礼儀と壁/前島亜美「まごころコトバ」⑥
公開日:2021/7/2
アイドル活動を経て、声優や舞台を中心に活躍中の前島亜美さん。常にまっすぐ生きる彼女が、何を思い、感じ、触れてきたのか。心にあるコトバを真心(まごころ)こめて紡ぎます。
素敵な大人の定義として私が考えているのは“言葉遣いの丁寧さ”だ。
なにを言葉にして、なにを言葉にしないかに人間性や品性があらわれると感じ、自分の知らなかった言葉や柔らかい表現に触れると、その人の人生の深みを感じられる。そんな瞬間が好きだ。
事務所に入って初めて教わったことは“挨拶”と“礼儀”だったと思う。
コミュニケーションをとることの大切さ、感謝を述べることの大切さは全て最初のマネージャーさんに教えていただいた。自分の立場と周りの環境を自覚し、どういったタイミングで、どういう言葉を伝えるべきなのか。
12歳でそれらを学んだことや、幼少期に習った空手の礼儀作法が身についたことは、私の“人としての生き方”に大きく影響があった。
発言をする際は、必ず人前に立つ身として言葉を選ばなくてはいけない。気を抜いたひと言で悪い印象を与えてしまうかもしれない、急に発言を振られた時も、その場に適した言葉を選べるようにと、常に心がけていた。
芸能活動を重ね、感謝を伝える機会が増えてくると、どうしても一般的な言葉を選びがちだが、自分の思いを細かく分析して真っ直ぐ言葉に落とし込み“まごころコトバ”を届ければ、きちんと自分の思いが誰かの心に届くということがわかり、とても嬉しかった。
自分の本当の声を。そう考えていく中で“話すコトバを選ぶ”“書くコトバを選ぶ”のも少しずつ好きになっていった。
そんな言葉へのこだわりをもつ自分を好きでいる一方で、悩みを抱えている面もある。
「人との距離を縮めるのが上手くない」ということ。前々回と前回で初対面の方へのパーソナルスペースについて書いたが、仕事で共演した尊敬する先輩や同世代の方々へも、私は上手く近づくことができない。
挨拶と現場での仕事の会話はなんの問題もないのだが、そこからの一歩、親密になっていくというのが難しい。
原因として考えるのは“礼儀”と“言葉遣い”だと感じている。
基本的に他者に迷惑をかけないように生きたい、自分の仕事は自分で解決したいと思っているため、尊敬する先輩へは特に失礼のないように話をしなければと思ってしまう。
いわゆる“懐に飛び込む”ということがなかなかできない。
同世代の方へ対しても“敬語を外すタイミング”というものがわからず、仕事でご一緒してから期間が空き、再会した時に、どう距離感を掴めば良いのか迷ってしまうことが多い。
現場によっては「あなたは一枚壁があるよね」と言われることも少なくない。丁寧な言葉遣いと自分なりの礼儀というものが、人によっては壁であり本音を隠しているように感じるようだ。
この世界は人間性がとても大切だと感じる。どこかが欠けていても、それが個性であり愛嬌であり才能で、強みだ。
人の輪に飛び込める才能を羨み、本音とはなんだろう、壁と礼儀の違いはなんだろうと悩んだ時期もあったが、無理をして誰かに近づいたりなにかを発信したりしても、自分自身が納得できず、良いことがないように感じた。
きっと、これも私の個性なんだ、と最近は感じている。言葉の感性を保ったままに、いつか好きだと感じる誰かの懐に飛び込める日がきたらいいなと思う。
まえしま・あみ
1997年11月22日生まれ、埼玉県出身。2010年にアイドルグループのメンバーとしてデビュー。2017年にグループを卒業し、舞台やバラエティ番組などで活躍。またアプリゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(2017年)でメインキャストの声を演じ、以後声優としても活動中。また、9月から東京と大阪で上演される、舞台『ネバー・ザ・シナー-魅かれ合う狂気』に出演が決定している。
Twitter:@_maeshima_ami
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