「苦手科目克服」はやっちゃダメ! 教育専門家に聞く我が子の長所の見つけ方&伸ばし方【インタビュー】
更新日:2021/6/21
口コミで話題となり11刷のロングセラーとなっている『子どもの自己肯定感を高める10の魔法のことば』(集英社)の著者・教育専門家の石田勝紀先生が、このほど新刊『子どもの長所を伸ばす5つの習慣』(集英社)を上梓した。33年にわたって教育に関わる中で石田先生が大切にしてきたのは「自己肯定感を高めながら学ぶ」ということ。新刊は子どもの「長所」に注目した自己肯定感の高め方について考えていくというが、なんとママやパパたちがイライラしていると、子どもの「長所」にそもそも気が付けないというから要チェック。石田先生に気になる本のポイントを聞いてみた。
(取材・文=荒井理恵)
「苦手科目克服」はやっちゃダメ!
――今回の本では「ママのイライラ」がポイントになっていますね。コロナでさらにイライラがたまっていそうなご時世ですが…。
石田勝紀さん(以下:石田):コロナのストレスはすごく大きいですよね。私の主宰するママカフェ(少人数制のカフェスタイル勉強会)でも感じますが、みなさんコロナ前と同じ話題なのに以前より1.5倍は長く話しています。やはり直接会う場が減って雑談が減ったんでしょう。おまけに圧倒的に家族と過ごす時間が増えて、喜ばしい反面イライラも増大しています。その上に学習指導要領が変わるなど学習環境も大きく変化していますから、ただでさえ大変な状況なのに不安ばかりが増大しているところもある。そうなると「なんとかしないと」が「勉強をやらせなきゃ」という義務感になり、親がどんどん余裕をなくしているように思います。
――その「余裕のなさ」が問題を引き起こすわけですね?
石田:「短所が目につく」というママが多いのですが、それはご自身の「心が満たされていない」からなんですよね。そのマインドセットが変わらないことには何も変わりません。だって、もし宝くじが1億円当たったら、家に帰って子どもをしかったりしないでしょ(笑)。人を成長させたいと思うなら、「長所をさらに伸ばす」という戦略が第一。でも余裕がないと「短所是正」から入ってしまうんですよ。だから本でも強くメッセージしています。
よく「苦手科目克服」なんて言いますが、あれはやっちゃいけません。心理学でも「特恵効果」と言われています。もちろん95%くらいできている子なら元から自己肯定感が高いのでやってもいいですが、多くの子たちはそうじゃない。苦手をつつかれたら、「あなたは全体が苦手なんだよ」と言われているのと同じで、自己肯定感が下がってしまいます。
本には「『失敗』と『間違い』を歓迎しよう」とも書いています。間違いをすると誰しも凹みますよね。ただ成長する子はその時間が短くてすぐに「あれ? これなんで違うんだろう。そっかーこうやるんだ!」となる。一方でできない子は失敗すると「もうやりたくない」になってしまう。
――最近、「レジリエンス(心の回復力、適応力)」という言葉も注目を集めていますよね。
石田:大事なのは「(レジリエンスを)強くするにはどうするの?」です。誰だって間違えたら凹みますが、ならば凹まないように前向きに作り上げていったらいい。それこそがレジリエンスを鍛える教育です。そのためにどうするかといえば「考え方を変えさせる」こと。私は子どもたちを指導するときにはいつも「成長するためには間違えないといけないよ。間違いがわかった瞬間に頭がよくなってるんだよ。できるなら塾に来る必要ないよね」と声をかけてきました。「失敗してもいいんだよ」では弱すぎて響かないから「失敗はどんどんしたほうがいいよ」と。だって成長するんですから。そうすると子どもたちは堂々と間違えるし、間違っても「どうやってやるんですか?」と聞いてくる。大事なのは「成長してるのかどうか」であって、「正解したか間違ってるか」ではないんです。
――とっさに前向きな言葉に変換できればいいのですが、カーッとなることもありそうです。
石田:カーッとしているときは一旦、冷めてから「次はこういうふうにしてみよう」と振り返って考えましょう。子どもは自分の失敗なんて自分でわかっていますよ。なのに「だからいったじゃない!」とか善意のつもりで追い打ちをかけたら、まるで脅迫ですよね(笑)。
ママカフェで「他人の子どもだったら、こういう場面でどう声をかけますか?」って聞くと、「我が子と違う声かけをする」と答えがよく返ってきます。だったらそれをやればいいんです。いつもなら怒られるはずなのに怒られないで、やさしい言葉をかけられたら子どもはビビりますよね。日常生活というのは割とパターン化されているので、そのパターンを崩すと子どもにゆさぶりがかかって変わっていきます。
――反対にママ自身が失敗にくよくよしてしまうタイプの場合はどうしたら?
