ハトとのやりとりにもはや涙…大人気韓国ドラマ『ヴィンチェンツォ』の、シリアスと笑いの過剰なコントラストにどハマりする!
公開日:2021/6/27
※この記事はドラマの内容を一部含みます。ご了承の上お読みください。
イタリアのマフィアのコンシリエーレ(相談役)である弁護士ヴィンチェンツォ・カサノ(ソン・ジュンギ)を主人公に、壮大な復讐劇を描くドラマ『ヴィンチェンツォ』。Netflixでは『愛の不時着』『梨泰院クラス』に匹敵するともいわれる人気を博すこの作品のおもしろさは、なんといってもその壮大なスケール感と、韓国ドラマ界が生んだ新たな「ダーク・ヒーロー」とでもいうべきヴィンチェンツォの魅力だろう。
韓ドラ名物である「政界や公的機関も抱きこんでやりたい放題の金持ち企業」を、あの手この手で(法廷戦術から時にはイリーガルな方法までを駆使して)やり込めていく彼のやり口と、その大胆で過激な行動とは裏腹に甘いルックス。まさに主人公にふさわしいキャラクターだった。最終回の最後に流れたモノローグ(ネタバレになるのでぜひ本編を観てほしい)に深い納得をしつつ喝采を送ったのは筆者だけではあるまい。
しかし、このドラマは決してキャラ頼みの「よくある」作品ではなかった。ヴィンチェンツォはもちろん、彼と共闘することになる弁護士ホン・チャヨン(チョン・ヨビン)や雑居ビル「クムガ・プラザ」の住人たちをはじめ登場人物たちのキャラクターも衝撃的だったが(それを言ったらマフィアのコンシリエーレを務めるイタリア系韓国人弁護士、という設定がいちばんぶっ飛んでいるのだが)、緻密な伏線をちりばめつつもときにそれを強引にぶん回して超展開に持っていくストーリーも大胆不敵で、そんな個性的なキャラクターをうまく走らせていた。
何よりこのドラマを魅力的に仕立てていたのは、シリアスな展開の中随所に放り込まれてくるギャグやコメディシーンの数々。脚本を担当したのは『キム課長とソ理事』や『グッド・ドクター』のパク・ジェボムだが、筆が乗っていたのだろうか、命を懸けた壮絶なストーリーのかたわらでぶっ込んでくる笑いが回を増すごとにエスカレートしていくのを観るのは痛快だった。
ネタバレになるので詳細はできるだけ避けるようにするが、思い切りざっくり言うと、マフィアの代替わりによってボスと対立したヴィンチェンツォは、韓国のビルに隠された金を手中にして別の場所で生きようと決意する。そうして訪れた問題のビル「クムガ・プラザ」では韓国屈指の大企業による地上げ騒動が起きていて……というのが序盤の物語。住人たちの味方として大企業に立ち向かう弁護士の不審な死、大企業に取り入って便宜を図る弁護士事務所や裁判所などをめぐって、ヴィンチェンツォと敵の対決は激化していく。最初はビルに隠された金を守るために、しかし最後には人々の思いに応えるために、彼は戦う。
そういう「基本構造」だけ取り出せばいたってストレートなダーク・ヒーローものだが、その中にあってまるでジェットコースターのように、このドラマはシリアスと笑いの上下動を繰り返す。たとえば第1話。対立するマフィアのボスのもとに「ビジネス」の交渉に訪れるもあっさり断られたヴィンチェンツォは、報復として飛行機からガソリンを撒き、そのボスが所有するブドウ農場を丸ごと火の海にしてしまう。ライターで火を付けるヴィンチェンツォは氷のような無表情。まさに血も涙もないマフィアの所業である。その映像のスケールも含めて「おお、なんかヘビーなドラマっぽいぞ」と視聴者は思うのだが、その数分後我々はそんなヴィンチェンツォの衝撃の姿を目撃することになる。