個性的なキャラが織りなす韓国ドラマ屈指の重厚サスペンス『秘密の森』がもつ4つの魅力とは?

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公開日:2021/7/3

秘密の森
『秘密の森』シーズン1配信中、シーズン2Netflixで独占配信中

※この記事はドラマの内容を一部含みます。ご了承の上お読みください。

 近年の韓国ドラマにおける名作サスペンスといえば、何をおいてもまずは「秘密の森」シリーズである。感情を失った優秀な検事と、人情味あふれる現場の刑事が軋轢を乗り越えながら韓国検察や警察に潜む巨悪に挑んでいく……という、『踊る大捜査線』や『相棒』といった日本の刑事モノにも通じるストーリーと、その主要人物のひとりを日本でも馴染みのあるスター女優、ぺ・ドゥナが演じているという親しみやすさ。本国のみならずここ日本でヒットする素地ははじめから揃っていたともいえるが、それを差し置いても、恋愛ドラマや時代劇とはまったく違う、とてもモダンで斬新なサスペンスドラマとして、画期的な傑作であると思う。

 2017年にtvNで放映がスタートした『秘密の森』は、主人公である西部検察の検事ファン・シモク(チョ・スンウ)と龍山署の刑事ハン・ヨジン(ぺ・ドゥナ)の出会いと、ふたりを巻き込んで広がっていく巨大な汚職事件が描かれたシーズン1が完結したあと、3年のインターバルを経てシーズン2が制作された。そのシーズン2ではシモクが属する検察とヨジンが属する警察の対立構造が大きなテーマとなり、ふたりはそれぞれの立場でときに反目し合いながらも協力し、些細な事件から始まった巨大な陰謀を暴き出していった。設定もストーリーもとにかく重厚、勧善懲悪では片付けられない深さをもったドラマである。そんな『秘密の森』の魅力とは何か。筆者が考える4つのテーマで、改めて迫ってみたい。

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秘密の森
『秘密の森』シーズン1配信中、シーズン2Netflixで独占配信中

①韓国の検察や警察のリアルな描写

 韓国における検察といえばとにかく強権をもった司法機関として知られているが、それはこのドラマでも同様。その強権ゆえに大企業から政治家まで実力者たちと癒着し便宜を図っている様子が作中では描かれている。一方現場の警察はそんな検察に敵愾心をむき出しにしながら、こちらはこちらでさまざまな問題を抱えている。署内でのいじめ、事件の揉み消しや風俗店からのピンハネ……どこまでがフィクションでどこからがノンフィクションなのか、当然筆者にはわかるべくもないが、とにかくその描写のすべてがリアルなのだ。

『踊る大捜査線』が初めて放送されたとき、それまでのカーチェイスをして銃をぶっ放す刑事像とは正反対の描写に多くの人々が驚いたものだが、それに近い感覚がこのドラマにはある。検事の部屋は書類山積み、現場に行くよりも調書を読み込むことで事件を捜査する。刑事はかっこいいスーツではなく動きやすい作業服やポロシャツ姿、事件についての議論中でも昼食の出前を取ることは忘れない。どちらも巨大な組織の中での上下関係や指揮系統にはきわめて忠実で、組織を壊しそうな不穏分子には排除の論理が働く……そんな「ありそう」な描写の数々が、このドラマをよりスリリングに見せてくれる。

②超然とした検事と人間的な刑事によるバディの絶妙さ

 ファン・シモクは子どもの頃に脳の一部を切除する手術を受けたことによって、感情表現を失っているという設定。表情少ないシモクを演じるチョ・スンウの名演技は百想芸術大賞でTV部門の最優秀演技賞を受賞したほどだ。その冷徹なまでの性格と研ぎ澄まされた洞察力、どんな権力にも屈しない正義が、巨悪に立ち向かう上での大きな武器となる(そのためにいくつかの悲劇も生んでしまうのだが)。一方、彼とバディを組むことになるハン・ヨジンはシモクとはすべてにおいて対照的な性格の持ち主。体を張って犯人を追いかける現場一筋の刑事だ。被害者の家族を自分の家に住まわせたりもする人情派で、そんなふたりが徐々に心を通わせていく様子もこのドラマでは描かれる。感情的になることなどまったくと言っていいほどなかったシモクが、ヨジンとともに事件を追う中で笑顔を見せたり怒りに震えたりするようになっていく……その変化もストーリーの重要なポイントになっている。ちなみにヨジンはマンガ好きで、日本のキャラクターについても詳しい。劇中では手塚治虫にまつわるエピソードも語られる。

秘密の森
『秘密の森』シーズン1配信中、シーズン2Netflixで独占配信中

③淡々とした語り口と演出

 そんなシモクが主人公であることも手伝って、ドラマの基調はきわめてフラット。派手なアクションシーンもあるが、総じて淡々と物語は進んでいく。そのリズムも、権力の奥で蠢く巨大な悪の存在を浮かび上がらせるようで末恐ろしい。韓国ドラマらしい起伏に富んだストーリーテリングこそないものの、そのぶん登場人物それぞれの心情が丁寧に描かれている印象で、それが結果として物語の厚みと奥行きを生んでいるのだろう。

④張り巡らされた伏線と視聴者を驚かせるミスリード

 事件モノのサスペンスドラマなので、もちろんストーリーの主眼は犯人の正体、そして事件の背景ということになるのだが、そこにたどり着くまでの伏線の配置の仕方が巧妙なのもこのドラマの特徴だろう。よく練られた展開、後々振り返ったときに「そういうことだったのか!」と視聴者を驚かせるセリフの数々、そして次々と入れ替わっていく容疑者たち。いくつもの思惑と策略が入り組んだ事件を、シモクとヨジンは懸命に、ひとつずつ解きほぐしていく。たとえばシーズン1ではかなり意外な人物が黒幕だった(しかもその動機にはさらなる複雑な事情があった)りと、終盤まで真相が見えない展開で二重三重の罠が視聴者を釘付けにする。シーズン2ではそのミステリー的要素がより強化され、事件はさらに複雑怪奇な展開を見せる。導き出される答えは二転三転し、意外な真相にたどり着くのだ。ちょっと画面から目を離したら途端に迷宮入り。このドラマが中毒者を続々と生み出した理由だ。

秘密の森
『秘密の森』シーズン1配信中、シーズン2Netflixで独占配信中

 シーズン2の事件は最終回で一応の解決を見たものの、シリーズを通して事件の裏で暗躍する大企業グループ「ハンジョ」との因縁など、決着のついていない問題も依然として残ったまま。新たなシーズンが期待されるところだが、シーズン1が2017年、そしてシーズン2が制作されたのがそれから3年後の2020年ということを考えれば、我々がシモクとヨジンに再会するまでにはもう少し時間がかかるのかもしれない。今のうちに2つのシーズンをチェックして、その魅力にハマっておいてもいいかもしれない。

文=小川智宏