「序章」にして「集大成」。すべてを詰め込んだ1stアルバムを語る――富田美憂『Prologue』インタビュー(前編)

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公開日:2021/6/29

富田美憂

 ダ・ヴィンチニュースにて好評連載中のコラム「私が私を見つけるまで」でも再三語ってくれているように、声優・富田美憂にとって、自身名義での音楽活動をスタートしてからおよそ1年半のタイミングで届ける1stアルバムは、とても特別な作品だ。そのタイトルは、「序章」を意味する『Prologue』(6月30日発売)。音楽活動で、培ってきたこと。声優として歩んできた道のりで獲得した経験。そして彼女自身の21年間の人生すべて。万感の想いを詰め込んだ『Prologue』は、歌・楽曲のクオリティの面でも、作品に込められたパッションの面でも、文字通り「力作」という言葉がふさわしい1枚となった。

 今回は、『Prologue』のリリースを機に、10個のテーマに沿って富田美憂が当てはまると感じる楽曲を挙げてもらいながら、アルバムへの熱い気持ちを語ってもらった。常に明確に自身のビジョンを口にする富田美憂のストレートな想いが伝わってくるはずだ。インタビュー前編では、アルバム制作に臨む際の心情について語ってもらっている。

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人生そのものを詰め込めた気がします。「富田美憂の全部を入れることができた作品だな」って

――1stアルバムの『Prologue』、たくさんの人にこれを聴いてほしいと自信を持って届けられる、胸を張って「これが今の私です」と言えるアルバムになったんじゃないですか。

富田:はい。今回の『Prologue』は、CDというよりも“作品”という言葉がしっくりくると思っていて。「努力は裏切らない」っていう言葉がありますけど、「なんで努力は裏切らないという言葉を自分は信じてるんだろう?」と考えると、今回のアルバムがすごくわかりやすい例だな、と思います。作り手がこだわりぬいてかけた時間は、曲に反映されるものだし、お客さんもそれをわかってくださる、感じてくださると思うので、かけてきた時間は絶対に裏切らないだろうな、と思います。

 今回、作詞をしたこともあって、過去の自分を思い出したり、自分と向き合う時間を半年ほどいただけたと思っているんですが、歌もお芝居も、上を見たら自分よりすごい人はあふれるほどにいて、その中でどうやって私を世間に見つけてもらうのかを考えると、気持ちの強さはすごく大事だと思います。ライブがあるとしたら、「誰よりも私が一番してきたぞ」って言えるくらい練習しないといけないと思うけど、そういう努力を見ていてくれる方は絶対にいるんだな」って感じているので、今回のアルバム制作を経て、これからも「努力は裏切らない」という言葉は、自分の中で大切にしていきたいなって思います。

――アルバムの制作を通して、自身が進歩できた、成長できた実感はあるんじゃないですか。

富田:すごくあります。技術的な面でも、少なからず歌は上手くなれてるんじゃないかな、とは思いますけど、気持ち的な変化も大きくて。この1年半で、富田美憂を成長させてくれたのが音楽活動なのかなって思っています。「自分、すごいな」って思うことと、自信を持つことって、全然違うと思うんです。上を見るほど、自分が小さい存在に見えてくるし、両親から「感謝と謙虚でいることは絶対忘れちゃいけないよ」って言われて育ってきたので、まずは自信が持てるようになりたい、と思っていました。こうして音楽活動を始めさせていただいて、自分の考えを発信するのは怖いことでもあるけれど、受け止めてくださる方がいて、「富田さんの声を聞いて頑張れました」「毎日楽しいです」って言ってもらうことで、「自分も人の心を動かせているのかな」って実感することで、少し自分に自信もついてきました。この『Prologue』は、「自分がやりたいことを言ってもいいんだよ」って、教えてくれた作品だなって思います。

――3rdシングルの“Broken Sky”のときも、表現力が広がっている印象があったけど、そういう点でも自信をもってアルバム制作に臨めたんじゃないですか。

富田:たとえばリード曲の“ジレンマ”は、今までの私だったら歌いこなせていなかったと思います。でも、3枚のシングルを通して皆さんにつけていただいた自信のおかげで、「自分はこういう曲も歌えるんだ」と思えるようになりましたし、やってみたいと思う楽曲の種類も増えました。「いち役者でもあるアーティストとしての強みは何だろう?」と考えた時に、アルバムには全10曲ある中で、10通りの富田美憂の表情を見せることができたらいいな、と思ったので、新曲の7曲は1曲1曲、「こういう楽曲が歌いたいです」とリクエストをさせていただきました。

――自ら提示した7曲のテーマは、全部が反映されている?

