江戸時代に提灯の代わりに使われていた発光生物はな~んだ? 発光するさまざまな生物たちが照らす未来

文芸・カルチャー

公開日:2021/6/26

SUPERサイエンス 生物発光の謎を解く
『SUPERサイエンス 生物発光の謎を解く』(近江谷克裕、三谷恭雄/シーアンドアール研究所)

 中学生の頃、武田泰淳の小説『ひかりごけ』を読んだ。船が難破し、過酷な状況下で船長が船員の遺体を食べたとされる実際の事件をモデルとしたフィクション作品で、当時その内容に衝撃を受けた。それから30年以上が経ち、小説のタイトルにもなっている“ひかりごけ”が自分では光らず「洞窟の中に紛れ込んだ光を反射して光っているように見えたもの」なのだと衝撃の事実を教えてくれたのが、この『SUPERサイエンス 生物発光の謎を解く』(近江谷克裕、三谷 恭雄/シーアンドアール研究所)である。

多様だけど種類の少ない発光生物

 発光生物は進化的な観点から見ると「微生物から魚類まで」にしかおらず、その先の両生類や爬虫類そして鳥類、哺乳類には存在しないそうだ。代表的な発光生物であるホタルはすべての成虫が光るわけではなく、光をコミュニケーションに使っているゲンジボタルやヘイケボタルのような夜行性のホタルがいる一方、昼行性のオバボタルは匂いをコミュニケーションに利用しているという。また、コメツキという昆虫は世界中におよそ1万種もいるのに、光るのは中南米などのごく限られた地域に生息する種だけ。

 これらのことから「生物発光は生物の必須の仕組みではなく、ごく限られた種だけに許された生理機能」と考えられ、やはり特殊な存在であるようだ。そんな発光生物は、発光生物を捕食し食物連鎖で発光物質を獲得することにより自前の発光システムを持つものと、発光生物と共生して発光するものとの2つに大別される。例えば皮膚が発光するカラスザメは、皮膚から発光細菌のたぐいが見つからないため自前で発光している可能性が高く、チョウチンアンコウのメスは頭にあるアンテナのような突起物に発光細菌が共生している。

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生物発光は悪魔の仕業?

 夜行性のホタルが光をコミュニケーションに役立てているというのは、あくまで観察による推測で、他の発光生物についても餌を摂るため、あるいは敵を威嚇するためなどいくつかの仮説があり、光の役割が分からないもののほうが圧倒的に多い。しかし、仕組みについては解明が進んでいるそうだ。アルコールランプの光を、私などの凡人は火がついて燃えているからと考えてしまう。だがそれは、エチルアルコールが酸素と反応して二酸化炭素と水に変化する酸化反応で、生物発光も基本は酸素の関わる「化学反応」だという。その基本となる「ルシフェリン・ルシフェラーゼ反応」は、19世紀の後半にフランス人のデュボアが、ヒカリコメツキから抽出した2種類の物質を研究し発見した。1つは熱に弱い酵素で「ルシフェラーゼ」と名付け、もう1つは熱に強い生体分子で「ルシフェリン」とした。この名称は天使から悪魔になった堕天使の「ルシファー」に由来する。両者は特定の物質のことではなく、その関係は鍵と鍵穴のようなものだという。ホタルイカのルシフェリンは1970年代にはセレンテラジンという物質だと分かったものの、ルシフェラーゼのほうはいまだ不明なままというように特定は容易ではない模様。