ビジネスモデルの原型は江戸時代にあった! 三井、にんべん、大丸…天才起業家に学ぶ、企業マーケティング

ビジネス

更新日:2021/6/11

400年前なのに最先端! 江戸式マーケ
『400年前なのに最先端! 江戸式マーケ』(川上徹也/文藝春秋)

 目新しいアイデアだったり、顧客を大事にしたマーケティングだったり…さまざまな工夫をこらしてヒットをとばし、ビジネスで成功をおさめようとする気持ちは今も昔も変わらない。コピーライターであり数多くのビジネス書を手がける川上徹也氏の最新作『400年前なのに最先端! 江戸式マーケ』(文藝春秋)によれば、それは江戸時代も同じこと。商人たちが活躍した江戸時代には革新的なビジネスモデルがあふれていたという。

 実は日本には江戸時代に創業し200年以上続く企業が1340社もあり、その割合は全世界における同様の企業の65%を占めるという。いまどきは起業した9割の企業が10年以内に廃業するといわれる中、この多さは圧倒的だ。このところよくSDGs(持続可能な開発目標)が話題になるが、こうした長く続く企業の存在は「持続可能」にするためのお手本ともいうべきもの。本書には三井、大丸、にんべん、山本山、西川などの老舗大企業の繁栄を築いた人物を取り上げているが、彼らの創意工夫から長続きのヒントも見えてくる。

みんなを助ける番傘貸出でPRも!三井越後屋 三井高利

 現在の三井グループの始祖となる三井越後屋の三井高利は、番傘を大量に準備して店頭で貸し出すサービスを実施した。当時は高価でなかなか手が届かなかった傘を、顧客はもちろん通行人にまで貸したというのだから太っ腹。実はその傘には越後屋の大きなロゴマークが入っていたため、町人が「歩く広告塔」となって越後屋の名が江戸に知れ渡ったという。今でいう社会課題解決型の「シェアリングサービス」そのものだが、そこにPRをかねてしまうのだからお見事。

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「商品券」でお客もお店もうれしい! にんべん 六代目高津伊兵衛

 鰹節で知られる「にんべん」を発展させた六代目高津伊兵衛は、今でいう「商品券」ともいうべき銀製の鰹節の形をした「イの切手」を発行し、店頭で同価格の鰹節に引き換えるという画期的なサービスを実施した(のちに紙製に変更)。客に商品代を「前払い」してもらうことで店のキャッシュフローは大幅に改善し、客側にも贈答品につかえるなどメリットも多い。お客とお店が共にwin-winなら新たな取り組みも定着するし、信頼も得て次につながる。

利益優先ではなく、人の道を優先! 大丸 下村彦右衛門正啓

 いまどきの企業は「利益優先」ばかりでは立ちゆかない。大丸百貨店の創業者・下村彦右衛門正啓が掲げた経営理念「先義後利」は、そんな社会を先取りするビジョンといえるだろう。「先義後利」とは「義(人としての正しい道)」をきちんと全うして商売に励めば「利(利益)」は自ずとついてくる、ということ。こうした真摯な姿勢は消費者に長く愛される秘訣かもしれない。

 このほか本書が「江戸式マーケティング」としてわかりやすく紹介する江戸の商売人のアイデアはさまざま。インフルエンサー・マーケティング(平賀源内は売れっ子遊女に贈って「菅原櫛」を流行らせた)やデータベースによる顧客管理(富山の薬売りは帳簿兼顧客名簿である「懸場帳(かけばちょう)」を命の次に大事にした)、原価販売戦略(酒屋兼居酒屋の豊島屋十右衛門は酒を原価で売り、大量の酒樽をリサイクルして儲けるなど表面から見えないことで利益を得た)など、現代人もびっくりな豊富なアイデアにきっと驚くことだろう。歴史を知るつもりで、あるいは話のネタに、気軽に読んでみれば発見があるに違いない。

文=荒井理恵