富田:はい、ほとんどそのままやっていただいています。

――逆に、7曲分も具体的にビジョンが出てきたところに驚くけど(笑)。

富田:ははは。音楽活動をしてきたのは1年半ですけど、自分が得たもの、経験したものは1年半分以上だと思っているので、チャレンジ精神や挑戦欲のようなものが、自分の中に生まれてきたのかなって思います。

――アルバムの制作自体が念願だったことは、ダ・ヴィンチニュースでのコラム連載でも再三書いてくれていたけど、自身の名前で送り出す1stアルバムは、どういうものであるべきだと考えていましたか。

富田:胸を張って、「これが私です」と言えるものにしたい、と思いましたし、ファンの方が自分の家族や友達に、「この人を応援しているんだよ」って、胸を張って誇ってもらえるような作品にしたいと思っていました。そして、いい意味で今までの富田美憂のイメージをちょっと壊してみたいというか、私自身はあえて自分のイメージを作り込みすぎたくないと思っていて。たとえば今回のアルバムだと“片想いはじめました”は、今までの私のイメージからはかけ離れた楽曲だと思います。なので、「私、こういう曲もできますよ!」って皆さんに見せられるアルバムにできたらいいな、と思いました。

――冒頭に、自分と向き合う時間があった、と話してくれたけど、それはどんな時間でしたか。苦しかったのか、楽しかったのか。

富田:苦しい部分は大きかったです。好きなことをやっているはずなのに、しんどくなるときがあって。仕事は楽しいし、自分が望んでこの業界に足を踏み入れたのに、自分よりすごい人を見ると、「自分、全然できてないな」とか、必死になっているからこそ生まれる悔しさをたくさん感じてきたな、と振り返りながら思いました。声優さんの学校に行ったわけでもなく、突然この業界に入って、今までやってきて。もちろん、どんな人に聞いても「しんどいことあったなあ」って答えるとは思うんですけど、自分にもそういうつらい瞬間はたくさんありました。でも、その「しんどいな」「うまくいかないな」を自分なりに乗り越えてきたからこそ、表現できること、今があるなって思って。過去の悩み、暗い気持ちも明るい気持ち、しんどかった思い出も楽しかった思い出も全部含めて私の経験だから、それを嘘偽りなく書こう、と思って、“Letter”の歌詞を書きました。

――今まで重ねてきたいろんなこと、すべてが力になって、このアルバムに入ってるんでしょうね。

富田:はい。言い方は大げさに聞こえるかもしれないですけど、人生そのものを詰め込めた気がします。「富田美憂の全部を入れることができた作品だな」って思います。

――1stアルバムでそこまで断言できるって、なかなかないことだと思いますよ。

富田:それくらいまでやらないとたぶん皆さんに伝わらないし、自信をもって「これが富田美憂だ!」って言えないなって思いました。いろんなアーティストさんがいる中で、「私が一番気持ちは強いんだよ」って言えるくらいこだわりたいと思いましたし、こだわらないとダメだな、とも思っていました。

――なるほど。それは、ずっしり届くでしょう、きっと。

富田:あはは。重いってよく言われます(笑)。

――(笑)制作途中で、「いいアルバムになりそう」と手ごたえを感じられたのはどの段階でしたか。

富田:レコーディングでは、“ジレンマ”を最初に録ったんですが、終わったときに、すごくシンプルな言葉ですけど、コロムビアのディレクターさんが「うまくなったね」って言ってくださったんです。それが、すごく嬉しかったんです! 「歌、上手だね」って、今までに言われてきたことはあるんですけど――。

