精神科医が「人から嫌われないようにする努力」は99%無駄だと言う理由

暮らし

公開日:2021/7/17

ToDo1 時間とエネルギーをキーマンに集中投下する

 そうはいっても、自分の直属の上司など、自分から関係を変えにくい相手から嫌われると、かなり大変です。一言でいうと「キーマン(鍵となる人物)」です。逆に、自分の直属の部下も、仕事の指示を出していちいち反発されるようでは仕事が進まないので「キーマン」です。

 誰からも嫌われない努力をすることはものすごく大変で、労多く実りが少ないです。そんな時間があるのなら、自分の直属の上司や直属の部下といった大切な人とのコミュニケーションをとり、仲良くなる努力をすべきです。時間は限られているので、「キーマン」とのコミュニケーションに、あなたの時間と精神エネルギーの大部分を注ぎましょう。

 たとえば、あなたの同僚のBさんが、あなたのことを強烈に嫌っていたとしても、あなたの直属の上司との人間関係がうまくいっていて、あなたの仕事をきちんと評価してくれているのなら、Bさんがあなたのことをどう思おうが、それは些細な問題でしかありません。

 イメージとしては、職場の中で重要な人物が3人いるとした場合、その3人との交流に時間とエネルギーを7割注げばいいのです。これを「キーマンの7対3の法則」と呼びましょう。

 他の人たちとは、ボチボチの関係性でいいのです。10人中1人の割合で嫌いな人があなたの周りにいるかもしれませんが、実はそれは些末な問題でしかありません。

 周辺の「嫌いな人」に対しては残り3割の7分の1、つまり4%くらいのエネルギーを費やせば十分なのです。

精神科医が教える ストレスフリー超大全 p.75
(C)meppelestatt

 同じ職場、部署で別チームの人など、直接仕事に関わらない人、机は近いけど仕事では直接絡まない人、滅多に言葉を交わさない人もいるはずです。

 いちいち、そのような人たちのご機嫌をとる必要はありません。精神のエネルギーと時間は限られたものですから、そのエネルギーをどこに費やすのか、それはあなたの重要な人に対して費やすべきです。

「みんなから嫌われない」はやめましょう。キーマンとうまくいっているのなら、それで十分です。

「みんなから嫌われない」をやめて「キーマンとしっかり関係性を築く」。それだけで、人間関係はものすごく楽になります。

 あなたにとってのキーマンは誰か。実際に3人の名前を書いてみましょう。あなたは、この人たちとのコミュニケーションに時間とエネルギーを費やしてください。それ以外の人とのコミュニケーションは、ボチボチでいいのです。

ToDo2 「嫌われない」から「好かれる」にシフトする

 人から嫌われないようにするのは難しいことです。

「相手のご機嫌をとる」
「相手の反感を買わないようにする」
「反発を受けないように自分の意見を言わない」

 これらは、自分を殺すことです。

 自分を前面に出さず、無難に振る舞ってしまうのは、「偽りの自分」を生きることです。自分を抑圧して生きることを長く続けるとストレスになり、結果として、楽しい人生を送れません。

「人から嫌われないようにする」という言葉自体が、非常にネガティブなのです。「嫌われる」と「ない」、2つもネガティブ語が含まれています。

「苦手な数学を克服しよう!」と目標を立てても、モチベーションは上がりません。一方、「数学を得意科目にしよう!」というポジティブな言葉だけの目標なら、「頑張ろう」という気持ちになります。

「人から嫌われないようにする」から「人に好かれるようにする」に、切り替えればいいのです。「嫌われない」と「好かれる」、同じ意味のようですが、実際の行動を比べてみるとかなり違ってきます。

 人に「嫌われない」ためには、「自分の短所を隠す」「人に嫌われることをしない」つまり「自分を押し殺す」ことが必要です。そして、それは「苦しい」ことです。

 人に「好かれる」ためには、「自分の長所を人に見せていく」「人に喜ばれることをする」、つまり「自分を表現する」ことです。そして、それはとても「楽しい」ことです。

 自分の長所を相手に知ってもらい、相手を応援し、貢献し、笑顔で接する。その結果として、それでも相手が自分を嫌うのであれば、そんな人と無理して付き合う必要はまったくないのです。

さらに学びたい人は
嫌われる勇気―自己啓発の源流「アドラー」の教え』(岸見一郎、古賀史健著、ダイヤモンド社)

難易度★★★

 心理学者のアルフレッド・アドラーに、「人から嫌われたくない」と相談したら、どんなアドバイスが返ってくるでしょうか。他人が嫌おうが、何をしようが、「見返りを求めず相手を信頼し、相手に貢献すること」が重要だとこの本では結論づけています。

 見返りを求めない「信頼」と「貢献」。そこで自分が満足できれば、相手から嫌われようが、自分は幸せになれます。見返りを求めるから戦々恐々とし、相手の顔色をうかがおうとします。それは、相手の人生を生きることであり、自分の人生を生きることではありません。

 相手が自分を嫌うのは、相手の課題であり、自分の課題ではないのだから、そこを心配したり、不安になっても意味がありません。自分がコントロールできることは「見返りを求めず相手を信頼し、相手に貢献すること」。その一点です。本書では、自分の考え方を変え、自分が行動するだけで「幸せになれる」というアドラー心理学の本質部分を学べます。

<第7回に続く>

樺沢紫苑(かばさわ・しおん)/精神科医、作家。1991年、札幌医科大学医学部卒。樺沢心理学研究所を設立。YouTube29万人、Facebook11万人、Twitter12万人など、インターネットメディアで圧倒的なフォロワー数を抱える。(各フォロワー数は2021年7月2日時点)