ハトとのやりとりにもはや涙…大人気韓国ドラマ『ヴィンチェンツォ』の、シリアスと笑いの過剰なコントラストにどハマりする!

エンタメ

公開日:2021/6/27

ヴィンチェンツォ
Netflixオリジナルシリーズ『ヴィンチェンツォ』独占配信中

 ワケあって隠されていた金を手中にすべく生まれ故郷である韓国に颯爽と降り立った彼だが、空港であっさり白タク詐欺に遭い、薬で眠らされて身包み剥がされ、荒野にほっぽり出されてしまうのだ。高級なイタリアンスーツはボロボロになり、綺麗な顔は泥だらけ。そして血も涙もないマフィアは天に向かって悪し様に叫び、しぶしぶ路線バスで目的地に向かうのである(あまりにボロボロなので心配されておばちゃんにティッシュもらったりしている)。あれ、さっきブドウ畑ひとつ焼き尽くしたり、夜中に襲ってきた殺し屋3人をサクッと返り討ちにしたりしていた人だよね?

 その後も汚れてヨレヨレになったスーツ(繰り返すが高級イタリアンもの)をクリーニングに出したらめちゃくちゃ縮んで戻ってきてしまったり(クリーニング屋の親父は「安物だから」と一刀両断)、まずい料理の味を独特の言い回しで表現したり(「赤ん坊が吐き出した離乳食にワインとだし汁を混ぜた味だ」)、コピー機の角に足をぶつけて悶絶したり、部屋にハトが住み着いたり(そのハトにヴィンチェンツォは「インザーギ」と名前をつける※インザーギの名前は元イタリア代表の元サッカー選手からつけられたのではないかという説が有力)、矢継ぎ早に挿入されてくる笑いの数々。

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 その一方で麻薬成分を含んだ新薬を製造している工場を丸ごと燃やしてしまったり(火責めが好きなんですね)、たまたまそこにあった巻尺1本で敵をやっつけたり、超かっこいい決め台詞を吐いたり(「俺が嫌いなのはマカロニと時間の無駄遣いだ」って言ってみたい!)、とんでもなく痛そうな方法で敵のボスを殺したりする。どっちも「やりすぎ」なのだ。だんだん見ているうちにどっちが本筋かわからなくなって、第15話でヴィンチェンツォの絶体絶命のピンチをインザーギとその仲間たちが救ってくれたときには泣きそうになった。よくよく考えたら最高のギャグシーンなんだけど。

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 どんなにシリアスなサスペンスでも、涙涙のメロドラマでも、どこかしらでホッとするようなコメディ展開を入れてくるのは韓国ドラマの正攻法。1話がそれなりに長いのでその中でちゃんとメリハリをつけてあげないと視聴者が付いてこないのだろうし、感情表現が結構ダイナミックな韓国人の国民性も影響を与えていると思う。その意味で筆者がこれまで「よくできている」と感心したのが「ボイス」シリーズだったが、このドラマの場合その「緊張と弛緩」の両方をさらに過激にしてそのコントラストを強調しているような感がある。

ヴィンチェンツォ
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 その効果は意外なところで出ていて、要するにコメディシーンがとことんコメディをやっていることによって、シリアスなシーンがなおさらかっこよく見えるのである。上でも書いたが、最終的にヴィンチェンツォは敵のボスを倒して勝つ。勝つのだが、そのやり方(ロシアのマフィアに教わったらしい)が本当にエグいのだ。えー、そんなのあり? と思うのだが、あれだけファニーでキュートなヴィンチェンツォの姿を見続けていると、ギャップ萌えでものすごくかっこよく見えてくる。それが狙いかどうかはわからないけど。あと、そういうヴィンチェンツォのおもしろシーンで決まってチェロの独奏曲が流れるのだが、その優雅な響きがまた、いい味を出している。いずれにしても、まだ観ていない人はぜひ。

文=小川智宏