――確かに、シンプルだけど最上の褒め言葉ですね。

富田:そうなんです。だから、本当に嬉しくて。この業界に入る前から私のことを見てくださって、育ててきてくださっている方なので。「うまくなったね」って言っていただけたのは、今までのシングルの経験のおかげでもあるし、努力が報われた部分もあると思うので、「頑張ってきてよかったな」って思いました。今回のアルバムでは、曲ごとに進化をしていきたいと考えていたので、そういう意味では成長過程、みたいな言葉もしっくりくるかなって思います。

――今まで生きてきた全部がここに入っているから、今の時点での最高ではあるけれども、これからさらに最高なものを生み出せる感触もあるのでは?

富田:そうなんです。だからこそ、タイトルを『Prologue』にしていて。今出せる最上級はこれだけど、次はさらに上に行かなきゃいけないぞって自分を鼓舞する、まだ序章だぞっていう意味でのタイトルでもあるんです。このアルバムは、富田美憂としてのひとつの区切りではありつつ、「次はもっとすごいものを出すよ」っていう気持ちも、皆さんに伝わるといいな、と思います。

――今回の制作を通して、「やっぱり富田美憂はこういう人間だな」って気づいた部分と、「自分にはこういう一面があるんだな」って発見したこと、それぞれ教えてもらえますか。

富田:「これが富田美憂だな」と思ったのは、今回のアルバム制作期間中もお客さんと会えない、目の前でパフォーマンスができない状況が続いている中で、その期間を無駄にしてしまうのはもったいないと思ったので、アルバム制作期間中に初心に返ることをやってみたことがあって。私は、人前に立つことだけではなく、レコーディングもテープオーディションも本番だと思っていて、それぞれの仕事に100点を提示するのが、自分の仕事へのスタンスではあるんですけど、たとえばテープオーディションを受けたときに「死ぬ気でやってたか? 富田」って自分に問いただすと、もちろん一生懸命やってはいましたし、本気で取り組んではいたけど、死ぬ気にはなれていない場面もあったのでは、と思いました。初心に返ってみて、アフレコもレコーディングも、もっとやらなきゃいけないんじゃないかって気づいたので、1曲1曲のレコーディングに時間をかけて、煮詰める作業をしていきました。「気持ちだけなら誰にも負けません」と言い続けられるのも富田美憂だ、と思ったので、そのパッションのようなものは変わらず持っていたいし、私の武器だなって、改めて思いました。

――なるほど。では、新しい側面は?

富田:今回、“かりそめ”のレコーディングをしたときに、今までの楽曲ではパッションや力強さを前面に出していることが多かったんですけど、“かりそめ”に関しては真逆のアプローチをしています。「こんなに全身脱力して歌っていいんですか?」って思うくらい、力を抜いてレコーディングをしていて。実際に歌っているときは「これで大丈夫なのかな?」って思っていたんですけど、完成した音源を聴いたら、すごくいい感じになっていて。必ずしも、力いっぱい歌ったものだけが正解ではないんだなって思ったレコーディングでした。自分の中で、「脱力した富田美憂もアリだな」って思わせてくれた曲です。

“Present Moment”を聴くと、デビューしたてのワクワク感をもらえますし、自分も原点に戻れる、アーティストとしての初心に返れる曲

――ここからは、10個のテーマをこちらから出していくので、富田さん自身が当てはまると思う曲を答えていってもらいたいと思います。①富田美憂をこれから知ってくれる人に、あいさつ代わりに聴いてもらいたい曲。

