大人だって褒められたい!! けどその褒め方はクセが強い…!! 25歳事務員と上司の癒される“ほめコメディー”

マンガ

更新日:2021/6/20

『褒めるひと 褒められるひと』(講談社)
『褒めるひと 褒められるひと』(たけだのぞむ/講談社)

 突然だが、大人になると、褒められることがずいぶん少なくなったなあ…と感じることはないだろうか? 家事も仕事も「できて当たり前」とみなされ、失敗するとすかさず指摘が飛んでくる。大人だって完璧にこなすのは、本当はすごく大変だ。見えない場所で必死に努力している人も多いはず。子どもの頃は、努力した過程だって認めてもらえたのに、大人の世界はなんとも切ないものである。

 たけだのぞむ先生の『褒めるひと 褒められるひと』(講談社)は、そんな大人たちの「褒められたい!!」という気持ちを優しくすくい上げたユーモラスな“ほめコメディー”マンガだ。主人公は、市川詠子・25歳、おもちゃ会社の総務で事務員をしている。資料作成にデータ入力、来客対応にお茶汲み、社内イベントの運営まで幅広い業務をすばやく丁寧にこなしていたが、評価されず、たった1回の失敗で部長にひどく叱責されてしまう。

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褒めるひと 褒められるひと

 詠子は落ち込み、給湯室でつい「褒められたい」と独り言を漏らすのだが、なんとそれを部長の右腕である、ほとんど話したことのない上司の坂東さんが聞いていた。心配した坂東さんは詠子を食事に誘い、いつもと違う優しい顔で彼女のミスを慰める。そうして、ホッとした顔でお礼を述べた詠子に、

「やっぱり君は笑ってるほうがいい 目がゾウみたいで すごくいいよ」

…と、満面の笑みでちょっと変わった褒め言葉を述べたのである――。

褒めるひと 褒められるひと

褒めるひと 褒められるひと

 本作は、上司の坂東さんが、「褒められたい」部下・詠子を「会話が増えたらお互いもっといい仕事ができると思う」という理由で、隙あらば褒めまくるマンガだ。ただ少し褒め方のクセが強く、詠子が部長にお茶をぶちまける失敗をすれば、「失敗は成功の母! エジソンエジソン!!」と励まし、髪の色を変えて出勤すれば、「すごくよく似合ってるよ そのどんぐり色」と、言われた直後、詠子が白目になる褒め言葉を繰り出す。しかし、坂東さんにまったく悪気はなく、詠子も「そうじゃない」「なんか違う」と思いつつ、褒められること自体には喜び、いつもちゃんと周りを見て、仕事の出来だけではなく、部下の気遣いにも気づき、声をかける坂東さんのことを尊敬している。

 坂東さんの褒めるキャンペーンはいよいよ詠子だけにとどまらず、辛辣な物言いで多くの人から恐れられているものの、本当は面倒見が良くて優しい総務の女性・小佐川さんのことを、

「今の堂々とした佇まい まるで金剛力士像みたいでしたよ…!!」

…と、本人の目の前で言ってしまうくらい加速していく。

 コミカルな褒め方を次々に繰り出す上司の坂東さんに、何度もくすくす笑いが止まらず、癒されるのはもちろんのこと、褒められることで、どんどん前向きに仕事に取り組むようになる詠子の姿も印象的だった。

 大人だってたまには褒めてもらいたい。だが、「褒める」という行為は、口先だけで言おうものならすぐに見抜かれてしまうだろうし、相手の素敵な部分を積極的に見つけ、愛情を持って言うとなると、案外難しいのかもしれない。それでも、自分のことを、たとえ遠くからでも、認めてくれる人がひとりでもいると、ものすごく救われるのも本当だ。

 まずは坂東さんを見習って、自分から、誰かを褒めたいと思ったとても温かなマンガである。

文=さゆ