石田:人は「教えることによって教えられる」ものです。自分ができているかどうかは別にして、子どもに教えるときは自分の耳にも教えたことが入ってきますよね。自分が知っていることや子どもに伝えたいことを伝えてあげたら、伝えると同時にそれが自分の戒めにもなるわけです。それで成長していけばいいんですよ。親だって完璧じゃありません。子どもが1歳なら親だって1年生ですから、それでいいんです。親にもわかんないことがあるから、一緒に勉強していこうかというスタンスでいい。
子どもを「監視」していませんか?
――子どもの長所を探そうと思っても、よくわからない場合もありそうです。
石田:「観察」が足りなくて「監視」になっている状態ですね。観察というのはいい面も悪い面も含めて状態をよくみることですから、他者とも比べない「その子の中における良さ(長所)」が絶対に見えてくるものなんです。つい長所というとピアノが上手とか、学校の勉強がらみのスキルをイメージする方が多いですが、それだけではありません。よく気がついて動いてくれるとか、そういうのは最大の長所。「この子の自慢はなんだろう」と誰かと対話すると発見できるかもしれませんよ。
――長所を探すために習い事を多くさせるのはアリですか?
石田:子どものメンタルが重要ですね。自発的に楽しんで行っているものならその子にあっているのでしょうし、そこから長所になるスキルにつながることもあるでしょう。ただ習い事というのは、あくまで「経験の場を広げる」という捉え方がいいと思います。短い期間でやめてしまっても、子どもにしたら経験をしたことになりますし、それが複合的に重なって「経験の幅」になり、将来につながっていくわけです。
――本には「長所を伸ばすためにやりたいことはどんどんやっていい」とありました。とはいえゲーム漬けなどは、やはり抵抗がありますが…。
石田:たとえばゲームにどハマりしてプログラマーや投資家として大成功してる人もいますから一概にアウトでもなかったりします。とはいえゲーム中毒になりそうなら、スクリーンタイムを設定して管理できるようにするなど、決めたルールの枠の中で自由にやっていいとする「牧場型子育て」をするといい。動物園型だと窮屈だけど、かといってサバンナ型で自由にやらせちゃうとどこにいっちゃうかわからない。広めの柵(ルール)の中で自由にやらせる牧場型がいいんです。
――ルールを決めるポイントはありますか?
石田:親から言わずに必ず子どもに「どうしたいか」を先に言わせることです。この順番を間違えると、後々、子どもはうまくいかないときに親の責任にします。まずは子どもに意見を言わせて、親は「なぜこういうルールに決めるか」「何を心配しているのか」という思いを全部話すこと。そうでないと子どもは納得しませんし、そこから折り合いをつけて合意していけばいい。
子どもというのは、特に小学生くらいまでは時間軸を持っていないので先のことがわかりません。そのため親から選択肢を出してあげるのもいいでしょう。AとBと2つあるならそれぞれを選んだ場合のメリットデメリット、さらにやらないという選択肢も用意してあげれば子どもも選べます。ただし「お母さんはこっちがいいと思うんだけど」とか誘導はしないようにしてくださいね。
気になること3つ以内を、とにかく実践!
――いろいろ参考になりまくりです…。本には「(本にある内容を)3つくらいやればいい」とありましたが、今回のお話も同じでしょうか?
石田:同じです! 3つ選んだらあとの情報は捨てていいです。そうしないと赤線引いたり付箋貼ったりして全部やろうとしますから。でも結局、そういう場合はお腹いっぱいになっちゃって何もやらないんですよね。私の目的は「現実を変えること」なので、とにかく実践第一。そのためにもやることは絞って、なんなら1つだっていい。次のタイミングにほかのことを拾えばいいんですから。
実はかつて私自身が欲張りに全部やろうとしていたんですよね。でもできていなかったからこそお話しているわけです。ちなみに本も「3回読む」のがオススメです。1回目は印象しか残らないが2回目は詳細がわかる。そして3回目に読んで残ったのが、あなたに必要なものです。バリエーションは少なくても、深掘りすると見えてくるものがまったく違いますよ。
――「これからの時代に必要な力」とはどんなものだと思われますか?
石田:「楽しむ力」ですね。これまでも成功している人や勉強ができる人というのは「楽しんでいる人」でしたが、その感覚がより大事になっていると思います。今のように個性が強調される中では、学びにしろ仕事にしろ「やらねばならない」とやっていくのか「楽しみながらやっていくのか」というのでは大違いですからね。大変なこともあるでしょうが、それをそのまま「大変だー」と受け止めるとメンタルをやられてしまいます。そうならないためには、意志の力で「どうやったら楽しめるか」という視点に変えていくこと。子育てだって同じですよ。子どもを「監視」するのは辛いけど、「観察」と思ったら楽しくなります。子どもの長所だって、楽しめないと伸ばせないですからね。