【次にくるマンガ大賞 2021特別企画】過去の受賞作を振り返り!後宮で起こる事件に小さな“名探偵”が挑む『薬屋のひとりごと』

マンガ

更新日:2021/6/21

 ユーザーから「次にくる」と思うマンガを募集し、そこでノミネートされた作品から投票によって大賞を決める“ユーザー参加型”のマンガ大賞「次にくるマンガ大賞」。7回目となる今年のノミネート作品が出そろい、6月18日(金)から投票がスタートする。ぜひ参加して推しの作品を応援しよう! ドキドキの結果発表を待つ間に、過去の受賞作品を振り返ってみてはいかがだろう。本記事では2019年にコミック部門で第1位を獲得した『薬屋のひとりごと』(日向夏:原作、ねこクラゲ:作画、七緒一綺:構成、しのとうこ:キャラクター原案/スクウェア・エニックス)を紹介!

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 舞台は中世、東洋のとある大国。花街で生まれ育った17歳の少女・猫猫(マオマオ)は人さらいにかどわかされ、後宮の下女として働くことに。ドライな性格の彼女は、おとなしく仕事をこなし、年季があける(解放される)のを待っていた。

 彼女はある日、帝の世継ぎである御子たちが、生まれてまもなく3人死んでいると知る。存命の2人の御子もだんだんと弱ってきており「呪い」ではないかと噂されていた。猫猫はドライだが強い知的好奇心と、理不尽さに対しての怒りの感情を持っており、御子たちの死の真相について考え、調べ始める。

 猫猫は後宮で目立ちたくなかった。そして「その見た目と同じく」隠していることがあった。猫猫の養父は宦官の元医官で、彼女はもちろん文字を読むことができ、薬学に通じていたのだ。結果、御子たちの不審死は、ある白粉(おしろい)の毒性によるものだと見抜き、こっそりと2人の妃へ文をしたためた。1人は死亡したが、もう1人の女児・小鈴(シャオリン)は助かる。

 この文が書かれていたのが、下女の仕事着に使われている布であったため、自他ともに認める美しき高級宦官・壬氏(ジンシ)に、猫猫が文盲でないことと、無知なふりをしていたことを見抜かれてしまう。

 呼び出された彼女は、小鈴の母である玉葉妃(ギョクヨウヒ)に感謝され、侍女に抜擢される。ひっそりと年季明けを待っていたはずの猫猫は、その知識と“性格”を生かすことになり、玉葉妃の毒見役となった。華やかだが、愛と死、嫉妬と裏切り、そして陰謀うずまく後宮で、大なり小なり起こる事件に、彼女の薬学知識が生かされることになった……。

 そして本作のポイントのひとつは、猫猫に強い興味を示す壬氏である。ルックスの良さに興味を持たない猫猫からはそっけなくされて楽しむ様子を見せ、時には本気で落ち込み、「うちの猫」と呼んで完全に嫉妬としか思えない執着心を隠そうともしない。余裕を持っているかと思えば、“20歳を超えているとは思えない”子どもじみた部分も見せる。徐々に、事件がなくても無駄に猫猫に絡んでくるようになる彼に、猫猫は困惑する。ひょうひょうとしているが、謎めいた壬氏の役割と正体とは……。

 そして主人公・猫猫。妓女の娘であり17歳にしては大人びた少女は、強い知識欲を満たすことと年老いた養父のためだけに生きていた。本作には、ある意味国を支える後宮と、欲望を表面化させる花街の対比と類似点がしばしば描かれており、その両方で猫猫は大人の愛憎劇を目の当たりにしていく。それらを彼女はクールに見つめ、分析する。たとえそれが自分の肉親であっても、である。

 さて、この物語は後宮ミステリーだ。小さいと思われていた事件と大きな事件、それらの点と点のつながりに気付く“名探偵”猫猫と壬氏。待ち受ける大きな陰謀とは。彼らの運命やいかに――。

文=古林恭