富田:“Present Moment”です。やっぱりデビュー曲ということが一番ですけど、今“Present Moment”を聴いたときに、デビューしたてのワクワク感をもらえますし、自分も原点に戻れる、アーティストとしての初心に返れる曲です。この“Present Moment”を背負って、「今からデビューします!」って皆さんに提示した楽曲でもありますし。私のラジオに、で作詞の金子麻友美さんがゲストで来てくださったことがあって、“プレモメ”を作った経緯をたっぷり聞けたんですけど、金子さん的にもデビューする富田美憂というひとりのアーティストへのプレゼントであり、楽曲を作ったときに、5年後の富田美憂が大きな会場で歌っている姿を想像して書きましたって、言ってくださったんです。今の富田美憂だけじゃなく、数年後の富田美憂も見据えて書いてくださっているお話を聞いたときに、私にとっては何年経っても原点、始まりの楽曲であることはずっと変わりないんだろうな、と思いました。だからこそ、初めて富田美憂を知ってもらったときに、「富田美憂はこれだよ」って皆さんに胸を張って提示できる1曲だなって思います。

――②「こういう曲が歌えて嬉しい!」と、受け取って思わずテンションが上がった曲。

富田:“片思いはじめました”です。自分の中で、歌の引き出しを増やしていくことが理想なんですけど、この曲のようなピュアでかわいらしい声の感じも、武器として持っていた引き出しではあるものの、今までのシングルでは出してこなかった一面でした。なので、ちょっと満を持して(笑)、「私、実はこういう曲もできました!」って出せる1曲だと思いましたし、曲をいただいたときも、「やっとこういう曲が歌える!」みたいな嬉しさもありました。

――③制作のとき、クリエイターやスタッフと最もディスカッションを重ねた曲。

富田:わりとどの曲もディスカッションを重ねてはいたんですけど、“Letter”ですね。作家さんが作った歌詞を事前にいただいて、作家さんの意見も聞きながら私自身がどうやって味つけをしていくか、がシンガー・富田美憂としての仕事だと思ってきたんですけど、“Letter”は私自身が作詞しているので、この曲の答えを知っているのが私しかいないわけですよね。だから、自分が出したもの全部が正解といえば正解になるんですけど、逆にそれが難しくて。その意味で、一番相談した曲だったかもしれません。

――④シンガーとしての自身の進歩・成長を実感できた、あるいは示せたと思う曲。

富田:“かりそめ”です。新境地を自分に見つけさせてくれた楽曲だなって思いましたし、「気持ちを伝えるぞ!」っていう力強さが正解だと思っていたけど、別の正解の出し方もあることを教えてくれた曲でもあります。実際にこの曲にビックリしてくださっている方がたくさんいて、アーティストとして歌える歌の幅が広がったので、私自身はこの“かりそめ”でひとつステップアップできたなって感じています。

――⑤実は難易度が高くて、レコーディングで最も苦戦した曲。そしてそれを、どのように乗り越えたか。

富田:“Run Alone!”です。もう、間違いなく一番難しくて(笑)。たぶんレコーディングも一番時間かかってると思うんですけど。

――カッコいい曲ですね。

富田:カッコいいですよね。カッコいいんですけど、楽曲をいただいた瞬間に、「うわ、カッコいいけどこれ難しいぞ、どうしよう」って思いました。そもそも楽曲の難易度的にも、今までの私が歌ってきた曲よりちょっと上のレベルなんです。だから、「これが歌えたら、間違いなく進化はできるな」って思いつつ、ラップもコーラスも歌も全部難しい上に、ぎゅっと凝縮されていて。

――これでもか、と要素が詰まっている曲。

富田:そうなんです。だから、うまく歌うのがすごく難しいと思ってたんですけど、“Run Alone!”というタイトルなので「独走状態」みたいな言葉がしっくりくるなって思って。やりたいことがあって、無我夢中になっているときに、まわりが全然見えなくなってしまう感じが歌詞の中に出ていると思ったので、「難しい曲をうまく歌いこなすぞ」ではなく、多少荒々しくなってもいいから、強気な気持ちを出せたら曲としてカッコよくなるんじゃないかなって思いました。ラップもテイクを重ねて、納得がいくまで何度も録ったので、楽曲が完成したときに、「難しかったけど、繰り返しやってよかったな」って思える完成度にはなったなって思いました。「このアルバムの中で、一番チャレンジした曲は?」と聞かれたら、“Run Alone!”を挙げたくなっちゃいます。

後編へ続く 後編は6月30日公開予定です

取材・文=清水大輔