『コロナ禍でもナース続けられますか』最前線でウイルスと戦う看護師のエッセイ
公開日:2021/6/9
コロナ禍の今、病院はどのような状況なのか。現役ナースの著者が医療従事者の視点から生々しく描いた作品が発売された。
それがコミックエッセイ、『コロナ禍でもナース続けられますか』(あさひゆり/竹書房)である。これを読んで、改めて病院で働く方たちへ感謝し、感染予防について一層気を引き締めないといけないと感じた。
現役看護師兼マンガ家が語るコロナ禍の病院
2019年12月の報道を皮切りに、コロナウイルス2(SARS-CoV-2)こと、新型コロナウイルスが世界を襲ったのは2020年からだった。
その新型コロナウイルスの感染症(COVID-19)は、感染力が強く、重症化した場合の恐ろしさはもはや書くまでもない。看護師兼マンガ家として作品を発表してきたあさひゆり氏の病院にも新型コロナウイルスは忍び寄る……。
「前書き」にあるが、外出自粛は叫ばれても、病院という特別な場所はいつも通りの機能を求められてきた。そこで働く医療従事者たちはコロナの抗体など持たない生身の人間だ。
いつ自分たちが感染してもおかしくない状況。マスクや防護服やアルコールなどの医療物資不足の問題を抱え、押し寄せる大勢の患者たちに必死に対応してきた。当時、アルコールなどの除菌用品だけでなく、せっけんですら手に入りにくかった日々は、まだ記憶に新しいだろう。その過酷な状況にさらされた看護師たちの、創意工夫やチームワーク、何より、心を奮い立たせて仕事に励むようすが描かれる。
同僚や患者さんの名前などは変えているが、本作は事実をもとに描かれている。本作は彼らの涙ぐましい奮闘の記録なのである。
本当にあった医療従事者差別
どうしても取り上げたいのは「第7話 医療従事者差別」。これを読んで暗澹たる気持ちになった。
ゴミ出し時、お向かいさんに嫌なことを言われたあさひ氏は、人の少ない早朝にゴミ出ししようと決意する。また、彼女の同僚の子供は、せっかく学校が再開したのに友人と一緒に登校しないようす。聞けば「お母さんが病院で働いてるから 僕にはあまり近寄らないように親に言われてるんだって」と独りで登校するようになる。そしてある同僚の夫は、家族に医療従事者がいるという理由で仕事場で机を離され、業務中も接触を煙たがられ、冷たくされる。
これらのエピソードは非常に淡々と描かれているが、読んでいて強い憤りを覚えた。本稿のライターにも、家族が医療従事者である友人が複数いる。皆不安と使命感の狭間で働き、家族への罪悪感まで抱えている。彼ら医療従事者たちには感謝こそすれ、こんなことを言うことも、考えることもありえないだろう。
確かに未知のウイルスゆえ仕方がない部分もあるのかもしれないが、聞けば全国でこのようなことが起きていたそうで、非常に残念なことだ。だがこれもまた現実なのである。
わたしたちに必要なのは感染を防ぐ努力の徹底と感謝
ワクチンが日本に入ってきたのは2021年の春、ようやくの光明だ。
もちろんまだ油断はできない。だから普段の生活の中でも、リモートワークを行う、人ごみがある場所には出かけない、飲食店は早くに閉まるので、外食したくなったり飲食店を応援したりしたいならテイクアウトを使うなど、できる範囲での自粛をしたい。
そしてもちろん、医療に従事している方々へ心から感謝の心を持つことも。
しかし本書にあるような差別は論外としても、各々の家庭の状況や職場の方針、年齢や家族構成などでどうしても予防や対策に差が生じているのは事実……。
それでも、徹底しなければならない。未曽有の危機は、自分たちレベルでできることは、意識と行動で乗り切るしかないのだ。
ワクチンの接種は、日本でも始まっている。あさひ氏の病院にもワクチン専用の冷凍庫が導入されるそうだ。彼らがもう接種を済ませ、笑顔で患者を助けていることを願ってやまない。
文=古林恭