ダ・ヴィンチニュース編集部 今月の推し本+【6月テーマ:雨の日に読みたい1冊】
更新日:2021/6/4
ダ・ヴィンチニュース編集部メンバーが、月ごとのテーマでオススメの書籍をセレクトする、推し本“+”。6月のテーマは、「雨の日に読みたい1冊」です。
遠いほどいい、雨の日は異世界へ 『すべては愛に』(ギリアン・ヘルフゴット/KADOKAWA)
雨の日は、ピアノの音色に癒されたくなるし、自分からほど遠い世界に身を置いてみたくなる。『すべては愛に』は、精神を病んだ天才ピアニスト、デヴィット・ヘルフゴットの生涯を妻の視点で綴ったノンフィクションだ。重く苦しい彼の運命を無条件の愛で受けとめ連れ進んでいく様に没入しながらも、これが実話なのか、と唖然とした。それほどドラマチックな人生は、度々映画でも描かれている。彼女の「夫の下取りがあればぜひ利用したい」という言葉には少し安堵した。(中川寛子/ダ・ヴィンチニュース副編集長)
何もしたくないけど楽しいことないかな… という気分の日は、スカッっと笑えるエッセイを『牛への道』(宮沢章夫/新潮社)
どんよりした天気が続き、やる気が出ず、ソファから動きたくない……。そんな日におすすめのエッセイ。宮沢章夫さんのエッセイはどれも無条件で面白い。凡人なら見落としてしまうであろう日常生活に潜むちょっとした違和感から、あれよあれよと突拍子もない方向へどんどん持論を展開していく。気がつけば宮沢ワールドに引き込まれてしまっていて、何もしたくない、難しいことは考えたくなかったはずなのに、どうでも良いことをめちゃくちゃ考えさせられていることに気がつく。この心地良さは中毒的!(丸川美喜)
神様も舌を巻くポジティブ思考が快晴気分をくれる!『雨の日も、晴れ男』(水野敬也/文藝春秋)
時勢もあり、より外に出にくくなる雨の日はとてもネガティブになってしまう。そんな日には底抜けにポジティブな男が主役の本作が元気をくれる。幼い神様が悪戯で、寝坊、円形脱毛症、解雇、詐欺、火事などさまざまな不運をこの男に与えるが、彼は独特の思考と行動力でその不運を不運と思わず前向きにやり過ごす。人を楽しませることが原動力である彼の行動に笑わされながら、人生、幸せとは何かをシンプルに考えさせてくれる。晴れた日のように前向きになれる物語だ。(坂西宣輝)
雨の向こうからやってくるものを想像する時間『百鬼夜行抄』(今 市子/朝日新聞出版)
私は一言でいうと、この作品に“霧雨”のようなイメージを持っている。妖魔と通じ合う力を持っている大学生・飯島律が、その力ゆえに次々と怪異に巻き込まれていく物語。妖魔との遭遇は不可解で理不尽ながらも、すべては霧雨の向こうのような目に見えぬ世界だからこそ蠱惑的で美しい。読後に残るヒンヤリとした落ち着かなさ。雨のカーテンの中、想像力を駆使して思う存分堪能したい。(遠藤摩利江)
優しい物語が雨の日の憂鬱をやわらげてくれる『鎌倉うずまき案内所』(青山美智子/宝島社)
雨の日は、私にとって憂鬱な日だ。ぐるぐると答えのないネガティブな思考の沼にハマりそうなとき、同じようにうずまきのような悩みをもち、人生に「はぐれて」いる本作の登場人物に救われる。彼らが鎌倉で出会う外巻さん・内巻さんとアンモナイト所長がくれる素敵なヒント。そして彼らの心の中で起きる素敵な変化。ぐるぐると同じところを行き来しているように見えて、少しずつ上に向かっている等身大な人々の物語が、自分に優しく届く。(宗田昌子)
静かな心で、噛み締めるように読み進めたい時代小説。『高瀬庄左衛門御留書』(砂原浩太朗/講談社)
規則正しく雨音が聞こえてくると、集中力が高まる。心が静かになる。静かな心で楽しみたいのは、作品世界の中にも静けさが満ちた本だ。『高瀬庄左衛門御留書』は、下級武士・高瀬庄左衛門を主人公とする時代小説。家族の記憶をたぐり、若き日を追想し、非番になると絵を描きながら、庄左衛門は生きている。藩の主導権をめぐる陰謀のドラマも本作の読みどころだが、それ以上に、作中に流れる静かな時にどうしようもなく心を惹かれて、夢中で読んでしまった。(清水大輔 / ダ・ヴィンチニュース編集長)