読むと、実はやめられないことの多くが、自信のなさや不安から生じていることがわかる。自分を苦しめる習慣を生み出す正体を知るだけで気持ちが楽になり、冷静に対策を打つことができるのだ。さらにこの本は、SNSやスマホとの付き合い方についても気付きを得られる。「SNSの投稿にすべてリアクションをする」「『いいね』が自分の価値のように感じる」などのSNSにまつわる項目のほか、他人と自分を比べたり、他人の目を気にしすぎたりといった考え方のクセにもSNSが影響している。SNSにアップされている素敵な部屋の写真は本当の生活とは限らない、「いいね」を押し続けてもリアルな生活は充実しない、といった著者の指摘は、多くの人の胸に刺さるだろう。

 特に、周りの気持ちに敏感でつい我慢してがんばりすぎてしまう性格の人にとっては、思い当たる「やめてもいいこと」がきっとあるはず。しかもその中には、周りや自分にとって良かれと思ってやっていることもあるから厄介だ。がんばっているのに報われない、しかも毎日疲れている。そんな実感がある人が、今を少しでも楽にしたいなら、読んでほしい1冊だ。

文=川辺美希