サッカー・久保建英選手が所属したスペインリーグの強豪チームを変えたのは「教えないスキル」。大人が変わり子どもが成長するための人材育成術とは?

暮らし

公開日:2021/6/17

教えないスキル
『教えないスキル』(佐伯夕利子/小学館)

「教えずに人を伸ばす方法」があるなら、ビジネスパーソンやコーチ、親は皆知りたいはずだ。『教えないスキル』(佐伯夕利子/小学館)はスペインのあるサッカークラブの人材育成術をまとめたもので、これに書かれたメソッドはきっと学びになるだろう。

 副題には「ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術」とある。ビジャレアルはスペイン東部に位置する人口5万の小さな町のサッカークラブチームだ。だが強い。バルセロナやレアル・マドリードなどのビッグクラブと渡り合い、ここ数年はスペインリーグ1部で上位。2021年5月27日にはヨーロッパリーグ(EL)で優勝した。しかも決勝で倒した相手は、イングランドを代表する名門・マンチェスター・ユナイテッドなのだ。

 日本代表の久保建英(くぼたけふさ)選手が所属したクラブとしても知られ、ここで監督を務めたロティーナ氏は2016年から日本のJリーグで指導し続けている。そして著者の佐伯夕利子氏は、スペインサッカーリーグ初の女性監督を経て、このビジャレアルの育成部スタッフに就任。スペインの指導内容や日本のスポーツ指導の問題点を地道に発信し、2020年からJリーグの常勤理事になっている。

 そんな小さな町で、ビッグクラブと渡り合っているビジャレアルは「人を育てる」を掲げて、2014年から指導改革を行ってきた。その真っただ中にいた佐伯氏が、指導の現場で行われていたことを解説したのが本書だ。

advertisement

教えないスキルを習得するために変わるべきは大人

 本書に書かれているのは、「教えずに成長させる教え方」ではない。「大人が変わるための方法論」だ。ビジャレアルはコーチたちがメンタルコーチの手を借りて、内省を行い、考え方を変え、指導を変えていった。2014年からクラブは1部リーグで上位になっているが偶然なのだろうか?

 私には6歳になる子どもがおり、入るサッカークラブを探していた。私はクラブで子どもがプレースキルはもちろん、チームワークなどを学び、勝手に成長するのではないかとどこかで期待していたように思う。なおサッカー好きの親だったらこの言葉を知っていてプレーさせているかもしれない。「サッカーは子どもを大人に、大人を紳士に育てる」。

 だがサッカーをやることで大人になれるとしても、自分で考えられない人間になっては意味がない。たとえ子どもを入れたサッカークラブが、ビジャレアルのような指導をするクラブだったとしても、親が相変わらず家でガミガミ言い、子ども自身の考える機会を奪っていたとしたら……。

 子どもにとっては家庭がすべての基本だ。サッカー以前に、まずは親がビジャレアルのメソッドで変わらなくてはならないと強く感じた。最初に書いたように、コーチ、部下をもつ上司、そして親は読んでみるべき1冊である。

文=古林恭